NHKが積極的にすすめている高画質4K8Kリマスター版を使用したものだ。
そのリマスターのプロセスがすごい。マイナス4度で冷凍保存されていたユニテル制作のオリジナルフィルムを解凍し、手作業でノイズを取り除き、徹底した「再現」作業を行ったという。しかも一度解凍したフィルムは、再度の冷凍保存は不可能。
大変なリスクを侵しての復元である。
もちろんネコパパ宅のは普通のTVだし、今回の放送も地上波ハイビジョン画質。が、画像も音質も相当の変化を遂げていることは、この通常放送からも感じ取れた。
放送されたソース自体は、YouTubeでも見られる、よく知られたものが多いので、とりあえず貼り付けてみる。
■演奏曲目
「交響曲第4番 ヘ短調 作品36から第1楽章」
チャイコフスキー:作曲
(指揮)ヘルベルト・フォン・カラヤン、(管弦楽)ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(18分14秒)
~1973年12月 フィルハーモニー(ベルリン)~
「交響曲第9番 ニ短調 作品125「合唱つき」から第4楽章」
ベートーベン:作曲
(指揮)レナード・バーンスタイン、(管弦楽)ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、(ソプラノ)ギネス・ジョーンズ、(アルト)ハンナ・シュバルツ、(テノール)ルネ・コロ、(バス)クルト・モル、(合唱)ウィーン国立歌劇場合唱団
(26分29秒)
~1979年9月 ウィーン国立歌劇場~
「交響曲第40番 ト短調 K.550から第1・第4楽章」
モーツァルト:作曲
(指揮)カール・ベーム、(管弦楽)ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(13分40秒)
~1973年6月 ウィーン楽友協会大ホール~
「交響曲第2番 ニ長調 作品73」
ブラームス:作曲
(指揮)カルロス・クライバー、(管弦楽)ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(38分56秒)
~1991年10月 ウィーン楽友協会大ホール~
■リマスターの功罪
さて、番組の感想だが、画質・音質についてだけに留めよう。
一言で言えば、80年代から90年代のヒストリカルCDによくあった、ノイズカットとコントラストの強調である。
はじめのカラヤンのチャイコフスキーは、もともと照明を多く使った、演出たっぷりの映像に、別収録の音を重ねたものだけに、リマスターの効果は上がっていて、見応え充分である。
しかし、続くバーンスタインとベームは、ちょっといただけない。
画像はもともと非常に暗い。リマスター版ではこれを鮮明にしようと、明度を高め、コントラストを強くしているが、確かに鮮明さは増したものの、目にきつい映像になった。同時録音と思われる音声も、ノイズとともに会場の豊かな響きが削ぎ取られて、ドライになっている。CEDERやNO NOISE SYSTEMを強めに使用したCDのような音だ。
最も新しい収録のクライバーのブラームスは、もともとの情報量が多いためか、上々の出来。映像には一層の磨きがかかり、明るさも自然で、指揮者の表情の豊かさや、優雅な棒の動きを楽しむのに申し分ない作品に仕上がっている。
というわけで、私見では、リスクを侵してのリマスターは、一長一短だ。
今後もこの方向性でリマスターが進むとなると、60年代から70年代の記録は、いささか不自然な加工が加わった「お化け作品」だけが残るという、困った事態になりかねない。
愛好家の中には、それよりも、元の状態を維持したまま保管してほしいと思う人も多いだろう。
一律の方針でやるのではなく、視聴者の意見もよく聞いて、一つ一つの作品の状態や特性に応じて慎重に作業を進める必要があるのではないか。ものによっては、解凍作業の見直しも検討したほうがいいと思う。
コメント
NHKが撮影した、または権利があるものですか?
同じフィルムが世界の何処かの国にもありませんか?
