ワルター、1930年録音「ジークフリート牧歌」の録音場所が判明。

LINE仲間のひとりNさんは、拙ブログでも以前ご紹介した「ミュージックカフェ・Figaro」のマスター(現在は閉店)で、広範な音楽愛好家である。
そのNさんから昨日おくっていただいた画像がこれだ。
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ワーグナー作曲「ジークフリート牧歌」
ブルーノ・ワルター指揮 交響楽団 1930年5月16日録音。

ワルター・ファンなら、この指揮者が殊のほか愛好した曲であることはご存知だろう。SP時代に限っても、1924年から1935年迄の短期間に4種類も録音しているくらいである。
Nさんの画像は米Columbia盤。状態は大変良く、一緒に送られてきた第1面のライン出力による再生音を拝聴しても、針音もほとんど感じられない、優れた音質である。

注目点は、レーベル面に記載された録音場所だ。The Central Hall Westminsterと書かれている。ウィキで検索するとすぐに出てきた。ロンドンにある英国メソジスト派教会内にある多目的ホールで、1911年に竣工されたとのこと。
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建物の正面。屋根のすぐ下に「メソジスト・セントラル・ホール」の銘板がある。
内部の写真。
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コンサートホールではなく、教会の集会場の雰囲気である。
オルガンもあって天井が高い。音響効果はよさそうだ。かつて英国で最高の音響と言われたが現存しない「キングズウェイ・ホール」によく似ている。

さて気になるのは、録音データも録音場所も無記載が当たり前だった1930年という時代に、なぜ、ここで収録されたことがわざわざ記載されているかである。
DANNOさんの浩瀚なワルター・サイト「活動記録」を紐解くと、この時期ワルターは、コヴェント・ガーデン王立歌劇場で、毎年恒例になった連続オペラ公演をやっていて、演目はワーグナーの「ニーベルングの指環」4部作、同「ニュルンベルクのマイスタージンガー」シュトラウスの「こうもり」である。
5月14、19、21に「こうもり」、23日に「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を指揮。これがこのシリーズの最終公演となっている。「ジークフリート牧歌」のレコーディングは「こうもり」の間隙を縫って行われていて、同じ日に「マイスタージンガー」前奏曲も録音されている。
つまりこの録音は、コヴェント・ガーデンでの上演とリンクして行われているわけだ。

コヴェント・ガーデンからThe Central Hall Westminsterまでは1.5マイル、車で7分という近距離。
そうすると、演奏団体の「交響楽団」はコヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団のメンバーという可能性が高くなる。公演のない日に関連曲を収録するというわけで、レコード会社にとっては、なかなかリーズナブルな企画のはずだ。
通常EMI録音は、有名なアビー・ロード・スタジオで行われていたが、そこはコヴェント・ガーデンからは4マイル、車で17分の距離にある。そこで推測だが、当時の交通事情では不便だったので、近隣に別会場を誂え、使用にあたって教会の支援を受けたということで、会場も明記した…ということではないだろうか。
訂正:「えー、アビー・ロードスタジオは1931年からじゃないの?」とチャランさんに助言されたので、確認してみた。すると、英グラモフォン・カンパニーは1929年にアビー・ロードの建物を取得してスタジオにするための改修工事を行い、1931年11月にEMIスタジオとしてオープンしたとのこと。EMIは英グラモフォンと英コロムビアが1931年に合併してできた会社。ということで、この記述は不正確でした。

レーベル面のたった一行の記載で、いろいろなことがわかる。レコードというのは実に面白い。当時のロンドン、教会の様子を思い浮かべながら聴いてみよう。

YouTubeを検索してみたが残念ながら発見できない。そこで、ウィーン・フィルとの銘盤、1935年盤をリンク。日本盤SPからの復刻は上出来だ。




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コメント

コメント(8)
ワルターのディスコグラフィーって
ブルーノ・ワルターの録音については、世界中で沢山の愛好家が調べてるんですね。みっちもちょっと調べてみて、その量の多さに一驚。(笑)
まず、ここ(ウィキペディアのBritish Symphony Orchestraの項)
https://en.wikipedia.org/wiki/British_Symphony_Orchestra_discography#cite_note-26
にはワルターが1930年5月16日にCentral Hall, Westminsterで、Columbiaに残した3枚の録音(ジークフリート牧歌、マイスタージンガーの前奏曲、プロメテウス序曲)が挙げられています。
ここでジークフリート牧歌の注には、James Altena氏のディスコグラフィーが挙げられており、ここでは、問題の「Symphony Orchestra」を「British Symphony Orchestra」としています。ただし、これはColumbiaのデータにはないので、あくまで推測でしょう。それと、この盤が東芝からCDで出されていたことが分かります。TOCE-8051~64「ワルターの芸術第2期~9大管弦楽団編 ワルター / RPO、パリ・モーツァルト記念祭o. 他 [14CD]」ですね。
いやぁ、深いなぁと驚きました。

みっち

2021/05/21 URL 編集返信

yositaka
Re:ワルターのディスコグラフィーって
みっちさん
さすがの早い反応です。ネコパパはすぐに架蔵のTOCE-8051~64を確認してみたんですが、このボックス、録音場所の記載はただの一つもないんですね。
復刻音はなかなかいいんですが、データに関してはラフです。

