寒い日に聴くシベリウス。

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アンネ=ゾフィー・ムター  Anne-Sophie Mutter (ヴァイオリン)
シュターツカペレ・ドレスデン  Dresden Staatskapelle
アンドレ・プレヴィン  André Previn (指揮)
録音:1995年5月 ドレスデン、ルカ教会 
ドイツ・グラモフォン

シベリウスの音楽をまとめて聴いた。
シベリウスというと、中学校の音楽の時間で「後期ロマン派・国民楽派」に属する作曲家と教えられたけれど、彼は1957年まで存命で、第2番以降の交響曲は、どれも20世紀に入ってからの作曲である。しかし1920年代後半には作曲活動をせず山荘に隠遁。立派なオーディオ装置でたくさんの自作演奏のレコードを聴いていた。ヴァイオリンではカミラ・ウィックス、指揮者ではユージン・オーマンディ、ヘルベルト・フォン・カラヤンを高く評価した。

彼の音楽は冬の季節によく似合う。自然を描いた音楽、というより、自然の響かせる音楽。
でもその自然は、人を温かく包むものではなく、厳しく拒絶するような、クールで抽象的な姿をしている。彼の音楽を聴くのは、他では得られない覚醒感のようなものがあって、好きだ。
ヴァイオリン協奏曲は1903年、交響曲第2番と第3番の間に描かれ、すでに個性濃厚。けれど3番以降の交響曲に比べると、透徹さのなかにも、親しみやすい情感や熱情のほとばしりがある。ネコパパの中ではベルク、プロコフィエフの1番と並ぶ、20世紀の3大ヴァイオリン協奏曲のひとつと思う。

レコードはたくさんあるけれど、今回はムター。
透徹感よりも、情念の割合の高い「濃い」ヴァイオリンを聴かせる人だが、ここでは彼女がしばしば聴かせる独特の「自在な」フレージングを避けて、ひたすらストレートな弾き方で勝負しているのがいい。プレヴィンの指揮も、繊細で香り立つような音色でソリストを引き立てつつ、間一髪のところで逸脱を回避させる。余白に入った2曲のセレナードとユーモレスクがまた美しく、いつまでも聴いていたくなる。シベリウスには、こうしたまだあまり知られない、隠れた名曲が多い。
プレヴィンはシベリウスの音の鳴らし方をすっかり心得た、稀有の指揮者である。それは若き日、チョン・キョンファと共演した同曲のレコードからも明らかだった。それなのに、交響曲などを積極的に取り上げなかったのはなぜだろう?
2022-01-12 (4)
ロンドン交響楽団  London Symphony Orchestra
コリン・デイヴィス Colin Davis (指揮)
録音: 1-2 October 2003,  24-25 September 2003, Barbican, London
LSO LIVE

次は交響曲。偶数盤信仰の強いネコパパだがシベリウスは例外だ。7曲すべてが魅力的。
コリン・デイヴィスは、ときにリズムが強く出すぎて一本調子に聴こえることがある指揮者だが、得意のシベリウスではそれが気にならない。むしろそれを逆手にとって、執拗な刻みの多い音楽の特徴をよく描き出していると思う。これは3度目の交響曲全集の1枚。2曲とも奥行の広い、細部まで入念に彫琢された音楽で、ひとつのモチーフを執拗に反復しながら、氷山のような構築物を積み上げていくさまがよくわかる。特に第3番が美しい。録音がオンマイクの、直接音中心の収録なのも、細部までノンストレスで音が聴きとれて、ネコパパには好ましく感じられた。
2022-01-12 (3)
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団  London Philharmonic Orchestra
パーヴォ・ベルグルンド  Paavo Berglund (指揮)
録音: 31 May 2003, 6 December 2003, Southbank Centre's Royal Festival Hall
22 September 2006, Southbank Centre's Queen Elizabeth Hall
LPO