不二家憩希
2020/08/19 URL 編集返信シュレーゲル雨蛙
2020/08/19 URL 編集返信今回のリマスターは日本ではなく、ドイツのフィルム研究施設で、ドイツ人の手で行われている様子が番組の初めに紹介されていました。
NHKは技術供与で、完成したデジタルデータの放映権を獲得したということだと思われます。今回のソースはDVDなどとしてユニバーサル系で発売されているものばかりなので、デジタルデータは同社が持っているはずです。
リマスター版のNHKに販売権はあるのかは不明です。
ドイツは新技術が好きなので、こういう提案には積極的だったのでしょう。解凍されたオリジナルフィルムがこれからどうなるのか、心配です。
yositaka
2020/08/19 URL 編集返信日本の録音遺産の保管状況は良くなく、以前も述べましたが、NHKで破棄・消去されてしまったものは膨大です。
1975年のベーム/VPO来日録画など、わずか二本を残してすべて処分されました。NHKが招聘元だった公演すらこうなのですから、もって知るべしです。せめては残っているものだけでも万全の状態で保存してほしいですね。
ヤマカズさんのマーラー1番、5番など、ぜひ全曲リマスター放送してほしいものです。そして何より聞きたいのは、1970年万博フェアウェル・コンサート。朝比奈/N響の第9。そして、ぜひ発掘して欲しいのが1960年のカザルス・ホワイトハウス・コンサートの全演目の映像記録です。
yositaka
2020/08/19 URL 編集返信こうしたデジタル修復の世界では、ロック、特にビートルズ関連が世界一、世界最先端だと思います。
60年代に撮られたものなのに「昨日撮りました」と言われても信じてしまうほどのクォリティがあります。
実際の作業は「そこまでやるのか」というほどの手作業で行われています。
ポール・マッカートニーとリンゴ・スターが健在で質に少しでも問題があれば却下されるからです。
当事者が亡くなってしまうと遺族に権利が移り(お金が入るなら)というのが主目的となってテキトーになってしまうことが多いようです。
バーンスタインの動いている姿を初めて観ました。
暑苦しいです(笑)
不二家憩希
2020/08/20 URL 編集返信BS8K放送では、このリマスター版を2時間枠で毎週放送しているようです。
贅沢なものです。視聴料だけでなくかなり設備投資が必要で、
こういうものにお金を出す層が好む番組はクラシック、とNHKは見ているようです。
いやあ、そうかなあ。その価値観はちょっと古い気がします。むしろ、若い世代に見せてファン層を拡大することを考えてほしいと思います。
ビートルズの音源なんか、リマスターのたびに大々的に喧伝されていますが「売れ筋」なんでしょうね。昔からのファンは買い直しに追われて大変です。
バーンスタインの指揮姿は全く熱情的ですが、確かに繰り返し見るのはストレスかも。指揮者にも見て楽しめる人とそうでない人がいるようです。クライバーは見て楽しい典型ですね。
yositaka
2020/08/20 URL 編集返信リマスターといってもいろいろあるようですね、
画像にしても、音声にしても後から"いじった感"が目立つものは好きになれません;それを感じさせないなら素晴らしいですけど。
昔放送されたアメリカのTVドラマや映画で、保存状態の良いフィルムから画像をデジタル化し、音声は当時の日本語吹き替えをそれに合せて入れてあるDVDがありますが、これもある意味リマスターでしょうが、加工なしなのが違和感なく、昔のカラーTVの発色では見られなかったクウォリティで楽しめる、そういうのは好きです。
michael
2020/08/20 URL 編集返信私見では、映像の方がデジタル・リマスターの効果は上がりやすく、録音はうまくやらないと作為が目立つ気がします。
理由はよくわかりませんが、もしかすると人は聴力の方が敏感なのかもしれません。
今回放送されたものはすべて「フィルム撮影」で、映画と同じですから、この種の処理とは相性がいいはずで、事実、クライバーの高細密化には驚かされます。
しかしベームとバーンスタインのように、もともと明度の低いものを、無理に明瞭にしようとするのはかなり難しそうです。
一方音は、8Kシステム対応の22チャンネルサウンドシステムに音を振り分けて、会場の響きも計測した上で、再構築したとのことですが、もとの録音がアナログ2チャンネルなのですから、この作業はどうやってもアップコンバート、擬似マルチチャンネル化で、オーディオ好きの方からは、蛇蝎のごとく嫌われる手法です。
