2021年ウィーン・フィル/ニューイヤー・コンサート

毎年恒例のコンサートが、今年は無観客開催という前代未聞の事態に。そんな興味もあって、ネコパパ、久々に二回に分けてじっくりTVで拝聴した。長時間のTV視聴は苦手なのだが、どうしたわけかここ何日か腰が痛くなって、じっとしているしかなかった…という事情もある。
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指揮者はリッカルド・ムーティ。
登場はもう6度目になる。常連と言っていいだろう。最初が、あの鮮烈なカルロス・クライバーの翌年1993年。以降、97、2000、2004、2018と続く。そんな彼が、この特別なコンサートでどんな音楽を引き出すのか、期待感はあった。
プログラムは以下の通り。

【第1部】
スッペ
ファティニッツァ行進曲(初登場曲)
ヨハン・シュトラウス2世
ワルツ「音波」(初登場曲)
ニコ殿下のポルカ
ヨーゼフ・シュトラウス
ポルカ「憂いもなく」
カール・ツェラー
ワルツ「坑夫ランプ」(初登場曲)
カール・ミレッカー
ギャロップ「贅沢三昧」(初登場曲)

【第2部】
スッペ
喜歌劇「詩人と農夫」序曲
カール・コムツァーク2世
ワルツ「バーデン娘」(初登場曲)
ヨーゼフ・シュトラウス
マルゲリータ・ポルカ
ヨハン・シュトラウス1世
ヴェネツィア人のギャロップ(初登場曲)
ヨハン・シュトラウス2世
ワルツ「春の声」
ポルカ「クラップフェンの森で」
新メロディ・カドリーユ
皇帝円舞曲
ポルカ「恋と踊りに夢中」
【アンコール】
ヨハン・シュトラウス2世
狂乱のポルカ
ワルツ「美しく青きドナウ」
ヨハン・シュトラウス1世
ラデツキー行進曲
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拍手喝采を届けるために、世界中からオンラインで拍手を届けるという趣向があったものの、それは第1部と第2部の終わりだけで、基本的に静寂の中で演奏は進んだ。楽団員がムーティに楽器を叩いて敬意を表するものの、それは逆に観客の不在を際立だせる。
しかし、無観客のムジークフェラインザールに響き渡るウイーン・フィルの響きは、TV視聴であっても素晴らしかった。1979年以降、この楽団のウィンナ・ワルツ録音はすべてライヴ録音となってしまい、セッションで収録されたのは1976年のヨーゼフ・シュトラウス生誕150年を記念したボスコフスキーとのアルバムが最後ではなかったか。今回は偶発的とはいえ、44年ぶりのセッション録音となったわけだ。この音を聞くためだけでも、今年のCDは買う価値があるかもしれない。

演奏の感想を書こう。
第1部は特に感じたことはない。きっと2曲のワルツが聴きなじみのない曲のせいだろう。「音波」で流されたウィーン蓄音機博物館の映像には強く興味を惹かれたけれど。
第2部で、演奏の全貌が現れる。「詩人と農夫」「バーデン娘」いずれもテンポが遅く、思い切り音を鳴らす豪快な表現だ。「バーデン娘」は、ハンス・クナッパーツブッシュが得意とし、VHSで発売された映像作品「音楽の都ウィーン」には、ボスコフスキーがウィーン・フィルを指揮した演奏が含まれていたので、まさか初登場曲とは思わなかった。
曲は、ところどころ魅惑的な旋律が現れるものの、全体としては威勢の良い軍楽調。ムーティは緩急豊かに進め、フォルティッシモは存分に鳴らす。拍手喝采がないのはさすがに寂しい。
「春の声」はバレエが入ったので、ついそっちに注意が行くが、ときに強靭なフレーズの響かせ方が「伴奏」を超えた音楽として耳に届く。
今回の白眉は「皇帝円舞曲」と「美しく青きドナウ」ではないか。いずれもテンポをぎりぎりまで遅くとった、踊りの曲を超えた「大きな音楽」として演奏している。一点一画おろそかにしない、楷書風のシュトラウス。フレーズの出だしはことにゆっくり慎重で、吹き流したり、弾き流したりすることがまるでなく、曲を構成するバーツ一つ一つの仕組みや構造が目に見えるように描き出されていく。ただしその分、交響曲を聴くような聴き味で、舞踏音楽らしいリズムの弾みとか、俊敏さとか、飛翔感とかいったものは乏しく、そういう観点で聴く人には妙に堅苦しく、野暮ったい演奏と感じられたかもしれない。ネコパパは「これもあり」と思う。