交響曲の2枚目はベルグルンド。
シベリウスのスペシャリストだった彼は、3つの交響曲全集を残した。ロンドン・フィルとの録音は4回目の全集になると思われたが、惜しくも2、5、6、7番の4曲で頓挫してしまった。
奥行きが深く、凝縮感のある分、スケール感は小ぶりなデイヴィスに対し、ベルグルンドは息の長いフレージングで、硬質な響きを、横へ横へと広げていく懐の大きな演奏である。このやり方は第5番よりも、第6番のほうに一層向いているように思う。余白に収められた「トゥオネラの白鳥」も、壮絶なまでに美しい。ただ、ロンドン・フィルのサウンドはロンドン響に比べて「音色の諧調」が少なく、無機的に感じられてしまうことが時々、ある。
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デンマーク国立管弦楽団
レイフ・セーゲルスタム指揮
録音 1992 デンマーク放送局コンサートホール
BRILLIANT(CHANDOS原盤)

セーゲルスタムの盤は、第5番だけを聴いた。彼もまた、全集を2度録音していたシベリウス指揮者で、これは第1回の全集からのもの。
ベルグルンドよりも3分以上長い、遅めテンポで進められる。彫りが深く、ティンパニや金管のおどろおどろしい咆哮が、音楽に隈取をあたえる。暗く、威圧感を感じる聴き味は、相当個性的だけれど、音楽に秘めたシベリウスの底知れぬ怨念のようなものを容赦なく表出した、ひとつの見事な解釈だと思う。これはひょっとすると、初めに聴いた、ムターのヴァイオリンと共通するものがあるかもしれない。


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コメント

コメント(6)
ヴァイオリン協奏曲・・・しばらく聴いていないな~~~
ヴァイオリン協奏曲・・ハイフェッツや、メニューイン、フェラスなど結構多く架蔵しているのですが整理が悪く何種類あるかは誰の演奏か?・・記憶が曖昧です・・・
小澤征爾さんと、潮田益子さんのCDもあるな~~~
この曲、暫く聴いていないので聴いてみようかな・・・

セーゲルスタムの盤、実は購入するか迷ったものなのですが、ネコパパさんの記事を読んだら聴きたくなってきました。

HIROちゃん

2022/01/14 URL 編集返信

yositaka
Re:ヴァイオリン協奏曲・・・しばらく聴いていないな~~~
HIROちゃんさん
セーゲルスタムの全集はヘルシンキ・フィルとの2回目のほうが好評らしいですが、なかなかそこまで手が回らないのが現状です。今日も、ベルグルンド/COEの第2番を久々に聴いてノックアウトされたところでした。いい演奏が多いんですね。
一方ヴァイオリン協奏曲は、交響曲と違って選択が難しい。古いヌヴーやウィックスはオーケストラが今一つで、敢えて言えば、そこが致命的です。
巷で好評のチョン・キョンファはソロが引っ込みがちで、玲瓏たる音色の良さが今一つ伝わってこず、プレヴィン指揮のオーケストラに耳がいってしまう。ハイフェッツやオイストラフなどソロが「お見事」な演奏は多いのですが、どっか違う。この曲は音楽全体として「いい」演奏が聴きたいのです。最近のならリサ・パティアシュビリ(DG)のが良かったけれど、指揮がバレンボイムなのが…

yositaka

2022/01/14 URL 編集返信

私も、しばらく…。
> この曲、暫く聴いていないので by HIROちゃんさん
右に同じ。チョーリャン・リン/サロネン盤と諏訪内晶子/オラモ盤を持ってはいますが、聴かないです~。
同じ北欧発のヴァイオリン協奏曲だと、むしろニールセンのが重厚で聴き応えがあるような気も…。

> 立派なオーディオ装置でたくさんの自作演奏のレコードを…
この「立派なオーディオ装置」が、何より気になります;;。
晩年はLPも開発される時期ですね。

ちょっとググってみると(みても)‥‥ここ:
http://www.sibelius.fi/english/ainola/ainola_kirjasto.html
の上から3枚めの写真に、シベリウスが Philipsのラジオ付き蓄音機を受け取る場面があります。
1930年代には、ラジオの音質がプアなので、聴かなかったが、40年代には評価する考えに切り換えた、云々。

