ごろごろ にゃーん

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福音館 1976.1.1初出「こどものとも」238号

この絵本がネコパパの原点なのかもしれない。飛行機の窓からずらっと、こちらのほうをみています。どれも同じ顔のようで、ちがう。この絵本では、体が描かれるのは最初と最後の2画面だけなんですけれど、顔はねこでも、体は人です。人型のねこ。それでいて、擬人化された、という言い方にもなじまない。長さんワールドに生きる「ねこ」たちというのは、これでなくちゃ!なんです。
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タイトルにも、ひとひねり。ねこが、ごろごろにゃーんと、鳴いてるんだな、と思うでしょう。そうじゃないんですよ。
ひろうきは ごろごろ、ねこたちは にゃーん にゃーん ないています
そう、ごろごろというのは、ひこうきの「なく」音です。
海の上に着水している「ひこうき」に、ゴムボートで向かうねこたち。10人乗りで2隻だから、全部で20匹です。
さあ、出発!なんて言葉は絵本には、なくて…
ごろごろ にゃーん ごろごろ にゃーん と、ひこうきは とんでいきます
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これだけ。同じテキストが、10画面、続きます。どんなに読み聞かせが「苦痛」な大人でも、これなら簡単。一度読めば、おぼえちゃう。半分寝ながらでも読めます。それから、聴いている子どももすぐに覚えて、自分で読み出します。ページも自分でめくります。

ただし、テキストはシンプルな繰り返しでも、絵はドラマティック。ほかの長新太の絵本と違って、色合いはほとんど変わらず、ちょっと目には同じように見えます。黒いペンの、がしっとした線でかかれた主線に、カラーペンによる色彩。でもこれが普通じゃありません。細い線でぎしぎし、がしがしと執拗にぬりつぶしたものです。しかも、その塗りつぶしのタッチの形状も、濃淡も、一画面ごとに違っています。
第1画面では、空は少なめの薄い線を横に流すように使っていて、さらっと薄い空色です。それが第2画面ではぐるぐる回しながら塗っていく、やや濃い色に変わり、画面が進むごとに線が多く緻密になり、色も濃度を増していきます。空だけに注目しても、この色彩の変化はドラマティックです。

さらに素晴らしいのは、絵の語る豊かな物語性。

例えば、第2画面でねこたちは、飛行機から釣り糸を下げて魚をつりあげ、第3場面では何とも嬉しそうな目で釣った魚を食べていますが、その釣り糸のしなりと、釣られた魚の姿がかっこいいこと!
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長新太は基本的には、セロニアス・モンクのように「うまさを隠す」人なんですが、つい「技」を見せてしまった…そんな感じですね。
ひこうきは大きなくじらやジャンボジェットと対比され、嵐の山の上を飛び、空飛ぶ円盤に遭遇し、これも長さんおなじみの登場人物「へび」の上を通過します。
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野犬の群れが吠えかかり、その一匹がひこうきの「しっぽ」に食らいつき、橋の下で鳥の上に落っこちる。
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ようやく画面が落ち着いて、ひこうきは静かな月夜をとんでいきます。そこに突如人間の大きな手が、画面をさえぎるようにあらわれます。
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この手について、今江祥智は「これはねえ、こういう絵本を否定しようとする大人の手なんですよ」と語ったことがありました。
1976年3月、黒姫絵本の学校の講座の中で、ネコパパが直接お聴きした話です。それは本作が世に出てわずか2か月後、どうやらこの絵本、「わけがわからない」などと批判されたようですね。当時、誰から、どんな批判が展開されたのか、確かめてみたい気持ちがわいてきます。
たしかに本作は、1978年の「ちへいせんのみえるところ」に始まる、長新太の絵本群に比べると、ギラギラした野心、尖った感触が目立ちます。細く冷たい針金で作られた構造物を見ているような気もしてきます。
子どもたちはそんなことに気に留めず「ちょっとへんだけど、おもしろい」なんて受け止め方で、この絵本を楽しむことでしょう。
でも、作品にこめられた「棘」や「不穏」は、きっと心の奥深く残り続けると思います。

当時、長新太は、児童書の挿絵画家として頭角を現し始めていたとは言うものの、「絵本作家」というより「漫画家」とみなされていました。そんな彼にとって「ごろごろ にゃーん」は「絵本」というジャンルを、自らのフィールドとする決意をあらわにした勝負作、いわば「絵本宣言」だったのかもしれません。
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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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