ムーティの表現は変わった。
1993年、強烈なカルロス・クライバーの印象を払拭すべく、相当意識して自分独自の音楽を生み出そうとしていたムーティは、歌心を前面に、ヴァイオリンがベル・カントで歌うようなスタイルで演奏。2004年まではそれで通したと思う。ネコパパは1997年のヨゼフ・シュトラウス「ディナミーデン」と、2000年の、おそらくニューイヤー史上初めて序奏から完全に演奏したヨハン二世の「酒・女・歌」が好きで、今も時々CDを取り出す。しかし、久々の登場となった2018年、彼は遅いテンポによる「大きなシュトラウス」を初めて提示してネコパパをいささか面食らわせる。今年の演奏はそれに一層の自信と説得力を加えたものと感じる。

最後に演奏された「ラデツキー行進曲」では、慣例化した小太鼓によるドラミングなしで突入。これは、1992年のカルロス・クライバー以来のことだ。カルロスはこの曲をやるのを最後まで渋っていたというが、楽譜にない小太鼓を省略することで妥協したようだ。これをしれっと実行したムーティの胸中はいかに?
それはさておき、手拍子のない「ラデツキー行進曲」は、これはこれで新鮮だった。「青きドナウ」の「ピアニシモでの中断」も、ドラミングも、手拍子もないニューイヤーコンサート、もしやこれは原点回帰?
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コメント

コメント(10)
異例のニューイヤー
こんにちは

まだ当分、無観客演奏会は続くのかもしれませんね、
オンラインレッスンというのにも馴れてきましたが、演奏家もカメラの向こうに
いるであろう、視聴者の反応をイメージしながら・・
ということになるんでしょうかね;?

J.シュトラウスのワルツで特に好きなのは「南国の薔薇」と「皇帝円舞曲」です。

michael

2021/01/06 URL 編集返信

やはり観客がいたほうが・・・いいな~
今回も録画したのですが、まだ半分くらいしか見ていません。
やはり観客がいたほうが、ニューイヤー・コンサートって感じですね。
今回は初登場が多かったのも魅力のひとつでした。

ヨーゼフのワルツや、ポルカが好きですね。
「ディナミーデン」・・・う~~ん・・聴いたことがないな~~って思ったら、ロベルト・シュトルツの12枚組のBOXに入っていました。あらためて聴いたらなかなかいい曲ですね。

クライバーのニューイヤー・コンサートは1989年のDVDを持っていますが、華麗な指揮が魅力ですね。

腰が痛いとのこと・・・お大事に・・・

HIROちゃん

2021/01/06 URL 編集返信

腰痛改善法の提案。
無観客のライブも新鮮で良いですね。
当分こんな感じが続くと思われますが。
思っている以上に小さいホールなんですね。

腰痛ということでしたら私が提唱している腰痛改善法を紹介させてください。
https://www.youtube.com/watch?v=jKnJ3BZpurM&feature=youtu.be
https://t1k.hatenablog.com/entry/64051035
両方とも同じ内容です。
これで治る方もおられるようです。
1週間から10日ほどは毎日行って頂ければと思います。

不二家憩希

2021/01/06 URL 編集返信

yositaka
Re:異例のニューイヤー
michaelさん
「カメラの向こうにいるであろう、視聴者」を意識して演奏するのは、セッション録音も数多いこの団体にとっては、もうひとつの日常でもあります。それだけに、演奏もセッション録音のような、細部まで神経を研ぎ澄ませた演奏に変わったのかも、と感じました。
「南国の薔薇」と「皇帝円舞曲」、私も大好きです。ヨハン二世の曲としてはこの2曲が最も優れているかも。次はと言われれば「ウィーンの森の物語」ですね。ツィターを加えるという絶妙のアイディアで、だいぶ得をしている面もありますが…

yositaka

2021/01/06 URL 編集返信

yositaka
Re:やはり観客がいたほうが・・・いいな~
HIROちゃんさん、ご心配ありがとうございます。頼りになる接骨院が歩いて3分のところにあるので、心配ご無用です。
「ディナミーデン-秘められし引力-」は、リヒャルト・シュトラウスが「ばらの騎士」のワルツでメロディーを借用した曲で、個人的には、これぞヨーゼフ・シュトラウスの最高傑作、つまりは、シュトラウス一家の音楽の「頂点」と考えている曲です。「なかなかいい曲」と思っていただけて嬉しいですね。
今年は初登場の曲が多く興味津々ではありましたが、惜しむらくはヨーゼフの曲が少なく、曲の面では「不作」でした。

yositaka

2021/01/06 URL 編集返信

yositaka
Re:腰痛改善法の提案。
不二家憩希さん
ムジークフェラインザールには一度だけ行きました。
確かにあまり広いホールではなく、ステージも狭いため「第九」などは演奏できません。音響の良さは、彫像などの装飾による凹凸がうまい具合に残響を馴らすことと、客席の下に大きな空洞があることだと言われています。