そして、おそらくこの東芝盤が世界初のCD復刻で、LPの方は日本ワルター協会が研究用として製作したBWS1048が初復刻でしょう。
実はこれ、二つとも会長の菅一氏所有のSP盤が元になっています。おそらくNさん所有の英Columbia LX79-80と同じものでしょう。
東芝以外で出ているCDは仏DANTE盤ですが、ひょっとすると東芝盤のコピーかも。

オーケストラ名は、以前どこかのネットからダウンロードした「Bruno Walter dirige el Idilio de Sigfrido(イタリア海賊盤?9種類の「牧歌」とリハーサルを収録)」というデータ音源ではBritish Symphony Orchestraと記載されています。その根拠は不明です。

yositaka

2021/05/21 URL 編集返信

謎の「交響楽団」
ネコパパさん、訂正がはやいですね。

謎の「交響楽団」は、コロンビアが押さえていたセントラル・ホールの演奏。
1931年に活動を停止した「旧RPO」、寄せ集めの「英交響楽団」1930年10月からの「BBC」など考えましたがディスコグラフィに注記がないのと日付と場所の状況からネコパパさんの推察した通り「コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団」のアルバイト?とおもわれますね。

チャラン

2021/05/21 URL 編集返信

yositaka
Re:謎の「交響楽団」
チャランさん
アビー・ロード・スタジオの建物は、19世紀に建てられたものという記憶があったので、1930年にはスタジオ稼働していると勘違いしました。検索すると、1831年に集合住宅として建てられたものの、レコーディングスタジオ化は1929年以降と判明。
適当な記憶ではダメだと改めてわかりましたが、ネコパパはなかなか懲りない。

「交響楽団」については「ブリティッシュ交響楽団」としているJames Altena氏のディスコグラフィーの根拠がわからないと、進展は難しいと思います。
音源データの「Bruno Walter dirige el Idilio de Sigfrido」の記載の根拠も不明ですが、案外、James Altena氏にならっているのかもしれません。
ちなみに別の曲で「ブリティッシュ交響楽団」を「BBC交響楽団」と記載している盤もあります。独エレクトローラ盤です。これは単なる誤記かもしれません。ややこしい。

yositaka

2021/05/21 URL 編集返信

深い話ですね~~~
HIROちゃんです。
ワルターの音源はLP、CDで結構な枚数を架蔵はしているのですが、SP録音は限られたものしか持っていません。
ネコパパさんのワルターの投稿内容は深いですね。知らないことばかり・・・
勉強させてもらっています。

HIROちゃん

2021/05/23 URL 編集返信

yositaka
Re:深い話ですね~~~
HIROちゃんさん
ファンの道草です。自分の興味のある事象や人物についていろいろと想像するのが楽しいんです。昨日DANNOさんからディスコグラフィーが届いて夢中で読んでいます。「ジークフリート牧歌」30年盤の録音場所についてはちゃんと記され、オケは「ブリテイッシュ交響楽団」になっていました。
うーん、やはりブリティッシュか、と思いながら、たまたま最近出たワルターのコンプリートボックスの分厚い解説書を見ていたら、なんと、そこにもHMV時代のディスコグラフィーが掲載されていて、The Central Hall Westminsterと記され、オケは「ブリティッシュ交響楽団」となっているんです。
既にSonyが公式発表していたんでした。
ただし、このディスコグラフィー、よく読むとコロムビアやソニーの編集じゃなく、高名な個人ディスコグラファーのマイケル・グレイ氏の編纂したものなんですね。受け売りか。ということは、自社にはもう資料がないのかもしれません。

yositaka

2021/05/23 URL 編集返信

続 謎の「交響楽団」
「英国交響楽団」とはなにと、気になりウィキを再度検索しました。1929年末からの世界恐慌で英国の主たる楽団は、疲弊し1930年5月16日のワルタの演奏をした「交響楽団」をアンサンブルとして「英国交響楽団」と表記したようですね。
「交響楽団」「英国交響楽団」とすれば協会や楽団に契約料をはらわなくてもいいですしね。(せこい)のでなく演奏家の救済か?
ネコパパさん推測のオペラ演奏に特化した楽団も・・・ありえますね。

PS:デニス・ブレインのSP 3セットありましたのでメールしました。

チャラン

2021/05/24 URL 編集返信

yositaka
Re:続 謎の「交響楽団」
チャランさん
英国でのオーケストラ事情や録音事情が錯綜してつかみにくいのは、システムが違うんですね。
ロンドンは東京以上にオーケストラの多い都市ですが、その理由は、長く続いた「協会方式」のためもあります。
メンバーを固定せずに演奏会ごとに招集。楽員は複数の協会に登録して、いろいろな演奏会にダブって登場する。報酬はその度に支払われる。
デニス・ブレインも、ロイヤル・フィルとフイルハーモニアの掛け持ちでした。
そのロイヤル・フィルは、ビーチャムが1946年に設立した団体で、ワルターやワインガルトナーが指揮したり録音していたSP時代のロイヤル・フィル協会オケとは別団体です。(昔のロイヤル・フィルは1931年に活動停止、1932年設立のロンドン・フィルの母体になったとウィキに書いてあります。ややこしい)

戦後は、首席奏者はかなり固定しましたが、他の団員は今も相互乗り入れ、という話を読んだ記憶があります。その首席奏者や経営スタッフのヘッドハンティングは今も盛んで、昔NHKで放送されたフィルハーモニアのドキュメンタリー番組「ザ・フィル」でもその様子が描かれていました。

yositaka

2021/05/24 URL 編集返信

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Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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