「星野君の二塁打」をめぐって②

「星野君の二塁打」という資料をつかって、実際の教室ではどんな授業が行われているのだろうか。以下は、ネットにアップされている小学5年生を対象とした指導案に書かれた「本時の指導」の部分である。ネコパパの考えでは、かなりオーソドックスな指導過程と思われる。

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これをもとに、授業の流れをシミュレーションしてみたい。
Tは教師、Cは児童である。

T:今日は「決まり」について考えます。みなさん、学校にはどんな決まりがありますか。
C:廊下は走らない、です。
C:教室であばれない。
C:掃除の時間は黙って掃除をする、かな。

T:なるほど、いろいろありますね。みんな、ちゃんと守れていますか。
C:うーん。
C:守れていないこともあります。

T:そうかあ…そもそも決まりって、守らなきゃいけないものなの?Y君、どう。
C:守ったほうがいい。先生に怒られるから。
C:通知表にも書かれる。

T:そうか。先生だって本当は怒りたくないけど、決まりだから仕方がない、って思わなくはないな。じゃあ、決まりなんか、ないほうがいいのか。さっぱりと、やめちゃうか。
C:わーい、決まりがなけりゃ自由だあ。
C:それは駄目です。人間は弱いから、ルールが必要です。なければ弱肉強食になってしまいます。

T:おお、すごい意見だねえ、弱肉強食か。…さてと、それじゃあ、教科書を読むよ。「星野君の二塁打」というお話です。先生が読みますから、目で追ってください。

(全文を範読する)

T:星野君は自分の打席で監督にバントを命じられたのに、「はあ」とあいまいな返事をしたんだね。なんで「はい」でなく「はあ」なのかな。
C:自分では打てそうと思ったのに、監督がバントしろというので「仕方がない、そうしよう」という気持ちが出てしまった。
C:打てる気がするのに打たせてくれないから、ちょっとむかついた。
C:監督なんか無視して打ってやる。という意思表示。

T:なるほど。みんなはどの気持ちが強いと思う?自分に近い意見に挙手してください。打ってやる、が15人か。多いですね。で、結果は二塁打で、試合は勝って、大会にも進出。そのとき星野君はどんな気持ちだったかな。
C:僕の判断は正しかった。バントしなくてよかった。
C:監督の機嫌をそこねたかも。怒られるかなあ。でもまあ、そんなことはないだろう。試合は結果オーライだ。
C:ようし、今度の打席も自分で決めて打つぞ。

T:でも次の日、監督は星野君の行動をルール違反で、チームワークを乱す行為だと言ったんだね。話を聞いた星野君は、どうしたかな。
C:うつむいた。

T:どういうこと?
C:下を向いて黙っていた。

T:こうかな(やってみせる)。じゃあみんなも、今から星野君になって「うつむいて」みよう。1分たったら、彼が何を思っていたか、まずワークシートに書いて、それから発表してもらいます。…ではどうぞ。
C:僕が打ったから勝てたのに、どうしてこうなるんだ。こんなチーム、辞めてやる。
C:ルールを破ったんだから、やっぱり僕が悪かったのかもしれない。
C:あの時はたまたまうまくいっただけで、アウトだったかもしれないし、それに僕のせいでみんなが監督の指示に従わなくなったら、チームワークも崩れてしまうかもしれない。

T:いろいろな意見が出たね。ほかの人の意見を聞いて、発見はあった?「僕が打ったから勝てたのに」といったS君、「みんなが指示に従わなくなったら…」というKさんの意見を聞いて、どう思った?ぜひ聞きたいな。
C:うーん、Kさんの意見もわかる。星野君は、自分のことだけ考えていたかもしれない。野球はチームワークだから、星野君もいけないところがあったかも。
C:うんうん。
C:K君に付け足しで、今は勝っても、チームが監督の指示を聞いたり、聞かなかったりして、バラバラなら、大会ではきっと負けると思う。

T:なかなかいい意見が出てきたけれど、そろそろ時間になってしまった。最後に、今日の授業を振り返って、「決まりは何のためにある」のか、自分の考えをワークシートに書いてみよう。時間は3分だよ。では、スタート。

<書かれた内容>
・グループやチーム全体の目標達成のため。
・みんなが自分の都合だけではなく、他の人のことも考えて生活できるようにするため。
・けがや事故を起こさないようにするため。