うちのは普通のTVなので、その効果は推し量りようがありませんが、特にバーンスタインの第9は、乾いてガサついた音に聞こえました。いつも視聴している音楽番組に比べても良いとは思えず、むしろ当記事でリンクしているYouTube動画を、家電オーディオに繋いだ音のほうが良好に思えます。困りましたね。
yositaka
2020/08/20 URL 編集返信ちなみにチコちゃん、怪談問題では、日本口承文芸学会期待の飯倉義之先生が。時間が足りず怪談を夏だ夏だとアナウンスに連呼されていたのは放送局のいい加減さで残念です。飯倉先生はちゃんと盆狂言と言っていました。盆は旧暦7月。怪談芝居は秋に始まり、やがて現代では誤解の果てに夏に移行していったです。
明日朝再放送あります。
シュレーゲル雨蛙
2020/08/21 URL 編集返信今回は長いなあと思って惰性で見ていたら、国学院の飯倉義之氏が登場。あっ、きっと雨蛙さんのお仲間かなと思ってみていました。この番組らしくイジられていたので気の毒でした。盆狂言は現在のお盆よりもだいぶ前の季節なんですね。NHKはマイナーな分野だと、とたんに細部が甘くなります。
指揮者の役割の話は面白かったですね。
あの朝比奈傟とN響の「運命」は、オーケストラが明らかに出だしのタイミングをミスって「ズレ出し」しているので、あまりいい例とは思えません。ヤマカズさんはいつ見ても楽しい指揮ぶりです。ちょっと極端な例ばかり出していてあざとい気もしますが、視聴者にはわかりやすい説明になっていたのではないでしょうか。
yositaka
2020/08/22 URL 編集返信飯倉先生の3代前の師匠・折口信夫は、怪談は夕方から涼しくなるころにこそ似つかわしいと説き起こす怪談論を著していました。怪談はこの世に思いを残した死霊への鎮魂を目的に話し演じられるという主旨だったかと。
その鎮魂が盆行事の大きな目的の一つだったかと思います。たとえば、盆棚の供え物を上げる順が、最初にムエンサマ(無縁仏)に、そのつぎにじぶんの家のゴセンゾに上げるという事例は多いです。我が家のゴセンゾよりもこの世に思いを残したムエンサマを優先する考えです。怪談の由来はこのような浮かばれない霊への鎮魂に求められるので、歌舞妓以前に複式夢幻能に怪談の型は遡られるのですが、その怪談を話し演じる時期が、秋7月だったのです。因みに今日(2020年8月23日)は旧暦7月5日です。後八日後が迎え盆です。ですからかつての怪談はいまよりもずいぶん遅い時期に行われていたのです。だってそうしないと、いつまでも経っても日が暮れないで、明るい中で怪談することになってしまいますから。初秋の夜長を待って行われていたのが、怪談です。チコちゃんの歌舞妓役者が夏休みだったからというのは、だから誤解があります。夏休みではなく、盆の休み(初秋の休み)だったからでしょう。役者だって、盆行事には仕事を休んで参加したということです。
※最近は古文で456月が夏と教えてもどうも反応が…。
※ネコパパさんと飯倉先生とは関西(柏原市と京都市と)で二度お会いしていますよ!
シュレーゲル雨蛙
2020/08/23 URL 編集返信歌舞妓役者が夏休みだったから…うーん、たしかにこの「夏休み」という言葉には「ん?」と思いました。一般にわかりやすいという意図でつかっており、近頃は「帰省」も「夏休み」という見方があるのでしょうか。それとも「5さい」だから、子どもにもわかりやすい言い方にしたのか。いやいや、実感としては「お盆休み」という言葉はまだまだ生きていると思います。言い換えは必要ないでしょう。
旧暦と新暦~大変納得のいくご説明です。新暦なら「いつまでも経っても日が暮れないで、明るい中で怪談する」ことになっておかしい。同感ですね。小中学校の伝統的にほ文化の重視でやたら季節感やら季語やらが浮上してきましたが、暦の違いがネックです。「七夕」が秋の季語と教えるときに、旧暦に触れ、歳時記を見せたりしますが、ピンと来ないし、個別の「これ、間違えやすいからな。いいか、テストに出るぞ。しっかり覚えておくんだよ」で終わることになります。まあ、どんなかたちにせよ、子どもの記憶に残ればいいんですが。
飯倉先生とは…ネコパパは昔から顔と名前を覚えるのが苦手で、失礼してしまうんです。教えている学年学級の子たちも、卒業してしばらくするとわやくちゃです。相当前の卒業生もよく覚えておられる同僚をみると畏怖しましたね。しかも最近はその傾向が加速している…
yositaka
2020/08/24 URL 編集返信