滔々たる歩みのトルトゥリエ「ドヴォコン」。

愛読しているハルコウさんのブログに、ネコパパの愛聴曲であるドヴォルザークのチェロ協奏曲のレピューが次々に掲載されていて、毎回興味深く拝読しています。
ネコパパ自身は1970年代初頭に日本コロムビアから発売されたムスチスラフ・ロストロポーヴィチの独奏、ヴァーツラフ・ターリッヒ指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団による1952年録音のLPではじめて全曲を聴いてすっかり「ぞっこん」になり、50年経った今も、その気持ちは続いています。
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ブラームスの後押しで世に出たドヴォルザークですが、作風は大違い。ブラームスが陰と欝とすれば、ドヴォルザークは陽と躁、けれどもそれだけではなく、彼の紡ぎ出す旋律にはそこかとない郷愁と哀愁の色が漂います。
「新世界交響曲」第2楽章の「家路」のメロディが終わったあとの中間部、スラブ舞曲第10番、交響曲第8番フィナーレのコーダ直前のため息をつくようにテンポを落とす部分など、何度でも聴きたくなります。
チェロ協奏曲は中でも一番のお気に入りで、第1楽章第2テーマはもちろん、フイナーレのコーダでヴァイオリンソロと掛け合いながら心情吐露する場面など、もう最高です。

というわけで、この曲の音盤は数しれず架蔵していて、フルニエ、デュ=プレはじめ、愛聴盤も少なくないのですが、ハルコウさんのお褒めになっている盤でひとつだけ、演奏がまったく記憶に残っていないものがあるのが気になりました。
これです。
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ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調
ポール・トルトゥリエ(チェロ)
ロンドン交響楽団 アンドレ・プレヴィン(指揮)
1977年

架蔵盤は、独EMIから80年頃に出たLPです。
中古で購入しましたが状態は新品同様でした。DMM仕様。名エンジニア、クリストファー・パーカーの手腕が発揮された名録音です。
ハルコウさんは演奏について以下のように述べておられます。

第1楽章
渋い音色で格調高く…適度な熱っぽさもあり…第2主題も滑らかにたっぷりとチェロを歌わせ、音色も美しいです。展開部の第1主題が2倍のテンポで演奏される場面は、音色を工夫し、素朴な味わいを表出しています。
第2楽章
時に狂おしいまでの感情が込められています。技巧的なパッセージをこんなにはっきりと演奏してくれる録音も少なく…カデンツァ風モノローグも気品があり、感情表現も豊かです。
第3楽章
求心力が高く、本当に惚れ惚れとするチェロ…、機械的にではなく熱っぽく演奏されるのが心憎いです。オーボエが美しいメロディを吹いた後、第2副主題を独奏チェロは昔を懐かしむように演奏します。…クラリネットに第1楽章冒頭の動機が出た後のチェロの高音域も美しく伸びやかに響きます。

聞いてみて、全く同感でした。
とりわけ、素朴さの中に熱いものを秘めた音作りは、師匠パブロ・カザルスの息吹を感じさせます。全体に遅めの滔々とした進行の中に、どの部分をとっても瑞々しい新鮮さが感じられるのは、細部まで鮮明で生き生きとしたプレヴィンの指揮ともども、魅せられます。
こんないい演奏を、なぜ忘れていたのか、理解に苦しみますが…強いてその理由を想像すると、全体の調子がずっと同じで、感情が湧き上がり沈み込む躍動感というか、起伏の大きさというか…その辺が今ひとつ抑制気味に感じることでしょうか。
決してドラマに乏しいというのではなく、過不足のない完成度を誇っているのですが、トルトゥリエの演奏に、後一歩のところで「やりすぎ」を抑制する意識が見られる気がしたのです。「弾き飛ばし」を避け、全ての音を丁寧に弾ききるために、テヌートを長めにしているのも、そんな印象を強めている気がしました。

だったら、ネコパパ大のお気に入りの、スティーヴン・イッサーリスもそうではないか…と言われそうですが、トルトゥリエのあとにイッサーリスの第3楽章をきいてみると、確かに彼もまた、塩辛く、素朴な響きを主体に、轟音を避けた演奏を行っていることがわかります。
ダウンロード
ところが、表現から受ける印象は違います。
冒頭第一音から、俊敏なアクセントや、瞬間瞬間の音のキレがただ事でなく、音圧自体は抑えているにもかかわらず、その勢いは捨て身の音の乱舞を思わせ、あっという間に飲み込まれてしまいます。
これに比べるとトルトゥリエは音価いっぱいに格調高く弾きますが、やや慎重で「一歩引いた表現」と思えなくもありません。立派ではあっても「息を呑む」感じではない。

まあこれは、演奏の善し悪しとは別の、聞き手との「相性」ということになるのでしょうね。


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コメント

コメント(2)
素晴らしく相性が良かったです
ネコパパさん、こんにちは。
「愛読」だなんて光栄です!
宣伝してくださいましてありがとうございました。
ジャクリーヌ・デュ・プレの演奏を2枚聴いた後で、【決定盤】マークを付けているのですから、トルトゥリエ&プレヴィン/ロンドン響の録音は私と素晴らしく相性が良かったのでしょう。惚れ惚れとする名演でしたが、ご指摘のような点もあるかもしれません。
一番最初に取り上げたイッサーリス&ハーディング/マーラー室内管の演奏をもう一度聴いたら、感想が変るでしょう。ただ、29回に渡ってドヴォルザークのチェロ協奏曲を聴き続けてきて、もうしばらくはいいやというのが本音です。次回からはまたブルックナーに戻りたいと思います。

ハルコウ

2021/04/24 URL 編集返信

yositaka
Re:素晴らしく相性が良かったです
ハルコウさんのブログを拝読していると、ネコパパも改めて聴き直そうという意欲が出てきます。
このチェロ協奏曲は名演奏がまた多い。
よく知られているもの以外でも、アントニオ・メネゼスとか、アントニオ・ヤニグロがエーリッヒ・クライバーと共演した放送録音、長谷川陽子、それにレナード・ローズとオーマンディとの共演盤も、素晴らしい演奏でした。チェリストたちにも熱愛されている曲なんですね。

yositaka

2021/04/24 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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