カール・ベーム/ウィーン・フィルのベートーヴェン「第8」

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澳DECCA 480-3794
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日ロンドン MX9024
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日ロンドン  MP51(TRL551)


■手作り感に満ちた響きが心地よい

ベームの第7交響曲のことを書いたら、第8交響曲も聴きたくなった。
ベートーヴェンの第8、初めて購入したLPはこの演奏、キングの廉価盤「不滅の名盤MZシリーズ」だった。

交響曲第8番は、ベートーヴェン生前のヒット作のひとつ、第7交響曲とともに初演。姉妹作である。
ネコパパは1970年にTV放送されたヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮NHK交響楽団で初めて聞いた。番組(「NHKコンサートホール」)解説者の大木正興が第2楽章のメトロノームに関する逸話をタッタッタッ…と歌いながらコメントしていたことも、よく覚えている。
クラシックに興味を持ち始めたばかりで、聴く曲聴く曲新鮮で、でも多くの曲は初聴では曲がつかめず「道に迷っているばかり」という時期でもあった。
でも、この曲は冒頭から一気に引き込まれ「ベートーヴェンにもこんな流麗で爽快な交響曲があるのか」と思ったものだ。どの楽章もバランスよく短めにきっちりと仕上げられて無駄がなく、しかもどこかしこに、ベートーヴェンらしい思索の深さが潜んでいる。好き嫌いでは測れないベートーヴェンとしては珍しく「愛すべき曲」と感じられる作品である。

カール・ベームが録音した第8は、この1953年5月のモノラル盤と、1970年代の同じオーケストラとのステレオ盤のわずか2枚しかない。ライヴ録音、プライベート盤のたぐいも皆無だ。
YouTube番組「明るくマニアック」の徳岡直樹氏は「ベームの1番や8番のライヴをお聞きになったことはありますか?本場の大指揮者といえども、演奏されない曲というのはあるんです」と、話されていた。この指揮者はオペラが活動のメインで「交響曲チクルスで全曲」というタイプではなかったのかもしれない。
でも、この2枚を聴く限りでは、解釈も演奏も確固たるものだ。

第1楽章 7.37
ゆったりと力まない開始。テーマは流麗、リズムはベームらしく強靭。中音よりの野太い響きで進み、フレーズは楷書的にくっきりと、切れ目はアクセント気味にゴツンと響かせる。けれど全体にふくよかさや柔らかみを失わないのはウィーン・フィルの自発性だろうか。
第2楽章 4.03
ベートーヴェンのエスプリをたたえた楽章。弦楽器の柔らかさと、微妙な強弱を伴った歌わせ方が美しく、およそシャープな切れ味の良さとは無縁だが、この手作り感に満ちた響きが心地よい。音楽に動きの出る中間部でも殊更に対比を強調することはないが、リズムの刻みには十分な手応えがある。
第3楽章 4.37
ゆったりとしたメヌエット。木管が遠めなのは惜しいが、トリオのホルンはたっぷりと膨らみ、溶けるようなレガートを聴かせる。これ、まさか奏者の即興では、と以前は思ったが、まぎれもなくベームの指示である。のちの全集盤でも全く同じように吹かせているからだ。
第4楽章 7.53
ベームは最後に盛り上げる。冒頭から低音の響きがぐっと強くなり、後に行くほど高揚してくるのが手に取るようにわかる。第1テーマと第2テーマの表情の対比も鮮やかで、後者ではフルートとオーボエが豊かなニュアンスを聴かせる。終わったあとに残るのは「大曲」を聴いた充実感だ。

ネコパパの手元には、同じ音源が三種類。
まずはMZシリーズの再発盤MX9024で聴いた。昔聞いていたMZ盤は手元にないが、全く同じ音だと思う。中膨らみで、こもった感じもあり、テープヒスも多いけれど、刺激的な音が全くせず、演奏の充実感が率直に伝わる。
京都市役所隣の古いビルにある中古店で入手したMP51は、10インチ盤。おそらく初出の国内盤だろう。原盤番号はTRL551、英国原盤。テープヒスはほとんど聴こえず、こもった感じも軽減され、高音の伸びやダイナミックレンジもMX9024を超えている。さすがは初期盤、といえるか。
CDは澳DECCA 480-3794。エロクェンスシリーズの一枚。高音はMP51よりもさらに伸びて華やかさを増し、粒立ちも改善されている。テープヒスあり。復刻にあたって音を加工した感じはなく、好復刻。二つのLPでどちらに近いかといえば、MP51のほうだ。
ただ、ネコパパはずっと聴いてきたこともあってMX9024の音に一番親しみを感じる。ちょっとSPを聞いているようなところはあるが「耳にストレスがない」というのはやはり大きいと思う。

1953年5月録音。プロデューサーはヴィクトル・オロフ、エンジニアはシリル・ヴィンターバンク。会場はムジークフェラインザール。
ベームは同年3月末にDGGに「第5」を録音していて、この第8は約1ヶ月後の録音に当たる。さらに1957年にはPHILPSでウィーン交響楽団と「第9」を録音し、これがモノラル録音の最後。それから間を置かずDGGステレオ録音の「第7」、「第3」と続く。3社にまたがって、ばらばらに録音しているところに、ベームの録音に対する姿勢が伺われる。彼にとって録音はあくまで「頼まれ仕事」だったのだ。
でも、その仕事ぶりはいつも真摯だった。

YouTubeにUPされている音源はCDに近い音。データは3月説と5月説があると記されている。



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コメント

コメント(2)
酢昆布のベーム
ベームのベートーヴェンは、「気合で国内盤を処分」したためありません。
ネコパパさんが選曲されたYouTubeの演奏と手持ちLPのDGGのモーッアルトを聴いて。

ベームのぶっきらぼうな表情と淡々とした指揮(必要最小限の動き)とは、裏腹に聴けば聴くほど味がある演奏は、眠気が起きませんし聴き終わった後の余韻の残る充実感は、ベームならではですね。

チャラン

2020/10/04 URL 編集返信

yositaka
Re:酢昆布のベーム
チャランさん
MP51の英オリジナル盤は56年発売のDecca ‎– LW.5259です。
ディスコグスによると、マトリクス番号はTRL551で間違いなしです。ただ、10インチ盤はなかなか出てきませんし、あってもコンディションがいいものは少なそうです。でも、発見したら買う価値がありますよ。音の違いは明瞭です。
DGGの第7番もよさそうですが、ドイツ盤はご用心ですね。

yositaka

2020/10/04 URL 編集返信

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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