マタチッチ指揮のブルックナー第8交響曲を、N響以外で聴こうとしたら。

ロヴロ・フォン・マタチッチは、ネコパパにブルックナーの交響曲第8番の魅力を教えてくれた指揮者だ。それは、1975年にNHK交響楽団の定期演奏会を指揮したTV放送を見てのこと。
実家の台所にある小さなTVで、しかも冷蔵庫の上に乗せてあって甚だ見にくい上に、音質も低劣だったが、そんなことはネコパパ(当時はパパではなかったが)には、全然気にならなかった。
壮大無比で、山あり谷あり、活気に満ちて面白く、それでいて第3楽章の静謐な叙情は、名交響曲数あれど、めったに耳にすることができないものだった。始まってしばらくして、ずっと続くようなフレーズにくっきりとハープのアルペッジョが乗ってくると、もう、いけなかった…

マタチッチのこの曲のレコードは当時は1枚もなく、これから9年後の1984年3月7日最後のN響来日公演を収録したライヴ録音が最初のものとなった。これも、もちろんTV視聴し、9年前のものを凌ぐ感動を与えられていたので、飛びつくように購入したのだが…
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このDENON盤での再聴は、TVでの感動にはまったく及ばなかった。演奏自体は変わらないのだが、音がなんとなく雑駁で、耳からすり抜けていくようで集中できない。決して悪い音ではないにもかかわらず「記録レベル」の印象だったからである。

やがて時がたち、2007年、初回の1975年11月の演奏もCD化された。
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Altusの技術のせいか、1984年録音よりも音は聴きやすい。「記録レベル」ではなく、ちゃんと音楽が聞こえてくる。
こんな演奏だったのか。テンポは84年以上に疾風のように早く、N響もマタチッチの棒に必死てついていっている様子で、ところどころでアンサンブルが崩れている。完成度をいうなら、やっぱり1984年盤かな。

やがて発売会社を変えて、1984年盤も再発売された。2011年のことだ。
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詳しく聞き比べていないが、旧DENON盤に比べるとずっと音の質感が増して、最初に聴いた時の印象が戻ってくる。これなら「記録用」ではなく、この曲を聴きたいときに手が伸びる「愛聴盤」になるかもしれないと感じた。
ただ、マタチッチは第5、第7というチェコ・フィルとのすばらしいセッション録音がある。ウィーン交響楽団との第9もなかなかのもの。これらと比較して、N響が良くないというつもりはないが、せめて一つくらいはヨーロッパのオーケストラで録音を残してほしかった…という思いは捨てきれず残った。

そこに最近、二つの録音が登場。ひとつは…
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2019年の8月に、どこかのネット音源を拾ったもので、カップリング曲が「悲愴」であることから、このCDと同じものと思われる。1967年、プラハ放送交響楽団との演奏とある。Living Stageという、昔あった「怪しい」レーベルから出ていたらしいが、ネコパパは店頭では見たことがない。
演奏時間はなんと、85分、N響との2種に比べて10分以上も長く、じっくりと進めていく。
26分かけた第3楽章は中でも聴きもので、ハープもよく聞こえ、展開部の最後にはぞくっとするようなチェロのフレーズもあらわれる。「指揮者は高齢になるほど遅くなる」一般論はまたしても粉砕だ。
ただ音質は、古くてチューニングの合わないAMラジオを聴いているように、ザラザラしたものだ。本来は優秀な音ではないかと想像できるだけに、もしもマスターテープによる正規発売ができるなら「事件」になるかもしれない。

さて、今回の目玉はこれ。独ブルックナー協会提供のダウンロード音源で、もとはイタリア国営放送制作のカセットテープという珍品である。
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説明文には「1986年、イタリアRAIは、1985年1月に亡くなったマタチッチの演奏を収録した3本のカセットテープのシリーズをリリース。タイトルは『マタチッチへのオマージュ』で、これはその中の一つです。トリノのRAI交響楽団との公演で、指揮者が86歳で亡くなるわずか13か月前の1983年11月18日にトリノで録音された」とある。
れっきとした正規録音だが、すでにCD時代の86年にカセットのみでリリースされたのも不思議だし、金管がバリバリ前面に出る、音域の狭いデッドな音質(一応ステレオ)にも驚かされる。
N響公演の約4か月前で、演奏時間はN響よりも3分も早い72分。それでも第3楽章は25分かけている。おかしいのは「これを聴け」とばかりに、ハープをクローズアップしていること。マタチッチには、普通にやると埋もれがちなハープをしっかり聞かせようという意図があるのは確かなようだ。でも、やっぱりイタリアのオーケストラとブルックナーは水と油かもしれない。直後のN響が、いかに健闘したかがよくわかる。それでも…他にはないの?


