第5巻。
リリアーネの学校にやってきた転入生ヴォルケは牧場の娘でした。
リリとイザヤは誘われて牧場に出かけますが、そこで見たのは経営の厳しい現状でした。望みは牧場の大黒柱である馬術競技用の馬ストームが競技大会で優勝すること。ヴォルケの「ふたりの母」は、ベテラン調教師のエゴベルトにストームの訓練を任せています。
ところがエゴベルトの違法薬物を使った暴力的な調教で、ストームはすっかり人間を憎むようになっていました。
それを知ったリリは、エゴベルトの悪事を告発し、ストームに「自分自身の喜びと楽しみのために」走るよう、気のいい老馬マーリンとともに、説得しようとします。
そして迎える大会の日。リリはマーリンに乗って参加。そしてストームは…
第6巻
隣町のツップリンゲン動物園で問題が起きていました。生まれたばかりのパンダの赤ちゃんを、母パンダが育てようとしないのです。育児放棄です。
その動物園から預かる予定のカンガルーの様子見を園長に頼まれたリリは、さっそくそのカンガルーのカイリーと心を通わせます。ただし、リリの動物通訳の力は、こちらの動物園では秘密です。
努力の甲斐あってニュースキャスターの座を射止めたリリのママは、娘の能力が広く知れ渡ることを恐れていました。
リリとイザヤはパンダの子を心配するあまり、子パンダ誘拐という、無謀な行動にでます。
紙一重の攻防の末、パンダは一命を取り留めますが、リリとママは決定的に衝突。「娘が魔女で、動物泥棒だなんて!」と口走るママに、リリは深く傷つきます。
この第6巻で、リリアーヌをめぐる一連の問題に、ひとまずの決着がつきます。
「第1部完結」の意味合いを持った一冊といえるでしょう。
第1巻で、身近な人たちにカミングアウトを果たしたリリですが、ここでは、ママとともに、より大きな決断を迫られることになります。
それは、いわば秘密の「越境」です。
リリの才能を「自分への足かせ」と感じる思いから、どうしても抜け出せないママと、子パンダの「病気」のせいで育児放棄している母パンダの姿が重なり合います。ママと衝突したあとも、母パンダに子パンダを受け入れるよう必死で説得するリリ。「病気ではなく個性」「個性はすてきなもの」「だからこの子は特別な子よ」
母パンダの愛情回復とママのそれがリンクする、迫真の4ページ。おそらくは、シリーズ6冊を通してのクライマックスと言っていいでしょう。
想像力で「普遍」をつく。
だからこそ、複雑なメッセージが、子どもにストレートに届く。
タニヤ・シュテーブナーが、この物語を「ファンタジー児童文学」として発想した理由は、こんな書き方ができるジャンルははほかにない、という強い確信だったと思われます。
さて、第6巻では、ファンタジーの禁じ手である「秘密の『越境』」が語られてしまいます。
本シリーズがこれまでのようなリアリティーで語られるとなると、それこそが大きな「足かせ」となるリスクを持つわけですが、果たしてどうなるか…
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コメント
外国の物語が常に貸出になるのは、珍しいです。
「グレッグのダメ日記」は男子で奪い合いです。
子供たちは、大人のお勧めなど知らん顔で、
「面白い本」であることが選択の基準です。
子供たちにとっての「面白い」は
「飽きずに夢中で最後まで読める本」というコトかも。
子供たちに「せんせー、面白い本、なーい?」
と聞かれると、
「逆に教えて欲しいわ」って思います(笑)
今年、ついに「夏の課題図書」の購入をやめました。
夏休みは短いし、本を子供たちに紹介する時間もなかったし…。
買っても、毎年、殆ど動かないのも現実です。
毎日、暑いですね。
バテぬようお過ごしください。
ユキ
2020/08/17 URL 編集返信出版不況の中で、子どもの本だけが売れているとの現状。それを支えているのがこの「リリアーネ」のようなシリーズだというのは、なかなか心強いことのように思います。
飯田一史氏によると、日本ではドイツ語を解する編集者は少なく、このシリーズもたまたま学研にそういう人がいたので実現の運びになったとのこと。
それも幸運でしたが、子どもの手に届きやすいデザインの工夫を加えたこともよかったのでしょう。一旦手に取って読み始めれば「面白い」本も多いのに、手に取りづらいデザインのために消えていく本が多すぎる、とつくづく思いました。
「リリアーヌ」シリーズ、読み終わったものをどんどん孫の家に送っています。
気に入ってもらえるといいのですが…
yositaka
2020/08/17 URL 編集返信