T:最後にこれ、なんだっけ(学級目標の掲示物を示す)
C:学級目標。

T:「友情・努力・勝利」。4月にみんなで決めた目標だ。目標達成のために「ルール」や「決まり」があるのなら、肝心の目標を忘れちゃだめだよね。
でも、ここにずっと掲示してあると、いつのまにか当たり前のようになり、目に入らなくなってしまう。みんなは、どう?
実は僕もそうなんだ。決まりだから仕方がない、なんて思うのは、教育という「目標」を忘れていたのかもしれない。今日をきっかけに、毎日一回は見て、胸に刻みたいと思う。「監督命令」じゃないけど、みんなもできたらそうしてください。では今日の道徳の時間を終わります。


「まっ正直に指導案どおり」やるとしたら、こんな感じかな。

「嘘ばっかり」

と言われそうだが、そうではない。これが一つの「指導案通り」の姿である。教師の個性に合わせて多少のひねりを加えないと「指導案通り」の授業なんてできないのだ。
どの教科でもそうだが、道徳ではそれがかなり顕著。そもそも、同じ指導案を使っても、10人の教師がいたら内容は「まるっきり違う」というのが、授業だ。そこを看過して机上の指導過程で授業を論ずるのは、実践的とは言えない。
この指導案の場合、目標は「決まりを守ろうとする」態度を養い、「守らなければならないという価値に気づく」ことだから、授業の内容は資料を使ってその「根拠」を探ることになる。指導案を読むと授業者はその根拠を「目標達成」に置いていることがわかるので、それに従ってシミューレーションしたわけだ。

さて、こういう指導案を持ち込まれたとしたら、ネコパパ指導員は、どのように助言するだろう。
(つづく)






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コメント

コメント(2)
確かにオーソドクス。
 後先が逆の書き込みになりました。学習指導案と発問計画、これは教員以外には馴染みがないから、コメントむつかしそうです。
 ネコパパさんに質問です。研究授業とか何かのときにだけこういう発問計画を作るのですか? それとも普段に作るのですか?
 教員で共有するのですか?
 現場を知らないので、興味津々なんです。
 ぼくの中高講師経験はあれこれ17年ありましたが(大学や予備校などと掛け持ち。昼は高校で夜は予備校で会う生徒もいました)、中高一貫の私学したが専任の先生も作っていませんでした。もちろん予習は精一杯しましたけれど。

シュレーゲル雨蛙

2021/07/17 URL 編集返信

yositaka
Re:確かにオーソドクス。
シュレーゲル雨蛙さん
うーむ、指導案ですか。教員の一番嫌がる言葉ですねえ。

普段のルーティンワークの時、教員は翌週1週間分の週案(1時間ごとの単元・目標、概要を1ページにまとめたもの)の提出が義務付けられています。(これは公簿です)。
毎週、その週の考察反省と次週の計画を書いて提出し、教務・教頭・校長の押印をもらうわけです。

今回の記事に示した1ページ分の指導過程は、いわゆる「学習指導案」の一部です。
単元全体の目標計画や指導観、児童生徒観を前節としてまとめたものが「学習指導案」で、概ねA4で4ページから6ページくらいのもの。
これは研究授業(公開・非公開を問わず) を行う場合は四役に提出し、全員にも配布します。(最近は市・学校のハードディスクに入れればだれでも閲覧可能なので便利です)。
これに準ずる形としては「略案」と呼ばれる、ねらいと指導過程だけ1ページにしたものも多く書かれます。学年や教科部会、初任者研修ではよく利用されます。
私は初任者研修の担当を何年かしましたが、初任者には、研究授業のほかに、毎週2時間の略案提出が課されます。

私の勤務していた市の場合、
ほとんどの教員(養護教員も含めて)は、年に一度の学校訪問(いわば学校評価)のほかに一度以上は、何らかの研究授業を行うので、最低でも年に二、三本は数ページの「学習指導案」作成をすることになりますね。

私の場合なら、指導案1本の作成に6時間かかります。
第1案です。
それから指導を受けたり、事前協議をして中身を詰めるので、最速でも10時間、いやもっとかかりますね。
私は指導案づくりは嫌いじゃないですし、人からは早いといわれていました。
でも、多くの教員は文章を書くのが得意でなく、指導案作りには四苦八苦している様子です。
個人的には、授業の腕というのは数で勝負ではなく、指導案を書いて人に授業を見てもらい、いろいろ言われる中で上達するものだと思います。

ただ、そのための時間の捻出は、個人に丸投げです。
手を付けるのは、大部分が生徒下校後、夏場だと午後7時、冬場でも5時過ぎです。いや、先生の会議も生徒下校後、週に2回以上は必ずあります。学校の会議はひたすら長いので、8時9時はざら。指導案を各時間はほぼ100%、サービス残業ですね。
小中学校では、個人の授業準備や指導案づくりは、いつも最後の最後です。そこにたどり着くまでの「みんなの仕事」があまりにも多い。ブラック職場の面目躍如です。

yositaka

2021/07/18 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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