2020年の読書①

img_d5f6b7ddea32122710eae0a6b75a07ac8942405.jpg
村上春樹の短編集。
音楽を題材にした、洒落た作品が6篇ならんでいる。チャーリー・パーカーの架空のボサノバ作品(?)をモチーフにしたものや、「ブルックナーの好きな猿」が温泉宿で人間の言葉を使い、主人公とイキな会話をする一篇など、ストーリーよりも、趣向で楽しめてしまう一冊。これなら「村上主義者」ではない、ファンタジー好きのネコパパにだって、マタタビものだ。
 (2)
現在もシリーズが進行中の、ドイツの児童文学作品で、日本オリジナルの可愛い挿絵と装丁の効果もあって、子どもたちに大人気。ところが、動物と話せるという、まあ、ありがちなリリアーネの「特別な力」は、予想以上にリアルな世界観の中で、周囲との大きな軋轢を呼ぶ。人間と動物の架け橋役をとなって活躍するリリアーネだが、動物に関わる問題と、彼女自身が社会と折り合いをつける問題が並行して描かれる。特に、「能力」をカミングアウトしたためにマスコミの餌食となるという「笑えない」展開が、巻を跨いでじりじり継続していく「痛さ」は、「お約束」頼みの多いこの種の日本の児童文学では見られないものだ。
動物保護やジェンダーの問題など、作者の鋭い社会批評も随所で顔を出し、決して「お気楽な」読み物にはなっていない。
51kKothyoZL.jpg
この表紙、大きな活字、「です」「ます」調の優しい語り口で始められる中高生向きのテキストの体裁をとる一冊で、章立ても「1時間目」「2時間目」…といかにも学校の授業風だ。「2時間目」で鶴見俊輔の書き残した最後の言葉を読みながら「読む」ことの意味をしんみりとかみ締める。ここまではよかった。
ところが「3時間目」で「激震」が!インタビュー集『AV女優』から引用された「性的に解放された」文章が、それまでの静かな雰囲気を一掃。ここで筆者は「読み手に突き刺さる」問題山積みの文章こそ、人を変える力がある、と説く。本書のねらう「読む極意」が、初めて示されるのだ。
続く「4時間目」では『堕落論』を例に、社会的にタブーとされるテーマにも踏み込む。実は、本書のテキスト風の体裁は、教科書の定番メニューである「こくごの手引き」を巧みに援用しすることで、「社会」「共同体」のウィルスのような威圧と教化を警告するためのレトリックだったのだ。これは「個人」であり続けることにこそ「読む行為」の意味があると主張する高橋源一郎の全身全霊。翻弄されながらも、強い共感を覚える一冊。
 (3)
1964年の「東京オリンピック入場行進曲」の作曲家として話題性のある作曲家を、NHKは、今年の朝のテレビ小説の主人公に据えた。タイトルは「エール」。ところが、思いもよらぬ疫病問題で2020年の東京オリンピックは延期に。しかし、このドラマは大きな話題作となった。
主人公のモデルは古関裕而。
生涯に5000曲もの曲を生み出した人ながら、彼はネコパパの世代よりはひとまわり古く、歌を口ずさめるほど馴染みがあったわけではない。彼の生涯と仕事を、簡潔明瞭にまとめたこの一冊と、軽妙さとリアリティのバランスが良いドラマによって、戦前・戦後の歌謡文化の変遷を知る機会となった。たくさんの未知の名曲に出会うことができた。三浦環や山田耕作などのクラシック音楽とのかかわりの深さにも興味をひかれた。
もっとも、ドラマはあくまでフィクションで、登場人物を変名とし、戦中体験や、戦時歌謡の作曲で国民を煽ったことへの悔恨など、やや話を盛りすぎた感がなくもない。しかし、本書の筆者、刈部芳則氏が歴史考証を担当していたこともあって大きな逸脱もなく、視聴者への問題提起にもなりえていたと思う。
4900594849.jpg
一方こちらは、蓄音機サロンで『童謡』を取り上げる関係で手に取った一冊。
大正8年に発表された『赤い鳥』童謡の最初の作品「かなりや」は、西条八十の作詞、成田為三の作曲による。彼は古関裕而との接点もあり、「戦時歌謡」の問題も共有している。二人とも、戦中は多くの戦意高揚を旨とした作詞・作曲活動を担ったが、戦後は一転して民主日本を謳歌する歌謡曲の作曲に転じたという点で、創作基盤を共有し、時代状況と表現の葛藤という大きな課題を投げかける。
本書は「編著」で、複数の論者や、作曲者の親族の発言も含む多角的な観点で、西条八十の仕事を概観しようとしたもの。
やや主観的な発言も目立ち、読み物としては面白いが、資料的価値が高いとは言い切れない。が、野口雨情、本居長与親子と一緒に撮影された写真が掲載されている(出典は示されていない)など、ネコパパの好奇心を刺激する材料にも事欠かず、好奇心に火をつけられた格好である。

関連記事
スポンサーサイト



コメント

コメント(2)
追い付いていませんm(._.)m
ネコパパさんは読書家です。蛙はなかなか追い付いていませんm(._.)m。
村上春樹は本屋で見かけて読みたいなと思ったまま時間が過ぎた。ブルックナー猿には、何だかな。しかし分かる? あの延々の繰り返し。じぶんで猿真似続けている?
高橋源一郎はNHK出版から出たのを買いに行き、品切れで帰りそのまま。最近、インテリ源ちゃん、テキストぽい?
西条八十は、先年、鈴木三重吉のことをあれこれ調べていたら、三重吉はわざわざ無名の八十の下宿まで出掛けて原稿依頼しているのですね。
個人的には、八束が名古屋大学の教員していたことが印象深いです。名古屋時代に同僚の地理の先生が昔の学生だったそうです。魅力的な先生だったと聞いてます。
本を読まなかった1年でした。反省!

シュレーゲル雨蛙

2021/01/23 URL 編集返信

yositaka
Re:追い付いていませんm(._.)m
シュレーゲル雨蛙さん
高橋源一郎氏のラジオ番組「飛ぶ教室」を毎週楽しみに聞いています。毎回おすすめの一冊と、ゲストとの対話で進行するのですが、その語りも内容も、傾聴に値する。この内容で毎週やれるなんて、なんてすごい人だろうと思います。そのエッセンスが詰まった「テキスト形式の爆弾」でした。
西条八十の才は、ある意味鈴木三重吉を超えていたのではないかと思います。三重吉はディレクターとしては優秀でしたが、自分の創作のチカラで世の中を震わせるところまでは行っていません。ただし人を見る目はあったかも。「赤い鳥」の代表詩人は北原白秋のように思われていのますが、大衆への浸透度では八十が優っていたのではと思います。

yositaka

2021/01/23 URL 編集返信

コメント投稿
非公開コメント

プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

ご訪問ありがとうございます

月別アーカイブ

検索フォーム

QRコード

QR