海の男と羽のない鳥


ボルカ はねなしガチョウのぼうけん

■作・絵: ジョン・バーニンガム
■訳: 木島 始
■ほるぷ出版
■\1,575(本体価格:\1,500)
■1993年 原著1963


ボルカは、生まれつき羽のないガチョウ。
まるでこれは、焼く前の焼き鳥状態。
ほかの兄弟たちに仲間はずれにされてしまい、泳ぐのも、飛ぶのもおぼえられない。

お母さんガチョウは、ボルカをお医者さんガチョウに見せるが、
羽がない以外は悪いところはないという。
お医者さんのアドバイスで、お母さんは毛編みのセーターをつくってやり、ボルカに着せてやる。
しかし冬が近くなり、家族は準備に大忙し。
いつのまにかボルカは忘れ去られ、親や兄弟たちは渡りに飛び立ってしまう。

ひとりぼっちになってしまったボルカは、やがて入江に停泊する船を見つけ、入り込む。
乗っていたのは、犬のファウラー。親切にボルカを船底に寝かせてやるのだが
その間に船はロンドンに向けて出発。

マッカリスター船長と相棒のフレッドは、思わぬ乗客を快く受け入れ、
ボルカも、船の仕事を懸命に手伝ううちに、彼らとすっかり仲良しになる。
やがて船はロンドンに到着し…

うーん、ひどいじゃないか。
お父さんガチョウもお母さんガチョウも、ボルカのことをすっかり忘れてる。
『チムとゆうかんなせんちょうさん』と同じだな。

いずれもイギリスの作品。
自立というものは親離れして初めてできる。という真実を厳しく描く。
でも、子どもを育てるのは、決して親ばかりじゃない。
広い世の中に、必ずや自分の居場所はある。
そのために、悲しみや厳しさは、当然乗り越えなくちゃいけないけど…
どちらかといえば、父性原理が貫かれているんだな。

なにより、絵がすばらしい。一刀入魂の気魄だ。
キャラクターが見事に描き分けられたガチョウたち。
渡りに飛び立つ姿は、抽象画のように輪郭線が溶け、親も兄弟も見分けがつかない寂しさが画面を覆う。
画面いっぱいが涙でぬれたような、日没の入江。
太い描線で描かれた汽船クロンビー号と、
力瘤そのもののような、二人の海の男が登場する。
 
圧巻なのは
家族当然になった二人と一匹と一羽が
船内のテーブルを囲んでくつろいでいる第13場面だ。
“四人”は、背丈や体格までが、いつのまにか同格になり、同志の絆を表現する。
構図と絵柄は、どこかセザンヌの『トランプをする男』を思い出させる。

イギリスの絵本作家バーミンガムの出生作で、27歳の時の作品。
絵本という広い空間に、技量のすべてを尽くして、取り組んでいる若者の姿が見えるようだ。

子どもの本を作ることは
男の一生を賭けるに十分な仕事、という誇りと気概が伝わってくる。
63年。絵本の黄金時代の始まりの時代だった。

関連記事
スポンサーサイト



コメント

コメント(0)
コメント投稿
非公開コメント

プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

ご訪問ありがとうございます

月別アーカイブ

検索フォーム

QRコード

QR