「動物と話せる少女リリアーネ」を読む④転換する世界観

第7巻。
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第6巻でとうとう「秘密の越境」…動物と話せる力のマスコミ公表をしてしまったリリアーネは、毎日取材に押しかける記者たちや「パパラッチ」たちに悩まされることになります。
そんな中、リリのもう一つの力、植物を成長させる力に目をつけ、それで一儲けしようとする男達によって、リリはイザヤと二匹のペットとともに誘拐されてしまいました。
連れてこられたのは、場所もわからない山奥。
友達を人質にされたリリは、やむを得ず男たちの要求に従いますが、力は発動しません。
そこに姿を現したのは、さすらいの一匹オオカミ、アスカンでした。
山の動物たちとアスカンの助けで、ようやく難を逃れたリリたちですが、オオカミを危険視する人間たちが駆除に乗り出そうとするのを知ったリリは…

第8巻。
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アルプスの山荘でクリスマスを過ごすリリアーネとイザヤの家族。
マスコミ取材陣を振り切って、ドイツ伝統のクリスマス休暇を満喫するリリたち。ここでおばあちゃんは、リリの誕生の日に起きた、びっくりするような「奇跡」について語ります。また、これまで触れられていなかった、自然療法士という、パパの仕事もあきらかになります。
翌朝、リリたちの眼前でおこる雪崩。
人や動物の被害が心配なパパとともに雪原に出たリリは、母鹿と離ればなれになってしまった子鹿のパクリに出会います。
ほかの動物たちの助けも借りて、なんとか母鹿レエナを見つけ出したものの、レエナはひどい怪我と骨折。加えてイザヤまでが、高熱を出してしまいます。
孤立状態の山小屋で、命の危険がせまる二人。そこでリリに助言をあたえたのは、なんと…


第7巻では、「秘密の越境」のもたらすリスクが語られます。
リリ宅に連日押しかける「パパラッチ」集団に翻弄される一家。さらにリリの能力を悪用しようと企む男たちの登場。
ここまで語ってきた物語の堅実なリアリティを考えると、当然、起こりうる事態ですが、さすがに物語のスケールには合いません。それでも物語を進めていくとなれば、無理がかかります。リリの能力のパワーアップを伴った、派手な展開で補うしかない。
で、そうなりました。リリ救援のために出撃する「動物軍隊」の登場は、さすがに暴走かもしれません。後半のオオカミ救出劇が、これまでどおりの堅実で抑えた描き方なのは、救いですが。

一方、第8巻では、現実と非現実の「境界線」に立って、リリを守護する人々が姿をあらわします。
既に第7巻で「力を持ち続けるか、普通の子になるか」とリリに決断を迫っていたおばあちゃんが、8巻ではキリスト降誕さながらの、リリの誕生のエピソードを初めて語ります。
薬草や植物に強いというパパの「正体」も、はじめて明かされる。
この二人、ここまではあまり表には出てこなかったのですが、物語の根幹を支える、重要な存在だったのですね。
終盤に登場する、山の麓に住む薬草店主人の老婆ウィルヘルミーネも、大きな存在感です。リリの能力を瞬時に理解し、リリ自身も気づいていなった、植物と会話する力を目覚めさせます。
導師ですね。

動物側の描き方にも、にも決定的な変化があります。異種相互の会話は不可能、通訳はリリだけ、という基本設定を危うくする変化です。アルプスマーモットの「ハナヒゲ博士」という、人間の文字を解する動物があらわれるのです。知恵者です。

守護者、導師、知恵者。
彼らの登場によって、物語は「ロー・ファンタジー」から「ハイ・ファンタジー」へ転換する気配が濃厚になってきました。


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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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