巌本真理の復刻盤CD-Rが素晴らしかった。

買いたい本があってネットを探したら「メルカリ」に手ごろな価格で出ていた。「メルカリ」というのは、個人出品のネット版ガレージショップのようなものだろうか。これまで一度も使ったことはなかったが、その本が欲しかったので登録した。やってみると、購入は簡単で、ヤフオクのように競争入札でせりあがることもないのでストレスがない。ただ、全体にそれほどお買い得という感じはしない。
ついでにレコードなども見てみたが、さほどの出物は見つからなかった。ただ、多数のSP復刻盤をCD-Rで出していて、高音質という評価も見かける個人レーベル「グッディーズ」の商品が、かなりの枚数、送料込みで800円で出ていた。そのなかに、ちょっと珍しい、巌本真理の盤があったので購入してみた。聴いてみると、これがとても個性的な演奏で、すばらしい。
3469.jpg

巌本の個性は、最初の「カヴァティーナ」から明確だ。
太いチェロのような音で、ずっしりと渋みがある。朗々とした歌い口だが、甘さを抑えた、シゲティを思わせる芯の強さだ。2曲目の「G線上のアリア」も手ごたえのある演奏。これをオンマイクの収録が克明にとらえていて、全10曲を一気に聴かせてしまう。
とりわけ素晴らしいのがラフマニノフの「ヴォカリーズ」で、音楽の持つ沈み込んだ感傷性を、強く明確な楷書のタッチでくっきりと描く。あまりに印象的で、繰り返し何度も聴いてしまった。
名曲喫茶「ニーペルング」に持ち込んで、店の真空管アンプ・システムを使って再生していただくと、その特徴はいっそう際立ち、演奏にはなかなか辛口のSマスターも、これには感じ入っている様子だった。

巌本真理の評伝によれば、彼女は早いヴィヴラートがあまり得意ではなかったらしく、そのせいもあってイタリアの技巧曲などはほとんど弾かず、リサイタルでは、ドイツやフランスのレパートリーを取り上げることが多かったようだ。それはこの小品集の選曲にもよく表れている。
確かに、彼女の演奏には、ヴィヴラートを抑制した、ストイックな響きが感じられる。音色も一色で、当時好まれた華麗なヴィルティオジティには乏しいと言えるかもしれない。それが、ソロ活動を縮小し、弦楽四重奏の世界に向かわせた要因なのかもしれない。
けれども、現代ではピリオド奏法の普及もあって、ヴィヴラートを抑制した巌本の演奏スタイルは、むしろ新鮮に感じられるのではないだろうか。
1958年発売。東芝レコード発足期のLPから直接復刻している。本社からのCD発売もなく、埋もれた盤のようだが、看過されるにはもったいない気がする。
でも、その筋のマニアは価値を知っていて、
121312.jpg
オリジナルの10吋LPは、ネット上の某店で5万円以上のプレミア価格がついていた…

巌本は2年後にももう一枚、伴奏者を代えた10吋盤を録音していて、こちらも「グッディーズ」で復刻盤が出ている。「メルカリ」にも出品されていた。
ネコパパが早速注文したのは言うまでもない。


関連記事
スポンサーサイト



コメント

コメント(6)
1944年の巌本真理
オークションは、競合者がいるとべら棒の値段になりますね。
私も間違えて1桁高い値で入札したり???、45年間愛用して修理出来ない部品を今の同性能の他社アッセン価格より1桁低い価格で良品を購入して「ニコニコ」しています。
2020/07/12の「再開!音楽を楽しむ会」でのIK氏の巌本真理SP1944年「ベートーヴェン ロマンス」VH-4092を遺品のSP童謡貸出しの担保にじっくり聴かせて頂きました。
諏訪根自子と同じ小野アンナ先生の門下生で先生は、若いうちは、基本に忠実で技巧に走らず情感を込めて弾くよう指導されていたと感じられます。
縁あって知人から格安で購入しないかの話がありましたが「何故、遠慮したのか?」分かりません。多分知人との関係がこじれるのを嫌がったのだと思います。



