クーベリック/ロイヤル・フィルの「田園」~45歳のクーベリックが示した先見性

ベートーヴェン 交響曲第6番ヘ長調Op68「田園」

無題


ラファエル・クーベリック指揮
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
独EMI(エレクトローラ)C027-00652(LP)  
録音:1959年
★ジャケットにWiener Philharmonikerとあるのは誤記
Rafael_Kubelík_1950_(cropped)
クーベリック(1950)

第1楽章 
音量を抑えた渋い出だし。弦に加わってテーマを奏でるオーボエがくっきりと美しく響く。続いてトゥッティでテーマが演奏されるが、抑制されたフォルテである。低弦もさらっとしている。そのかわり前面に押し出されるのが木管だ。弦楽合奏の響きの抑制はこれまでに聴いたことがないほど。後年の室内管弦楽団のサウンドを想起させる。第1楽章全体がこのバランスを維持。展開部も決して盛り上げず、クラリネットの「かっこう」が鮮明に響き渡る。再現部に入ると、前半よりも僅かに力感が加わるが、聴いていて気持ちを波立たせる要素はあまりない。

第2楽章 以上24:56
中庸のテンポで進む。聴きものはやはり木管楽器で、クラリネット、オーボエ、ファゴットのソロが、淡く透明度の高い弦楽器を飛び越えて、くっきりと浮上する。
ロイヤル・フィルの管楽パートは特別な表情は付けないが、音色そのものが生き生きと自発的で気持ちが良い。ファゴットのソロに続いてチェロが加わる音色の美感は思わずゾクッとするほどだ。
小川のほとりの情景を描写するにふさわしい表現とも言えるが、個人的には弦楽器の膨らみと強弱が抑制されすぎて、心が解放されず、落ち着かない。ベートーヴェンの音楽の豊穣が、淡彩な響きの中に埋没しているようにも感じられる。締めくくりの鳥の歌は、フルートが最弱音で始まり、ゆったりと膨らんでいくところが素敵だ。

第3楽章 
冒頭から木管の音が良く聞こえる。しかし淡彩ではない。リズムの躍動に合わせて、音楽が力強さを増してきたことがはっきり感じ取られる。「さあ、ここからだ」と気を引き締めたかのようだ。三重奏はクラリネットとホルンの掛け合いが生き生きとしている。トリオはインテンポだが、躍動感は充分に伝わる。弦楽器と管楽器の出入りがこれほど鮮明に聞き取れる録音というのも珍しい。とにかく、音色で勝負の色合いが強い演奏。

第4楽章 
嵐の予感が、妙な言い方だが「爽快」に感じられる。
速いテンポに、弦の小刻みな動きが俊敏。クライマックスは、引き締まった凝縮の音。パワフルさとはちょっと違う。音のバランスがやや腰高に聞こえるのも、音楽の印象に影響しているかもしれない。

第5楽章 以上17:03
牧歌のテーマでは、クラリネットとホルンが例によってくっきり鮮明に響き渡り、弦は、ここもまたあえやかな弱奏で開始する。
テンポは第3楽章からここまで一貫して、やや早めだ。嬉しいのは、ここに至って弦楽器の音圧が次第に高くなっていくことで、クーベリックが第4楽章ではなくフィナーレにこそ全曲のクライマックスと考えているのがよくわかる。大いに共感できるところだ。
そして、後半は一層の加速が加わる。トリル変奏まで進むと、もはや「疾走」と言つていいくらいだ。ここでのピチカートの立ち上がりはすごく、全曲で最大の聴きどころかもしれない。
もうひとつの驚きは小回りの効くホルンで、音の間を縫ってパッパッと打ち込んでくる勢いの良さは、滅多に聞けない面白さである。
そして、コーダではぐっとテンポが落とされ、祈りのフレーズで再び弱音が戻り、しみじみと感慨を漂わせつつ曲を閉じていく。

■若きクーベリックの野心が潜む室内楽的演奏

「室内楽編成のベートーヴェン」を売りものにした、マイケル・ティルソン=トーマス指揮イギリス室内管弦楽団による「田園」が録音されたのは1978年。
この録音についてネコパパは「音は室内楽的に透明で、管楽器の音色もくっきりと浮かび上がる。とりわけ特徴的なのはホルン。大きな音で、しっかり合いの手を入れてくる。リズムの刻みも強く、出てくる音楽は流麗というより、賑やかでおしゃべりだ」と書いている。
https://nekopapaan.fc2.net/blog-entry-1581.html

このクーベリック/ロイヤル・フィル盤は、ティルソン=トーマスよりも20年も前の録音なのに、それと一脈通じる「室内楽的な響き」をもっていた。オーケストラもかなり小編成だったのかも。そうだとしたら、当時としては斬新で、ユニークな録音だったのではないか。
言及した人はいたのだろうか。少なくとも、ネコパパは知らない。

なにしろ、ジャケット表記でオーケストラ名が間違って記載されるくらいだ。記憶を辿っても、1970年ころ国内廉価盤のセラフィムシリーズで出ていたな、と思い浮かぶくらいで、目立つ存在ではなかった。ことによると、新しすぎるスタイルのせいもあり、当時の批評家、愛好家には見逃されてしまった録音かもしれない。

