アーカディン氏-秘められた過去

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談話室香津原・映画サロンでこの映画について語り合うことになりました。日本では長らく未公開だったもので、DVDなどのメディアも手に入りにくいということで、「特別なルート」で鑑賞させてもらうことに。

秘められた過去(ミスター・アーカディン)Mr. Arkadin(Confidential Report) 
監督・原案・脚本/オーソン・ウェルズ
プロデューサー/ルイ・ドリヴェ 
撮影/ジャン・ブールゴワン 音楽/ポール・ミスラエ 1955年作品(91分)
出演/
オーソン・ウェルズ(グレゴリー・アーカディン) 
ロバート・アーデン(ガイ・ヴァン・ストラッテン) 
パオラ・モーリ(ライナ・アーカディン) 
アキム・タミロフ(ジョコブ・ズーク)

■ストーリー

12月25日、1台の飛行機がバルセロナ沖で発見された。操縦者の人影はなかった。無人で飛んでいたのである…

ある夜のナポリ湾。一人の男が何者かに背中をナイフで刺される。
犯人とおぼしき義足の男は、警察に追われて海中へ。偶然近くをとりかかった海兵崩れのアメリカ人青年ガイ・ストラッテンと、恋人のミリーは、ブロッコと名乗るその男の最後を看取る。ブロッコはミリーに2人の名を言い残す。グレゴリー・アーカディンとソフィーという名である。

密輸の容疑で警察に捕まっていたガイは出所後、有名な大富豪アーカディンを、殺された男のダイイングメッセージをネタにして、ゆすろうと企む。首尾よくアーカディンの娘ライナに近づくことに成功し、仮装舞踏会でアーカディンに会うが、ガイの企みを見抜いていたアーカディンは、逆に「ある調査」の仕事をもちかける。実はアーカディンには、1927年にチューリッヒで大金とともに発見される以前の記憶がないという。ガイは娘には会わないという条件をのんで、調査を引き受ける。アーカディンは、ミリーにも接近し、ガイの持つ情報を聞き出す。ガイは各国を駆け回って調査を進め、次第に真相に近づくが、なぜか彼の行く先にアーカディも出没する。

やがて真相のカギを握る女、ソフィがメキシコにいることを突き止めたガイは、今はマルティネス夫人と名乗るソフィからアーカディの過去を聞き出した。アーカディンは奴隷の売買をやっていたギャング団のボスであり、殺されたプロッコは彼の部下であった。ガイを追うようにアーカディンもメキシコにやってきていた。やがて、アーカディンの過去にかかわる人間は次々に変死を遂げ、ミリーも転落死する。身の危険を感じたガイは、ギャング団の最後の生き残りである老人ズークを見つけ出し、それまでの事情を語ってアーカディンからの逃亡を図るのだが…

■ネプチューンの寓話?

怪優オーソン・ウェルズの存在感だけで見せるような映画だ。不可思議なストーリー、技巧を駆使した光と影のモノクロ画面。カメラはめまぐるしい速さでヨーロッパ各国をめぐるが、全体の暗い色調にすっぽりと覆われ、闇の中を手探りで進むような趣がある。
ストーリーをみると、ミステリーだが、謎解きの面白さや緊迫感はあまりなく、前半であらかたの謎が説かれて、あとは背後からすべてを睥睨つつと独自の行動をするウェルズの不気味な存在感が際立つことになる。

しかしこのキャラクター、娘のために過去を抹殺しようとする狂った殺人鬼…という類型には、どうも収まりにくい。記憶喪失も嘘なのか本当なのか、昔の関係者を抹殺するなんて、彼にとってはいとも簡単なことのはずなのに、なぜ回りくどくガイに調査させるのか。愛娘にやくざ者を近づけないためなら、もっと簡単な方法があるはずなのだ。とすると、映画はひたすら「表現の実験場」に徹しているのか、それとも何か寓意があるのか。俳優も、娘役のパオラ・モーリが謎めいた気配を漂わせて魅力的ではあるが、出番というほどの出番もなく、みな監督ウェルズの手中の駒という感じ。

「ぴったりだ」と思った箇所がある。使用人らしき少年が、アーカディンを指して「ネプチューン」と呼ぶところ。うん、まさしく。のちに彼のトレードマークとなる髭面が、ウェルズのごつい体躯と四角顔によく似合う。この映画では彼が神なのである。
ネプチューンは、ローマ神話の海と地震の神。ギリシャ神話ではポセイドン。ゼウスの弟で、三俣の矛を持ち、怒りが地震災害を引き起こすという凶暴な神。蛇女メデューサは愛人の一人で、二人の子はみな怪物だという。彼が初めて登場する場面が仮面舞踏会で、その仮装がみな、フランケンシュタインや狼男みたいな怪物ばかりだというのも、そこを暗示しているみたい。そういえば、アーカディンの過去の秘密を知るソフィーはメデューサ的魔女のように描かれているし、最後に秘密が娘に漏れたと知るや、突如「消失」してしまうなんて、いかにも神話的な展開とも読める。

さて、サロンではどんな話が飛び出すか?

この場面は仮面舞踏会でアーカディンが一席ぶっているところ。イソップ寓話がもとになっているという「カエルとサソリ」の話です。
サソリ「オレを背中に乗せて川を渡ってくれないか」
カエル「オマエはオレを刺すっからイヤだ」
サソリ「そんなことをしたら、オマエが死んでオレも溺れ死ぬだろう」
カエルはサソリを背中に乗せて川を渡ってやった。ところがやはりカエルは背中にちくりと痛みを感じ、カエルは死に、サソリは溺れ死んだ。
サソリ「仕方がない、そうしないといられないのがオレの性格なのだから...」
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コメント

コメント(1)
yositaka
話尽きぬ3時間
サロンでは3時間あまり語り合いましたが、どうも話がほかの話題にそれ気味。カメラの角度の異様さや結末の不可解さのために、出席者の皆さんはかなり当惑気味の様子でした。
果ては、ヒロイン役のパオラ・モーリはこの映画製作と時期を同じくしてウェルズと結婚し、添い遂げたことからアーカディン氏の娘に対する執着心と最後の結末を説明してしまおうという、イージーな感想もあらわれました。現実と映画をごっちゃにするのはまずいのですが、この場合は、わかりやすすぎる説明が付いてしまいます。それもまた興味深い。
ちなみに、ネコパパの神話説も肯定的に受け入れてもらえました。
ウェルズという人は文学に造詣が深く、観客の深読みを期待する人だったようで、それがまた一般の人気を得られない一因になっていたかもしれないとのことでした。
同じ映画をみんなで見て語り合うという初めての体験でしたが、けっこう楽しかったですね。
次回はジャック・ドゥミ監督の1961年作品「幸福」が取り上げられるようです。
これも未見の映画ですが、さて?

yositaka

2021/04/27 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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