チャラン

2021/09/26 URL 編集返信

yositaka
Re:1944年の巌本真理
チャランさん
「ロマンス第2番」は、私も聴かせていただきましたが、今回の小品集のような個性は今一つ伝わってこず、きっちりまじめな印象の演奏だったように思います。ちなみに斎藤秀雄指揮のSP盤は国立国会図書館によると1950年9月発売のもので、おそらく戦後の録音です。
デビューは1939年ですが、戦中はハーフのため苦労して録音などは困難だったと思われます。
1950年まで東京音楽学校の教授を務めていましたが、1951年に辞任して渡米、アメリカでは人生最初の一人暮らしと生活の苦労を味わい、帰国して間もなく録音したのがこの録音です。アメリカでの人生修行で、巌本真理の芸風はだいぶ変わったのかもしれません。

yositaka

2021/09/27 URL 編集返信

18歳から32歳の進化
国立国会図書館のは、ビクタNH-2018でネコパパさんが貼ってあったのはビクタVH-4092でIK氏のマトリックスは未確認ですが1944年の同じ音源だとおもわれます。
指揮齋藤秀雄と18歳の巌本真理は、穏やかで情感ある演奏だと思います。
巌本真理の芸風はだいぶ変わったのかもしれません。>今回の32歳頃の録音は、巌本真理が室内楽の情感のある演奏に進化したものと私は感じました。

チャラン

2021/09/27 URL 編集返信

yositaka
Re:18歳から32歳の進化
チャランさん
1944年録音の裏付けはなかなか難しいです。
ネットの78MUSICにはNH2000番台は戦後盤として出ています。VH-4000番台は1枚も掲載なし。昭和館SPレコード総目録には4枚だけ載っていますが、年代は不明。
はっきり記載しているのは、<ローム ミュージック ファンデーション>発行のSPレコード復刻CD集「日本SP名盤復刻選集2」に入っているもので、日本ビクター VH4092(1944年録音)とあり、データが正しければ巌本18歳の録音。NH-2018はその再発盤と思われます。
また、YouTubeにもVH4092がアップされており、1944年録音と書かれています。これは、ギャラリー香津原にも何度か来られていたハルヒさんのアップです。
ローム盤もグッディーズと同じく新忠篤氏が復刻しているはずですが、二人の情報源をぜひ知りたいものです。この「日本SP名盤復刻選集2」は愛知県図書館が所蔵していると思うので、確認してきたいと思います。

yositaka

2021/09/27 URL 編集返信

VH-4092の著作権者は日本音響株式会社
凝りもせずVH-4092のラベルを見ていたら下に「著作権者 日本音響株式会社 **」となっています。日本音響株式会社は、ご存知の昭和20年日本ビクタに戻る前の戦中の会社名で音源は、1944年の録音で間違いないとおもいます。プレス販売時期は、マトリツクスに⑫刻印ですので「hiroさん資料」より昭和19年2月16日以降とおもわれます。

チャラン

2021/09/27 URL 編集返信

yositaka
Re:VH-4092の著作権者は日本音響株式会社
チャランさん
なるほど。ビクターのレーベルは残しても、会社名までは英名が使えなかったわけですね。日本音響株式会社で⑫なら、戦前で確実です。それにしても、番号と正確な発売年を明記した資料が欲しいものです。
国会図書館のデータは戦後の再発。担当者は初発まで追跡していません。
童謡も再発が多く、オリジナルの発売データが辿れないものが多くて困ります。ネットでもいいので、より詳細な資料が出ないものかと思います。
ちなみに、巌本真理には「ロマンス第2番」の戦後に再録音したLPもあるようですので、どこかで見つけたら買って聞かせてください。

yositaka

2021/09/27 URL 編集返信

コメント投稿
非公開コメント

プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

ご訪問ありがとうございます

月別アーカイブ

検索フォーム

QRコード

QR