クーベリックは、のち全集の一環として、1973年1月、パリ管弦楽団と曲をセッション録音している。DG盤である。ほかにも、1967年にバイエルン放送交響楽団を振ったライヴ録音が、独Auditeにあったはずだ。記憶ではこの二つ、より伝統的なスタイルで、弦楽器ももっと厚く響かせていたように思う。
とすれば、この1959年盤は、45歳のクーベリック、冒険心の発露だったのかも。それが成功しているかどうかは、別として…私見では前半と後半の温度差が、いまひとつ。

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コメント

コメント(10)
大胆なミス。
>ジャケットにWiener Philharmonikerとあるのは誤記

(驚&笑)
ジャケットにこうハッキリ記されていたら私だったら疑いません。
EMIのマークもあるし。

西洋人って雑だなぁと思います。これに限らず。

不二家憩希

2020/11/30 URL 編集返信

セラフィム盤
こんにちは

このクーベリックの「田園」は私が初めて自分の小遣いで買ったクラシック盤(セラフィム)ですごく懐かしいです、手元には中古で買い直したのがあります、
誤記は国内盤CDでもありますね、スウィトナーのCDで、表紙はSKB、背表紙はSKDとなっていたり、あと組CDで録音内容と盤面印刷が入れ違いになっていたり。

michael

2020/11/30 URL 編集返信

yositaka
Re:大胆なミス。
不二家憩希さん
これは知ってて買いました。ジャケットを見て「まさか」と驚いたのですが、裏面にはしっかりロイヤル・フィルと書かれてます。
製品化まで誰も気づかないとはすごいです。ときどきオークションにも出ていますが、誤記されたものしか見当たりませんから、ずっと訂正されなかったか、あるいは1回のプレスだけで終わったとか。多分後者でしょうね。ドイツ人もなかなか豪胆です。

yositaka

2020/11/30 URL 編集返信

yositaka
Re:セラフィム盤
michaelさん
>スウィトナーのCDで、表紙はSKB、背表紙はSKD
徳間音工さんですね。ジャケットではありませんが、同社のレコ芸広告にモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風呂」と書かれたのがあって、これにはのけぞりました。
組物にはとくにデータの混乱ミスが目立つ気がします。
アンセルメの「海」では「再録音との取り違え事件」がありましたし、ワルターとロンドン・フィルの「第九」ライヴなどは、国内盤CD(キング)でずっとロンドン交響楽団と記載されていました。

yositaka

2020/11/30 URL 編集返信

室内楽的な響きでしたか・・・
こんばんは。
クーベリックの田園はパリ管のみしか聴いていません。
この演奏は室内楽的な響きとか・・・
マイケル・ティルソン=トーマス指揮イギリス室内管弦楽団の演奏は持っています。
なので、何となく曲想のイメージはわかるのですが・・
オケを全て変えたDGの全集では個人的には奇数番号の第3番「英雄」、第5番、第7番、第9番「合唱」が個性的?で好きな演奏です。
機会があればこのロイヤル・フィル盤も聴いてみたいものです。

HIROちゃん

2020/11/30 URL 編集返信

行方不明のClifford Brown
クラシックの誤植はかわいいですね。
USのジャズは、ラベルの曲順の違いは普通、 前にHELEN MERRILLでお話したジャケット表がMG-36057で裏がMG-36006のブルーバック印刷の珍品。
更にMG-36006の写真にHELEN MERRILLの隣に「Clark Terry TRUMPET」と書いてある。
Clark Terryは、drumsですね。TRUMPET のClifford Brownは、どこにいった???

チャラン

2020/11/30 URL 編集返信

yositaka
Re:室内楽的な響きでしたか・・・
HIROちゃんさん
クーベリックはDGで9つのオーケストラを使用した前代未聞の企画が有名で、いまも評価が高いのですが、個人的にはバイエルン放送響との全集が欲しかったと思います。
このロイヤル・フィル盤は、日本でこそ1000円盤があったために、ある程度知られているんですが、実はYouTubeにも見当たらない地味な存在で、オリジナルのHMV盤は数万円の値が付くレア盤でした。現在はワーナーーの廉価CDボックスに入っていたと思います。

yositaka

2020/12/01 URL 編集返信

yositaka
Re:行方不明のClifford Brown
チャランさん、事態は複雑です。まずクラーク・テリーはトランぺッターで、テリー・クラークはドラマー。これ、いいですか。

次に、裏ジャケ表示のクラーク・テリーは誤記なんですが、写真にはクリフォード・ブラウンではなく、クラーク・テリーが写っているようです。
検索すると、『ヘレン・メリル』がMG36006、続くMG36007は『クラーク・テリー』で、直後の録音。両アルバムともアレンジャーはクインシー・ジョーンズで、オスカー・ペティフォードも参加。つまりこの日は、クリフォードとテリー、二人ともスタジオにいたらしく、それで表記が混乱したようです。
「ヘレン・メリルのアルバム」ということで、他のメンバーは十把一絡げに見られてしまったようですね。

yositaka

2020/12/01 URL 編集返信

田園を聴きまくる
12月10日14:00NHK-FM"クラシックサロン”で「ベートーヴェン特集・田園を聴きまくる」が放送されます。
この前は運命でしたが、今回は田園です。
あの、くどい感じ(笑)の番組構成はちょっと楽しみです。

不二家憩希

2020/12/04 URL 編集返信

Re:田園を聴きまくる
不二家憩希さん
耳寄りな情報をありがとうございます。さっそく録音予約します。「運命」のときのようなクドく、マニアックな番組を期待したいと思います。

yositaka

2020/12/05 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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