春の聴き会と、蓄音機針の遍歴譚。

4月にクローズドで実施予定の、第2回蓄音器聴き会のプログラム制作係りを担当することになりました。
公開の会ではないので、詳細を述べることはできませんが、仲間内で春めいた、ワクワク感のある選曲を、ということで計画中です。コロ難儀も低空飛行で埓があかないままですが、そんなことにはお構いなくやって来る桜の季節。対応は万全かつ、存分に楽しみたいと思います。

ネコパパの担当曲(予定)はこんな感じです。メニューインの「春」は架蔵していないのでマスターSからお借りしました。
予定曲
再生テストで、井上マスターから秘蔵の蓄音機針を提供していただいたところ、大変個性的な再生音が聞けました。クラシックの2枚は、ドイツ製のテレフンケン鋼鉄針です。これは黒く塗装されていて、黒光りするメッサーシュミット戦闘機のような風格ですが、音は全然強面ではなく、たいへんまろやかです。ミディアム。本番用に2本確保しておきましょう。
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もうひとつは、赤と白の二色に塗られた、一見、蓄音機針とは思えない仕様です。
陶器製の針だそうです。
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これは、細身の音がするのではと思ったのですが…
トミー・ドーシー楽団も「さくらさくら」も、轟音と言っていいくらいの鳴りの良さでした。
先端が太めなのでラウド針といっていいでしょう。摩耗も早い感じで2回かけるのは怖いかも。
ヤスリで磨けば最使用可能なんでしょうか。

どうしてこんな針があるのかと思ったのでネット検索してみると、なんと、日本ブルーノ・ワルター協会会長を長年勤めておられた故 菅一(すが・はじめ)氏の証言が出てきました。
ネコパパは遥か昔、高校生の時に、一度だけお会いしたことがあるのです。といってもほんの挨拶程度でしたが…

菅氏によると戦前一般的に用いられていたのは鋼鉄針で、一面一回使用が原則でした。コロムビア・ラウドの蓋を開けると”針は一回だけ使用”つまり一面毎に取り換えるようにと、注意表示があったそうです。竹針も戦前から使用され、上品な落着いた音であると、一部の愛好家に珍重されていたとのこと。しかし、支那事変中に物資統制令が出て、鋼鉄針は禁制品となり、それ以後竹針の供給が増加。鋼鉄針が製造禁止になると、各社はこぞって鋼鉄針にクローム加工した十回針や長時間針を製造し始めました。
最も優秀であったのは、戦前の日本コロムビアの「ラウド・トーン」と「ミディアム・トーン」と呼ばれる長時間針で、扇形の缶に収納されていたそうです。
で、問題の「陶器針」の部分を引用…

陶 針 
 長時間針が姿を消した後、一般にはどんな針が用いられたのか、普通の流行歌や軍国歌謡のレコードには、竹針は不適て、鋼鉄針でかけちらした、すれたレコードだけてなく、新品でも(竹針再生は)無理だったし、其の様なファンは竹針を使用しようとはしなかった。
 そこで生れ出たのは、陶器製の針であったが、其の後現れた両端針の方が長時間使用可能であったので、陶針の生命は短かかった。針としての効果は鋼鉄針と竹針の中間、やゝ鋼鉄針寄りと言えよう。但し、最大の欠陥はもろくて折れ易い事で、ビックアッブやサウンドボックスに挿入した時に、捻子を強く締め過ぎると中で二つに折れたのである。またフォルティシモの箇所て針の先端が折れる事も起った。改良されれば良い物になったろう。
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禁制品のはずの「鋼鉄針でかけちらした」の意味が不明ですが、おそらく使用済みの針を研磨したが、摩耗した古針を使ったということでしょう。
菅氏の耳には陶器製は、当時の粗悪な鋼鉄針よりも良い音と感じておられたのではないかという気がします。
一読して感じられるのは、鋼鉄針が製造禁止になってもなんとか工夫して代用品を作り出そうとするメーカーの奮闘ぶりです。戦時中であってもそれほどに人々は音楽を求めていたということなのでしょう。
昭和16年を過ぎるとレコードの材質も次第に劣悪になっていったというのはよく言われることですが、再生針も十回針だのセンカイ針だのと、劣悪なものが使われていたために、盤の摩耗も早かったと想像されます。クラシックの組ものが第1面だけ摩耗していることが多いのも、そこだけ繰り返しかけたからというより、満足な針がなかった為とも言えそうです。

大変参考になる記事でした。
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コメント

コメント(2)
陶器針
こんばんは

竹針というのはよく聞きますが、材質によって音質が変わるのはわかる気がします、
陶器針というのは初めて聴きます、磁器ではなく陶器とはさらに脆そうですが、それが使われたのが不思議に思います。
1回ごとに針を替える・・それは大切に聴いていたんでしょうね。

michael

2021/03/17 URL 編集返信

yositaka
Re:陶器針
michaelさん
私も初めて見ました。
色合いと見た目から柔らかい音を想像していたのですが、全く違っていて驚きました。針先が白いため、かけ終わったあとにレコードの成分であるシェラックの粉が付着していることがよくわかります。
また、蓄音機針はかけたあとの針の摩耗や変形が、肉眼で確認できます。
音の大きな盤を再生すると、摩耗が大きいため、もう一度これを使おうという気持ちにはなれません。
アマゾンなどで販売しているJICO製のカーボン針は6回使用できると書かれていますが、まあ、2回ですね。
蓄音機再生は、盤にダメージを与えるので、SP盤をコレクションと考えるなら、SP用カートリッジを使用した電気再生が安全です。蓄音機は、あくまで趣味的なものです。
うちには貴重なSP盤などはないので、ダメージなんか全然気にしません。

yositaka

2021/03/18 URL 編集返信

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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