こちら:
http://davidnice.blogspot.com/2010/04/sibelius-at-home-iii-tributes.html
には、別の機材のカラー写真がありますが、説明は…?
こういうのは、「radiogram」というそうです。

> 彼の音楽は冬の季節によく似合う。
そうとうしっかり暖房をつけて聴かなければ(笑)‥‥真夏も、いいと思います。
私の手許には、バルビローリとカラヤンぐらいで、あと、前にも申しましたが、渡邉暁雄/ヘルシンキ・フィルの福岡ライヴ(TDK → FM Tokyo)は名演でしょう。

享年91。あ、そういえば先日亡くなった海部俊樹氏といっしょですか。

へうたむ

2022/01/14 URL 編集返信

yositaka
Re:私も、しばらく…。
へうたむさん
いやあ、これは貴重なサイトですね。ご紹介ありがとうございます。
シベリウスがアイノラ山荘に置いていたオーディオはこれでしたか。
部分的に写った写真は見たことがありますが、これは全体がはっきり写っていますね。おそらく、現在も置かれているのでしょう。これがフィリップスが1951年に寄贈した「ラジオ蓄音機」とは知りませんでした。もしも現在も稼働するのなら、アイノラ山荘に出向いて、聴いてみたいものです。

リンの演奏は分かりませんが、諏訪内さんもなかなか濃い演奏をする人なので、シベリウスはどうかな、という気がします。ニールセンの協奏曲は聞き覚えがなかったので手持ちを調べたところ、リーヤ・ペトロヴァというブルガリアのヴァイオリニストのものがありました。40分近い大曲で、確かに素晴らしい曲ですが、シベリウスの魅力には、これはこれで抗しがたいものがあります。

渡邉暁雄/ヘルシンキ・フィルは1982年、オッコ・カムと曲を分担してチクルスを行ったもので、1、4、7番という渋いところを演奏しています。渡邊は1番が特にいいですね。でも、カラヤンのシベリウスは、個人的には違和感ありです。

yositaka

2022/01/14 URL 編集返信

シベリウス
yositakaさん、こんにちは

「シベリウス:バイオリン協奏曲」ですが、大昔、日本コロンビアの1000円盤LPで出ていた「トッシー・スピヴァコフスキー(vn)、タウノ・ハイニカイネン指揮ロンドン交響楽団」(1959年録音・日本コロンビア MS-1030-EV)が、私のイメージの中の北欧風で好きです。

1982年のオッコ・カム指揮ヘルシンキフィルのコンサートは、確か、TDKが主催で、葉書応募の抽選方式だったと思いますが、それに当たったので、新宿駅近くの「東京厚生年金会館」に行って聴きました。聴衆はものすごい熱気で、オーケストラが舞台に上がる時からものすごい拍手でした。演奏されたのは、交響曲第5番でした。この時も録音されたではと思っていますが、CD化はされなかったようです。

matsumo

2022/01/15 URL 編集返信

yositaka
Re:シベリウス
1982年のオッコ・カム指揮ヘルシンキフィルのコンサートはTDKとTOKYO-FMから2回、CD化されています。
たたし、残念ながら今はどちらも廃盤のようです。

オッコ・カムは最初はカラヤン、次はこの渡邊と、2度も「抱き合わせ全集」をつくるという不遇ぶりでしたが、近年ようやくBISからラハティ交響楽団を指揮した単独の全集を出せました。めでたしです。

トッシー・スピヴァコフスキーはアメリカの輸入盤CDで聴きました。ただ、復刻のせいなのか、演奏はともかく、ヴァイオリンの音がきつすぎて、私にはいま一つでした。LPの音は良かったのでしょうか。

yositaka

2022/01/15 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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