5月某日、名曲喫茶ニーペルングで、雑誌「レコード芸術」を斜め読みしていたら、この雑誌の「伝家の宝刀」である、名盤ランキングの記事に行き当たった。
2021年5月号、「新時代の名曲名盤500」。
近年は、全然知らない演奏家のものが1位だったりすることも多く、そのたびに、ネコパパも次第に過去の遺物になり果てていくのか…と思ったりする。
しかし、大好きなモーツァルトの交響曲でそういうことがあると、いささか心穏やかではない。
そう思ったのは、「小ト短調」とあだ名される交響曲第25番、ワルター、ベーム、クレンペラーら20世紀の名指揮者たちに愛された第29番という、ネコパパのとりわけお気に入り曲の第1位が、まったく知らない若手指揮者のレコードだったからである。
ローレル
近頃は指揮者の名前もすぐ忘れるので、手帳にメモっておいた。
そしたら案の定、ずっと忘れていて、今日やっとそのメモを見たわけだ。NMLで聴取。
モーツァルト:交響曲第25番,第26番,第29番
ジェレミー・ローレル指揮/ル・セルクル・ドゥ・ラルモニー
26-29. V. 2008, Ferme de Villefavard en Limousin, France
Warner Erato WPCS-28053 (P)(C)2009 Parlophone Records
第25番。少人数のピリオド演奏だ。各パートが、まるで一人でやっているみたいにぴたっと揃い、駿速のテンポでビシッビシッと決めていく。
フレーズは短く、力の入れ具合は均等で、同じところは同じように、幾何学模様を描くように反復されていく。まるで精度の高い歯車が組み合わさって回るように、強く、正確だ。速いテンポは厳格に維持されるが、第3楽章トリオでは突如遅くなる。表情といえば、所々でふっと弱音で息をひそめるくらいか。
第26番になっても、曲が変わった気が全然しない。まったく同じ調子だ。緊張感は一瞬も抜けず、弾き流しているようなところは皆無。第2楽章は一転して、ささやくような弱音で孤独感を漂わせ、葬送の音楽のよう。
第29番は色合いが異なる。第25番のような厳格な幾何学模様ではなく、柔軟な表情や、フレーズごとに変化する強弱の変化が加わり、音楽に光がさす。第2楽章はピリオド楽器の色の強い、歌うよりは語るアンダンテ。しかし第3楽章からは柔軟さに加えて、第25番のような「決め」の音楽が戻ってくる。
個性的で、強い野心が感じられる演奏。でも第25番と26番は厳しさ一色で強面のモーツァルトに聞こえるし、第29番のように表情を加えても、湧き上がるような愉悦感には届かない。歌わない第2楽章は、正直ネコパパにはいささか退屈だ。ランキング1位というのはどうなんだろう。
もっとも、今や「レコード芸術」のランキングで艱難辛苦して、最初の一枚を決めるような少年はいないかも…
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コメント
なぜ、この演奏がランキング1位なのだろう・・・?????
全曲とおしては聴けませんでしたが、何度も聴く演奏ではないかも・・・
最近は全く知らない指揮者の名をよく耳にしますが・・・モーツアルトが好きだからと言ってワルターや、ベームの演奏などばかりにしがみついているのは、今は亡き、古い??指揮者の演奏を好むHIROちゃんは、もう古い人間なのだろう・・・
HIROちゃん
2021/06/27 URL 編集返信ベスト10を見れば、過去の名盤も相変わらず強いのですが、上位には近年の個性的演奏が上がってくる確率が高いですね。評論家たちも若返っているし、業界にも忖度しないと雑誌の存続も危うくなりますし、いろいろあるんでしょう。
話題の指揮者クルレンツィスにも言えますが、一度聞いたり、みんなで聴いたりするには刺激的で楽しいけれど、一人で何度も聴くには馴染まない…このローレル盤も、3曲聴き終わるころには「もういいか」という気持ちになってきたのも事実です。
yositaka
2021/06/27 URL 編集返信> 業界にも忖度しないと雑誌の存続も危うくなりますし、いろいろあるんでしょう。
ありそうですね。
加えて、若い評論家たち自身が、伝統的・コンヴェンショナルな演奏に飽きていて、一時の「こんなん見っけ!」な興奮を求めて新しいアーティストに喰いついている、ような気がします。
最晩年の宇野功芳氏ですら、ノリントンやコープマンなどを、ちょっと評価しすぎなんじゃない? なほどの高評価だったような。
ベートーヴェンでやたら1位に入り始めた P.ヤルヴィですが、若い、熱心な聴き手で、「一度聴いて手放した」という人を知っています。
少し前、アーノンクール/COEのモーツァルト三大交響曲がダントツの一位となっていたものの、もう忘れられてきている感があります。
ただ、当方の変化もありまして、そのアーノンクールのモーツァルト、あとからマイ・ベストのひとつになりました。
へうたむ
2021/07/02 URL 編集返信宇野功芳の評価も個別には多様ですが、基本線は変わっていなかったと思います。
氏はバッハが苦手だったのですが、そのバッハに関してはピリオド奏法の演奏を好んだというのは、なかなか暗示的な事実です。好きでない部分を「音色・奏法の面白さ」でカバーしていたのでしょう。
パーヴォのベートーヴェンなら、N響の大編成で再録音してもらいたかったと思います。ブレーメンとの全集は、現在の彼の実力をあまり反映していないというのが私の意見。コロナ禍で首席指揮者の最後の1年を奪われたのは惜しいことでした。
アーノンクールのモーツァルトの交響曲は3回の録音を聴いていますが、いいのは1回目の第38番「プラハ」ですね。3回目の3大交響曲は、相当に好みが分かれると思います。私は一度聞けば十分ですね。
yositaka
2021/07/02 URL 編集返信