ワルターのステレオ盤「田園」の真の音とは?

名曲喫茶「ニーベルング」にチャランさんが持ち込んだLPレコードが、これ。
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おなじみのブルーノ・ワルター1958年ステレオ「田園」、米CBS盤である。
実は矢場町某中古店でネコパパも目にしていて、ちょっと気になっていたけれど、チャランさんがさきにお買い上げになってしまった。
何が「ちょっと気になっていた」のかといえば、音質問題だ。

昔、ネコパパはこれと全く同じジャケットデザインのCDを持っていた。
1980年代前半、この録音のプロデューサーだったジョン・マックルーアは、CD発売のために新たにマスターテープから音を作り直した。
当時これは、CDとLPの両方で国内盤として出され、大きな話題になっていた。
豊田市で単身赴任中、まだCDプレーヤーを持っていなかったネコパパは、熟慮の末、LPの方を入手。定価は2000円。
買ったのは豊田市駅近くの、職場の出入り業者でもあった楽器店だった。教員割引が効いたのだ。
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まもなく、安物ながらCDプレーヤーも購入(同じ店で割引購入したYAMAHA CD-350)したので、当然、そちらも欲しくなる。
ところが当時のCDは高価でねえ…定価3500円は、おいそれと出せない。
で、ある日店頭で、これの輸入CDを見つけたわけだ。
デザインは…チラシみたいに文字ばかりで、ぱっとしないが、価格はLPより少し安い。
飛びついた。
初めて聞くワルター「田園」のCD。期待して、聞いてみたが、これが意外や、LPに比べて音が引っ込みがちで、あまり冴えない。がっかりして、何度も聞かないうちに手放してしまった。

それから約40年を経て、なんと同じデザインのLP盤が眼前にあらわれたというわけだ。
番号はMY36720、「ディスコグス」によると、発売は1981年とある。
ジャケットにはリミックスと書いてある。日本盤と同じジョン・マックルーアによるリミックス盤に違いない。
「ニーベルング」にも、ネコパパ愛蔵の日本盤LP、20AC1811はあったので、マスターに懇願して第1楽章のみ聴き比べをさせてもらった。
結果は、かなり違った音だった。

20AC1811…発売当時は音の鮮度向上に驚いたものだが、印象は今聞いても同様だった。ダイナミックレンジが広く、特に低音が鮮明で、ワルターらしいチェロとコントラバスのゴリゴリと強い土台の音が勢いを持って迫る。
そのかわり、テープに起因するサーフェイスノイズも乗っていて、フォルテは飽和してささくれる感じ。
相対的にヴァイオリン、ヴィオラは細身で、柔らかく叙情的という一般的なイメージの刷新を迫る音にも聞こえる。

MY36720…冒頭から音がつややかで、ワルターのイメージを裏切らない、しっとり感のある音の質感になっている。低弦の強靭さはもちろんあるが、やや角が丸まった感じで、弓が弦をこする生々しさは20ACに比べて押さえ込んだものになっている。
サーフェイスノイズも適度に抑えられていて、耳あたりがいい。
音の鮮度感から考えると、もともと同じマスターテープによるものと感じられるが、それでも、随分違うものだ。
現在の耳で、当時のCD同士を聴き比べたとしたら、同じ印象になりそうな気がする。
プロデューサーによってリミックスが終了した音源でも、商品化の段階までに何人もの手が加わっているのだろう。
そこに、音の違いが出る。
日ソニーのスタッフは、多少の音の荒れは覚悟して、マニアックに音源の情報をストレートに反映させようとしたのに対して、米CBSは、耳あたりの良さを重視した結果、こういう音になったのかもしれない。

