ラチとらいおん

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これはネコパパが小学校4年生の時、学校の図書館で読みました。

ネコパパの行ってた小学校は文部省の図書館教育の指定校ただったことがあり、当時としては充実していたんですね。なんと、専任司書教諭もいたんです。これは後になって気づいたことですけれど。
それで当時、福音館から出ていた「世界傑作絵本シリーズ」は全部揃えていて、カウンターの背に表紙を向けて飾られていたんです。そこに確かにあったと思うのは『シナの5人きょうだい』『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』『はたらきもののじょせつしゃけいてぃー』それに『アンディとらいおん』でした。それと一緒に、『ラチとらいおん』が並んでいたかどうかまでは覚えていないんだけれど、タイトルが似ていて姉妹編(なんて言葉は知らなかったと思うけれど)なのかな、と思った記憶があります。

でも、タイトルが似ていても中身は全然違うんです。

ジェームズ・ドハーティ描く『アンディ…』のライオンは、サーカスから逃げ出した本物で、絵も堂々たるものですが、『ラチ』の方は何だか赤いぬいぐるみみたい。
でもね。これで結構、パワーもあって、頼りにもなるんです。

さて、おはなしは、団地のような集合住宅にすんでいるラチが主人公。
「せかいじゅうでいちばんよわむし」と紹介されます。飛行士になりたいという夢はもっているのに。犬を見ると逃げ出すし、暗い部屋には入れないし。
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友だちさえ、こわいので、みんなもラチをばかにして遊んでくれず…ラチは1日中、絵本をみてばかり。
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そんなラチが一番好きなのは、黄色い大きなライオンの絵でした。
そんなある朝、ベッドから起きると…
小さな、あかいライオンがいました。
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ちっぽけなライオンをみてラチが笑うと、ライオンはおこってラチにとびかかって、押し倒してしまいます。
そして「ぼくがつよくしてやるよ」と請け合います。
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ライオンはラチにたいそうを教えたり、女の子をたすけて、こわい犬を追い払う励ましをしたり、ラチに付き添って、となりの真っ暗な部屋にあるクレヨンを、取ってこさせるたり。
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こうしてだんだん強くなったラチは、とうとうすもうでライオンを負かします。
そしてついに、ラチの本当の力がためされる事件が起こります…

これは「自分だけの空想の友達」によって、ラチが自分を確立する話、とみることができます。
ラチがほかの子どもたちとは違う、「つなぎの赤ちゃん服」を着ていることも、幼児期の殻をやぶれない、ラチの心象をあらわしているのでしょうし、
かわいらしい、赤いライオンもまた「自分の殻を割りたいラチ」の分身なのでしょう。軽く、さらっとしたタッチと、こまごまとよく動くライオンのキャラクターは、大人にはかわいらしく、子どもには安心感のあるものとして受け止められる。絵本のちょっと小ぶりのサイズも、自分で何度もながめるのに、ぴったりです。
大勢に読み聞かせするには、ちょっと苦労しそうですけれど。

原書出版は1961年。
驚くのは、ラチの境遇の現代的なところ。
「自宅」というにはほど遠い、集合住宅の一室に住み、子ども集団からも孤立して、周囲におびえ、絵本に読みふけっているラチ。
共稼ぎなのかどうなのか、両親の姿はついに、一度も出てきません。
考えてみるまでもなく、これって、現代の子どもが置かれた状況そのものですよね。
ラチはライオンの助けを借りてそこから抜け出し「通過儀礼」としてのお別れの日がやってくるのですが、それができたのは、ラチのほとんど唯一の「財産」である絵本の力が大きかったのだと感じます。
でも現代には、ラチのようにはうまく抜け出せないでいる「子どもたち」もいる。むしろ、そちらの方が普通になりつつある。
だとしたら、このような絵本を必要としている「ラチ」たちは、多いのではないでしょうか。

作者マレーク・ベロニカは1937年生まれ。84歳で健在です。
彼女はインタビューで、当時のハンガリーの子どもの本は「文章だけ」または「絵だけ」のものしかなく「絵本」のような形態で創作したのは自分がはじめてだと述べています。
そう考えると、作中に出てくる「ラチがみてばかり」いた絵本というのは、文字のない、絵だけの本ということになります。あらためて、該当の第4場面をみると、確かにそうらしい。タイトルとか、題目のような文字はあるみたいですけれど。
だとしたら、ラチの「強いライオン」のイメージにはもともと「物語」はなかったのかもしれません。だからこそ想像力が掻き立てられて、赤い小さなライオンにいのちが生まれたとも考えられます。

ベロニカは人形劇団の出身で、「ラチとらいおん」の描かれる少し前の1956年に、ベラ・バルトーク作曲バレエ「かかし王子」人形劇版の王女役も演じたそうです。
そういえは、この絵のタッチやキャラクターは、どことなく人形劇のそれを思わせるところもあります。「ことば」と「絵」が結びつき、ストーリーを物語る「絵本」を生み出した源泉は、人形劇だったのかもしれません。


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コメント

コメント(2)
読みたい絵本なのに
学校司書だった頃、読み聞かせしたくても、小さくて「見えな~い」と言われるので、諦めていた絵本の一つです。
さて、〇〇指定校の話ですが、人も予算も付いて指定期間は良いのですが、指定を外れると、落差が大きいのよね涙。五輪の数年前、当時の勤務先が五輪絡みの指定校になり、体育大卒の講師が1年間雇用されました。その指導を受けられた子供たちには貴重な経験でしたが、1年後に入学してくる子供たちからは誰も得られない教育体験って、ちょっと解せませんでした^^;)

ユキ

2022/08/07 URL 編集返信

yositaka
Re:読みたい絵本なのに
ユキさん
なるほど、確かに小さいですね。孫に読む分には問題なかったけれども…最近はやりの「超大型絵本」に、この作品は選ばれていないのですかね。赤いライオンは拡大しても可愛いと思いのすよ。

「指定校明け」の問題は、現役時代私も何度も経験しました。「研究指定校は後荒れる」ともいわれました。期間中は予算が出るので、使い切る責任も生まれ、これまた教員には荷が重いものでした。でも私などは結構前向きに「一点集中の勉強ができる」と考えて取り組んだ記憶があります。

yositaka

2022/08/07 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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