けいこちゃん

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福音館 1983.5.1「こどものとも」326号

あたしは けいこです。
「けいこちゃん」って、よばれたら、「はあい」と、おおきなこえで へんじをします。

扉に描かれた西巻茅子の絵は、シンプルです。
けいこちゃんの顔は、まん丸で、ピンクのほっぺに目と口が、顔の輪郭にくっつくように描かれていて、あんまり特徴がありません。ここが肝心です。
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第1画面は組替えをしたばかりの保育園。年中さんになったのかな。ここでけいこちゃんは、おんなじ名前の子に出会って、びっくりします。
「ひゃ、あんたも、けいこちゃん?」
びっくりした気持ちが、頭の上の放射状の線で描かれています。漫画由来の記号があっさり使用されています。そのときからなかよし。それから「わたし」は「ちいさい けいこちゃん」そのこは「おおきい けいこちゃん」。

にちようび、お母さんかいっぱいドーナツをつくったので、あたしは、おおきいけいこちゃんと一緒に食べたいと思って、電話ののところにはしります。
ところが、電話番号が読みにくくて、
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雲のけいこちゃんにつながってしまいます。
「まあ!くものこの けいこちゃん! あたし にんげんの けいこよ」
「ひゃ、あんたも けいこちゃん!」
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雲のけいこちゃんは、もうひとりのけいこちゃんの電話番号を知っていました。
そこへかけると…
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「まあ!くまのこの けいこちゃん!」
「まあ!ちょうちょの けいこちゃん!」
「まあ!いるかの けいこちゃん!」
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それから、どうしても繋がらない、おおきいけいこちゃんからも、電話がかかってきて…
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みんな、けいこちゃんの家に集まって、おいしいドーナツをたべました。
おかあさんが「けいこちゃん」とよんだとき、みんないっせいに「はあい!」って返事をしました。

この絵本は、ご覧のように、ちょっと文章量が多いので、読み聞かせには手間取るかもしれません。
あまんきみこの文章は、西巻茅子の絵とは別の、独立した文学作品になっているからです。でも、心配はご無用!シンプルな展開で、「変化のある繰り返し」も効いているから、今ネコパパがご紹介したように、ちょっと「はしょって」も、十分に楽しいですよ。
でも、できることなら、はしょらずに読んでいただきたいんです。本物の文学作品で、たったひとつの無駄な言葉もありませんから。
たとえば扉のページでは「あたし」と言っていたけいこちゃんが、第2場面で「わたし」になっている。これは誤植ではなく、生まれて初めて自分を相対化した緊張で、思わずことばがあらたまっているからだと思うんですね。
それから、あっちこっちの「けいこちゃん」みんなが決まって口にする「きまってるじゃない」の言葉も重要です。それぞれの人のなかでは「きまってる」ことも、ほかの人にとっては、決してそうじゃないということに、それとなく気づかせてくれるからです。

この世でただ一人の存在と思っていた「あたし=けいこちゃん」が、同じ名前の子の存在を知ることでアイデンテイティが揺らぐ。その揺らぎが入り口となって、物語は「もうひとつの世界」に入り込みます。
そこから、世の中には、もっともっとたくさんの「けいこちゃん」が住んでいて、そのそれぞれが違った「あたし」であることに気づく。「にんげん」の世界は、それぞれが別の姿かたちと、それぞれ「違う電話番号」を持つひとりで成り立っていることにも気づいていきます。

そのことに「ひゃ!」と驚き「まあ!」と感心し「はあい!」と肯定する。
「自分って何だろう」という、難しく、複雑で、困難な概念を、さらりと楽しく、ドーナツの味わいまでミックスして、感じさせてくれる。いい絵本は、哲学なんですね。

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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