亡き友と聴いた曲③春の祭典


友人宅を訪ねて、最初に聞かせてもらった曲ではないだろうか。
「この曲、知らないの?そりゃまずいよ」
などといいながら、君はなんとも不思議なジャケットからレコードを取り出した。
九つに分割されたイラストに、雲上から植物のような、不可思議なものが生成していくイメージが描かれている。

最初に聞こえてきたのはファゴットの高音のロングトーン。
続く低音の地響きのような鼓動。たちまち部屋はすさまじいリズムの連続に、飲み込まれ、揺れ動くかのようだった。

レコードがB面に入ると、しばらくは音楽は沈潜する。
ドビュッシーを思わせる、薄墨色の、しかし何事かをはらんだような胎動の音楽。やがて再びリズムが活気付き、こんどは狂気にも似た、めまぐるしく変化する音の奔流が押し寄せ、のたうち、そして突如、叩きつけるような不協和音で終結する。

なんというすごい音楽!

ストラヴィンスキー
バレエ音楽『春の祭典』
ピエール・ブーレーズ指揮 クリーヴランド管弦楽団
録音:1969年7月28日 場所:Severance Hall,Cleveland
CBSソニー 現ソニークラシカル

以後、たくさんの演奏でこの曲を聴くことになる。
いつ、どのような演奏で聴いても、この音楽の爆発的な凄みは伝わってきた。が、一方で多様な解釈を許す曲でもあった。

ゆったりしたテンポで、重々しく進むレナード・バーンスタイン指揮ロンドン交響楽団。
鋭く若々しいエネルギーが沸騰するマイケル・ティルソン=トーマス指揮ボストン交響楽団。
斬新さを失わないままに、香るような管楽器の音色を散りばめていくピエール・モントゥー指揮パリ音楽院管弦楽団。
暗く重い響きの中から、後に行くほど熱気を増していくコリン・ディヴィス指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団…

ブーレーズ二度目の録音であるこの68年盤は、それらの中にあって、明確で曇りのない音と強烈な迫力を放っている。しかし反面、この指揮者の演奏に共通する、分析的な視線、曲に距離を置いて、コントロールルームから音楽を操っているような気分に違和感があったのも確かだった。
心の奥底まで到達しない音楽といったらいいだろうか。

冷たく、強烈だったからこそ、忘れがたい体験になったのだろう。
友はこの盤がお気に入りだったようで、
新マスターの再発盤が出るや、すぐに買いなおしていた。
「同じ盤を買いなおすという生活スタイル」
これもまた、今も昔も貧乏性の私からは考えられないものだった。かっこいいと思った。

さて、私はこの音楽が好きだろうか…
何かの機会に聴けば「おっ、ハルサイだ」と、楽しむものの、自分から進んで聴こうとすることは、ついぞなくなったな。
君は、その後この曲にどう接していったのだろうか。
いつまでも、心に鳴る音楽だったのか、それとも…

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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