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コメント

コメント(4)
N響のデリカシーの無い演奏
こんばんは。
マタチッチ指揮のブルックナー:交響曲第8番への思いが伝わってくる記事です。
私はDENON盤の音質は悪いとは思わないのですが、当時のN響のデリカシーの無い演奏が嫌でなかなか手が伸びません。

Supraphonがチェコ・フィルで録音してくれなかったのがとても残念です。皆そう思っているでしょう。

マタチッチの交響曲第9番は、チェコ・フィルとのものを所有していますが、ウィーン交響楽団との録音もあったのですね。知りませんでした。

ハルコウ

2021/09/20 URL 編集返信

yositaka
Re:N響のデリカシーの無い演奏
ハルコウさん
1984年のN響は、日ごろの優等生をかなぐり捨てて熱演していて、団員たちは今も84年の演奏を熱に浮かされたように語っています。その捨て身の本気度が、別の観点では、音の荒さ、「デリカシーのなさ」に聞こえるのかもしれません。
音楽の受け止め方は人それぞれですが、私自身は、それだからこそ、達成できる音楽もあると考えます。ブルックナーの音楽には「荒めの質感」は、必ずしもマイナス要因とは思いません。

ウィー交響楽団との第9は、オーストリア・アマデオがオーストリア放送協会の音源からCD化したもので、1983年3月の録音。国内ではフィリップスから出ていました。
チェコ・フィルとの1980年盤も、やはりライヴで、個人的には第5、第7ほどの完成度はないと思います。第5を録音した70年以降、マタチッチとチェコ・フィルは何かの事情で疎遠となり、ようやく1980年に和解したようですが、両者の関係はまだ緊密ではなく、私はより多く共演を重ねていたウィーン響との演奏に魅力を感じています。

yositaka

2021/09/20 URL 編集返信

84年盤は好きです・・・怪しい?Living Stage盤、結構持ってるな~~
マタチッチの第8番はN響との1975年盤と1984年盤の2枚しか持っていません。
2015年の1月にHIROちゃんのブログで、マタチッチのブルックナーについて簡単に紹介しましたが、その中で、この演奏について、下記のように投稿しました。

< 1984年のNHKホールでのライブ「第8番」は私にとって感動的な演奏です。弦の乱れや、金管楽器の音がやや硬いように感じる部分もあるように聴こえますが、特に第1、4楽章での迫力と雄大さ、第3楽章アダージョの美!・・・また、この演奏の特徴かもしれませんが、ハープのくっきりとした音が実に美しく聴こえます。これほどハープの音がはっきりと聴こえる演奏は少ないのです。(それとも録音のせい?生では聴いていないので・・)>

プラハ放送交響楽団、トリノのRAI交響楽団との録音があったとは全く知りませんでした。
なお、Living Stageという、「怪しい」レーベルのCDですが、昔、秋葉原の石丸電気のレコード館の5F(今はありません)輸入クラシック盤売り場でたくさん売っていました。500円~1000円でした。結構、東京出張のたびに買いましたね。
その中にはチェリビダッケのものや、カール・シューリヒト/NDR soとのベートーヴェン/ミサ・ソレムニスやフランス国立Oとのベートーヴェンの第3番「英雄」などがありましたね。

HIROちゃん

2021/09/21 URL 編集返信

yositaka
Re:84年盤は好きです・・・怪しい?Living Stage盤、結構持ってるな~~
HIROちゃんさん
Living Stageは制作スロヴェニア、製造ドイツと書いてありますが怪しい怪しい。どこかで出たもののコピーを日本でやっていたのかもしれません。
こういうレーベルは隣接著作権が延びてから一気に店頭から消えて、以降はプライベート盤はCD-Rで作られ、通販や一部の小さな店だけで扱われるようになりました。その後めぼしいものは正規発売されるようになりましたが、このマタチッチはまだですね。
第3楽章のハープの明晰さは録音条件の違うプラハ盤もトリノ盤も同じなので、これがマタチッチの解釈とみていいと思います。こういう演奏は、ありそうでなかなかありません。
84年N響盤は、マタチッチの指揮が「腹芸」なこともあって、楽員も合わせづらく、乱れが多いのは事実ですが、HIROちゃんさんと同じく、それを承知の上で「感動的」演奏と呼びたくなってしまいます。人生にはときどき、そういうこともあるのです。

yositaka

2021/09/21 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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