亡き友と聴いた曲④くるみ割り人形


12月になると思い出す音楽のひとつが、チャイコフスキーの『くるみ割り人形』。
クリスマスを題材にしたバレエ音楽である。
これも、亡き友の自宅ではじめて「全曲」を耳にしたもの。
季節は、やはり冬の頃だっただろうか。

自慢げに見せてくれたダブル・ジャケットの二枚組LPアルバムには、ピンクも鮮やかなイラストが描かれていて、聴く前から音楽の楽しさ、多彩さが伝わってくる。
描いたのは、EMI盤のジャケットをいくつも手がけたD・エレスカス。

この曲のレコードは、中学生のとき買った17センチ盤の組曲(オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団)を持っていた。
親しみやすい、可愛らしい小品がそろっている。チェレスタやハープをはじめとするソロ楽器の活躍もおもしろい。でも、繰り返し聴きたいと思うほどの深みはないな…。
ところが君は、思い入れがあるらしかった。「これは全曲聴かないとね」としきりに言うのだ。
そこで聴かせてもらった。組曲と全曲とはずいぶん違う音楽だった。
曲の構成は以下の通り。

序曲
第1幕
第1番:クリスマス・ツリー
第2番:行進曲
第3番:子供たちのギャロップと新しいお客の登場
第4番:踊りと情景(ドロッセルマイヤーの贈り物)
第5番:情景とグロスファーターの踊り
第6番:情景(クララとくるみ割り人形)
第7番:情景(くるみ割り人形とねずみの王様)
第8番:情景(冬の松林で)
第9番:雪のワルツ

第2幕
第10番:情景(砂糖の山の魔法の城)
第11番:情景(クララと王子)
第12番:ディヴェルティスマン a.チョコレート(スペインの踊り)
第12番:ディヴェルティスマン b.コーヒー(アラビアの踊り)
第12番:ディヴェルティスマン c.お茶(中国の踊り)
第12番:ディヴェルティスマン d.トレパーク(ロシアの踊り)
第12番:ディヴェルティスマン e.あし笛の踊り
第12番:ディヴェルティスマン f.ジゴーニュおばさんとピエロ
第13番:花のワルツ
第14番:パ・ド・ドゥ a.序奏
第14番:パ・ド・ドゥ b.ヴァリアシオン I (タランテラ)
第14番:パ・ド・ドゥ c.ヴァリアシオン II (こんぺい糖の精の踊り)
第14番:パ・ド・ドゥ d.コーダ
第15番:終りのワルツと大詰め

演奏時間は、約100分!

組曲に選ばれたのは、16曲中のわずか4曲で、序曲、第2番、第12番の一部、第13番。巨匠指揮者ムラヴィンスキーは、この曲を演奏会しばしば取り上げたが、組曲に含まれたものはすべて省略していた。
真髄は、組曲以外の曲にあり、なのである。

最も印象的だったのは、第一幕の後半。ねずみたちと兵隊人形の戦闘シーンから、少女クララがくるみ割り人形にいざなわれてお菓子の国に入っていこうとする長丁場。
緊迫した戦闘の音楽も見事だが、頂点は第7曲から第9曲にかけての音楽。現実から非現実への「通路」を描く場面である。
第9曲「雪のワルツ」は、雪片の飛び交う中でどこからともなく聞こえてくる精霊の歌だ。ここで突然導入される女声合唱の効果がすばらしい。バレエ音楽の中で初めて合唱が使われた瞬間だ。
華やかで聴き栄えがする『花のワルツ』の方がより有名だが、すぐ飽きる。しかし「雪のワルツ」はいつ聴いても、何度聴いても新鮮さを失わない、名曲である。
第2幕は、どこをとっても愉しい。
しかし、やはり「花のワルツ」以降がいい。第14曲は、交響曲第6番「悲愴」を思わせる壮大な音楽だ。ハッピーエンドの子ども向きバレエなのに、不思議に哀しい。
「悲愴」とともに、作曲者晩年の哀感があらわれているのだろうか。

チャイコフスキー:バレエ音楽「くるみ割り人形」(全曲)
指揮:アンドレ・プレヴィン
ロンドン交響楽団
1972年録音 EMI

君はこの演奏がことのほか気に入っていた。だから、何度も聴かせてもらった。
「雪のワルツ」を聴くと、決まって君の悦に入った表情が目に浮かぶのだ。
これからも、きっとそうだろう。
今年のクリスマスも、きっと。

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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