カール・ベーム/ベルリン・フィルのベートーヴェン「第7」

304.jpg
sim_20200930182959475.jpg11144.jpg

いつも素敵なコメントを頂いているブロ友のMichaelさんの記事に刺激されて、久々にこのCDを取り出した。ベートーヴェンの交響曲第5番、第7番の二曲を収録したCD。
第5番は1953年のモノラル録音、第7番は1958年のステレオ録音と、やや変則的なカップリングだが、演奏はどちらも素晴らしい。

無駄を削ぎ落とし凝縮した響きは、岩に触れるような感触があるが、それでいてバランス感覚は抜群。全体をひとつに溶け込ませるのではなく、木管金管の個々の音をここぞという場面で前面に出すことも厭わない。
リズムは重く、そのため実際以上に遅めのテンポに聞こえるが、フレーズの終わりにつけられるアクセントや、わずかなアッチェレランドが音に緊張感と音圧の高さをもたらす。
とくに「第7」にはそんな特徴が顕著で、聞きようによっては潤いに乏しく、あまり楽しくない音楽に聴こえるかもしれない。ベームが実演で示す即興的な動きや、クライマックスに向けて白熱していく興奮は、さほどない。しかし久しぶりに聴くと、やっぱりこれは見事なベートーヴェンと言うほかはない。たとえ、いくらか無愛想でも、中身の詰まった、聴いていて生きることの充実が実感されるような音楽が、楽しくないと言えるだろうか。「圧倒」や「興奮」ばかりが、音楽における感動の全てではないのである。

考えてみれば、ネコパパはベートーヴェンの第7交響曲が、昔からちょっと苦手だった。出会いはフルトヴェングラー指揮ウィーン・フィルの1950年盤。「英雄」とのカップリングで2枚組3000円で出た「ダブル・デラックス・シリーズ」の一枚だった。
どちらの曲にも圧倒されたが、やはり「英雄」と「第7」では感動に温度差があって、どちらも大曲だが、完成度は「英雄」がより高く、「第7」は奇数楽章は長すぎ、偶数楽章は短かすぎる。言い過ぎのところと言い足りぬところが混在していると感じた。その考えは、いまも基本的に変わらない。
しかしこの曲は、今も昔も演奏会で取り上げられることが多い人気曲だ。ベートーヴェンの交響曲の中でもリズムで攻めるタイプの特異な曲で、そこが聴衆の琴線に強くふれる。ネコパパも、とくにライヴでは、聴くたびにそういう要素を存分に楽しむのだが、自室で聴くときは、もう一つ別の構築美をもった演奏が聴きたくなる。たとえば、このベームのような。

カール・ベームという指揮者は、レコードでは圧倒的な素晴らしさをストレートに感じることがなかなかできず、映像を見ても、不機嫌そうな表情をほとんど変えない人であった。
こんな顔で指揮をしていて、本当に『音楽をやるのが楽しい』と思っているのか、疑問に思ったこともあるくらいだ。
それでも指揮者として、ネコパパの中では、ワルターらと並ぶ「圧倒的な存在」のひとりである。
なぜそうなのかは、説明がしにくく、自分でも不可解なことだが、おそらくは彼の作り出す「音」の不協和な有機性と、音楽の起伏が、ネコパパの体内というか、無意識の底にある「音楽を聴く呼吸」と一致しているのかもしれない。
60年代から70年代にかけて、ベームを代表する名盤と言われた、モーツァルトやベートーヴェンの交響曲全集にしても、ひとつの曲を取り出して、その魅力を描ききっているかと問われれば、疑問が浮かぶ。ベートーヴェンの第7にしても、ウィーン・フィルによる全集に含まれた録音を人に勧めるのは、躊躇するだろう。
ところが、全集というまとまりで見れば、一転して存在感が増してくる。少なくともネコパパにとっては、一曲たりとも欠かすことができない、人生に不可欠な音楽なのだ。
そこへいくと、ベームが50代の時期に単体で収録されたこの第7は、一味違う緊張感と完成度の高さが感じられる。全集盤と聞き比べる必要があるが、少なくともこの曲が好きな人には「ぜひ一度」と、お薦めしてもいいかもしれない。

交響曲第7番は、1958年4月17日から18日にかけての録音。ドイツ・グラモフォンとしては最初期のステレオ収録で、録音技師は同社のベルリン録音の会場をイエス・キリスト教会と定めた伝説的な人物、ハインリヒ・カイルホルツだ。Michaelさんは「渋く厚みをもったD.Gらしく、SN比が良く、見渡しもよく聞こえる、このレベルの録音は多くはない」と書かれている。同感である。

関連記事
スポンサーサイト



コメント

コメント(2)
ベーム、BPO、第7
こんにちは

共感いただいた記事を拝読し嬉しいです。
最初に手にした第7は、A.クリュタンス、BPO盤でした、これに馴染んだあとに聴いたベーム盤は最初何ともゴツくさく感じたものですが、いつの間にかハマっていました、
レコードに針を下ろし、最初に響く総奏音からして、何度もリハーサルして整えられた、貴重な第一声に思います。
D.Gも当時の録音機材を用いてよくこれだけの録音をしたと思います。
フルトヴェングラーやC.クライバーは違った方向で魅了させるものの、またベームのような演奏に戻りたくなるんですね。

michael

2020/10/01 URL 編集返信

yositaka
Re:ベーム、BPO、第7
michaelさん
>何ともゴツくさく感じたものです
言いえて妙とはこのことです。モノラルの5番、ステレオの3番、7番。いずれをとってもその感じはありますね。中では最も録音の古い「第5」が彼としては柔軟で、もっと注目されてよい録音だと思います。

第7交響曲についてもこれまでほとんど触れてこなかったので、考えをまとめる良い機会になりました。
私の好きなこの曲の演奏ですが、フルトヴェングラーなら戦中のベルリン・ライヴ、カルロス・クライバーならウィーン・フィルとのスタジオ録音ではなく、バイエルン国立管弦楽団とのライヴ盤を好みます。他の指揮者ではクレンペラー。
ごく最近出た小澤征爾/サイトウ・キネンの2017年の演奏も見事でした。
話題のクルレンティスはどうなんでしょう。

yositaka

2020/10/01 URL 編集返信

コメント投稿
非公開コメント

プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

ご訪問ありがとうございます

月別アーカイブ

検索フォーム

QRコード

QR