1958年盤「田園」の真の音をめぐる冒険は、今も終わっていない。

2020年、ワルターの音源が新たに見直され、アメリカのレコーディング・エンジニア、アンドレアス・マイヤーがリマスタリングを施した米コロムビア録音が再発売された。
好みはともかくとして、音の変貌ぶりは著しい。
今回のコンセプトは、録音当時のダイナミックレンジと音のバランスを再現することで、発売当時の再生装置の限界を考えずに構築したとのことである。
たしかに広域も低域もぐんと伸びた一種「凄い音」がする。ワルターやオーケストラ、それに録音スタッフがアメリカン・リージョン・ホールで実際に聞いた音は、こういうものだったのかもしれないと思わせる。
でも、長年LP用に、やや中音域よりに整音されたサウンドを聴き慣れているネコパパにとっては、こういう音は、いささかダイナミックレンジが広すぎて「耳が付いていかない」ところがあるのも事実だ。
1980年代のLPの音は十分に肯定できるネコパパも、これには正直、ちょっと当惑気味である。
もっともこれは、米ソニーのコンプリート・ボックスに含まれた通常CDを聴いての感想である。
巷間いろいろと論議が盛んなSACDの方は、とりあえず入手だけはしたのだが、まだ取り出して聴く気持ちになれずにいる。
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思い入れのある録音なだけに、聴くのがちょっと怖いのだ。


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コメント

コメント(4)
中古店
先ほど、有線ルータからWi-Hiルータに交換が終わったらネコパパさんの記事があり
驚いています。
ワルター盤は、松坂屋でルータを購入したついでにお店に立ち寄り「断捨離だ」と言いながらワンコインで100円のお釣りでまあいいかと思い購入し、その足で名曲喫茶に行き封を切りました。
聴いて1981年のリマスター版は、音作りが菅野沖彦さんのように音の輪郭が明瞭で聴きやすくこれは私好みの掘出物でした。
後、ディスココープ(米協会盤)SID-721のシュナーベル/ゼルのベートーヴェン ピアノ協奏曲第3番1945年ライブ(さすが協会盤シュナーベル独自のタッチを良く捉えている)
とメロディアM10 46683(新世界レコード社輸入)フルトヴングラー ベルリン・ライブ第12巻「1942年録音」にひかれて購入(テープノイズ除去のせいか?フルベンらしさが何もない)「安物買いの銭失い」でしたがLP3枚野口さん2枚でお釣りが中コイン3枚・・・。
このお店「クラッシックのCDが、多いね」と家内が言っていますがせっかく棚を整理したのに…ネコパパさんの餌場を荒らさないようにします。

チャラン

2021/05/02 URL 編集返信

yositaka
Re:中古店
チャランさん
矢場町松坂屋に隣接する雑居ビルにあるあの店は、ジャズにしてもクラシックにしてもなかなかの品揃え。行くたびに何らかの発見があります。先日これをスルーしたのは、クナッパーツブッシュ指揮ミュンヘン・フィルのブルックナー第5交響曲のLPを買ってしまったためです。ネコパパ基準では高価な買い物でしたが、結果は大満足です。
ワルターの田園はLPだけでも無数に再発され最近は45rpm盤まで出ています。いわゆるオーディオファイルと呼ぶには似合わない音質ですが、まあ人気盤なのでしょう。

米ワルター協会=ディスココープのシュナーベルも古い音ではありますが、臨場感は十分です。ベートーヴェンの第3協奏曲など、楽章ごとに湧き起る拍手もノーカットで収録しているのがいいですね。ディスココープの盤はテープの出処など怪しいところはありますが、音のまとめ方は実に上手いと思います。掘り出し物です。

1990年発売の黒ジャケ・メロディア盤は、神保町にあった新世界レコードが混乱期のロシア連邦と交渉して販売に至ったもの。CD時代なのに、よく出せたものです。音質は徳岡氏も評価する高品質です。
ただ、疑惑盤も入っていますので、事前の調査は必要ですね。

yositaka

2021/05/02 URL 編集返信

同じ音源でも音が違う・・・
同じ音源でも音が違うんですね~~~
このコロンビア響のワルター盤の新品LPレコード(1980年代の発売)を何と100円で今日の仕事の昼休み中に近くのリユース・リサイクル店で購入しました。
レギュラー品ではありませんが正規品と同じものです。
あまりにも嬉しくなり、ブログに投稿してしまいました。

HIROちゃん

2021/05/07 URL 編集返信

yositaka
Re:同じ音源でも音が違う・・・
HIROちゃんさん
100円で新品同様とはラッキーでしたね。そういうものがまだまだあるというのは、この盤が日本人に愛された、愛されている証でもあると思います。何度聞いても素晴らしいと思うのですが、音質が少しでも違っていると、また別の味わいがあるのです。

yositaka

2021/05/08 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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