腰痛改善法、ご教示ありがとうございます。
性来のものぐさのため、今の状況ではきっとできないと思いますが、窮鼠猫を噛むの状況到来のために覚えておきたいと思います。

yositaka

2021/01/06 URL 編集返信

Re:Re:腰痛改善法の提案。
ムジークフェラインザールに行かれたことがおありなんですね!
これで私も「知り合いにムジークフェラインザールに行ったことがある人がいるんだけれど・・・」と言うことが出来ます(笑)
やはりあまり広くはないんですね。
あの広さが歴史を感じさせます。
音楽ビジネスが巨大化したのは20世紀後半以降だと考えています。
昔はこれくらいでも十分なサイズだったと思われます。

不二家憩希

2021/01/07 URL 編集返信

yositaka
Re:Re:Re:腰痛改善法の提案。
不二家憩希さん
妻と一緒にタクシーに乗り込んで「ムジークフェライン、プリーズ」「ヤー」と会話した時には、すでにドキドキしていて、あのレコードジャケットで何度も見た黄金のホールに入ったときは「これって現実?」と思ったものです。
もうあれから36年です。
残念ながらそれは、オーケストラの演奏会ではなく、アシュケナージのピアノ・リサイタルでしたが。

yositaka

2021/01/07 URL 編集返信

振らない!
七草粥も済み、仕事モードにしては昨日の電車空いていました。近畿は暴風雪警報で学校が休みだったのも大きいようです。
ニューイヤーコンサート放送見ました。ムーティ久しぶり。生で見たのは、ミラノスカラ座来日公演の椿姫のとき。あの頃は凄くピリピリしていて、序曲から緊張感が漲る異様な指揮でした。東京文化二階席の左から指揮を眺めたかと思います。細かく入念な指示。ムーティの特徴はオペラの場合、慣例によるスコア改変を排する厳格な演奏でした。ミラノスカラ座を追われた背景には、そういう厳格な原典主義、慣例軽視への反発がありました。ラデツキー行進曲の冒頭はクライバーを意識するという以上にいつものムーティだなあと思って聴きました。
それ以上にへえと思ったのは、あの厳格なムーティが振らずに、オーケストラ(コンサートマスター)に演奏を委ねる機会がたくさんあったことです。ああ、蛙も年取ったんだと、我が身の老いにまで思いが至り、しかし、スリムな音楽がふっくらとふくらむ愉しさも感じました。
後でクナッパーツブッシュのバーデン娘のレコードで確認しましたが、ウィーンフィルの特質かなあ、両者似ていますね。ニューイヤー初だったんですね。テレビ画面に作曲者の紹介出て納得しましたが、ウィーンの軍楽隊の隊長さんだったのね。クナのレコード解説の宇野さんは演奏の豪快さをクナの指揮に帰していましたが、作曲者の持ち味という側面があったんだと気づきました。ムーティでも豪快になるのは、この曲の特質によるものでしょう。
お屠蘇気分ではないけれども、ウィーンフィルの今回の演奏は、一発録りのレコーディング。たとえるならば朝比奈のジャンジャン、ブルックナー。よい演奏だったです。CDにして何回も聴くのに向いていると思います。

でも、ライヴの娯楽も味わいたかった! いつ味わえるのでしょう? 

シュレーゲル雨蛙

2021/01/08 URL 編集返信

yositaka
Re:振らない!
シュレーゲル雨蛙さん
ムーティも、振らなくても意志が通じ合う境地に達した、ということなんですね。まったくいつものことながら、時のたつのは早いと思います。スカラ座公演「椿姫」をご覧になったとは、羨ましい限り。ムーティのデビュー・レコーディングもヴェルディの、確か「アイーダ」でしたが、若武者と呼ばれ速いテンポでぐいぐいと自分のペースで進める演奏だったと思います。
オペラハウスで自分を貫くのは、今も昔も軋轢を生むもので、ムーティの喧嘩っ早さはよく知られていました。けれども、ニューイヤー・コンサートでは、そういう面はあまり見せず、代わりにじわじわと時間をかけて自分の音楽を浸透させてきたようにも思います。
したたかです。
カレル・コムツァーク、番組では「バーデンむすめ」ではなく、「バーデンっこ」という訳を使っていました。なかなかいいですね。これからはそう呼ぼうかな。クナならずとも、好きになれる曲だと改めて感じました。

yositaka

2021/01/08 URL 編集返信

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Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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