「動物と話せる少女リリアーネ」を読む①自分だけの才能

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シリーズ第1巻。
リリアーネは小学4年生。どんな動物とでも話せる力と、笑顔によって植物をたちまちのうちに成長させる力を持った少女です。
でも、その秘密を知られないようにするために、もう3回も転校を繰り返しています。
今回の引越しで、リリはとなりの家に住む5年生の少年イザヤと知り合いますが、彼もまた、学校のアイドルでありながら、人に知られたくない秘密を抱えていました。
笑顔を隠した、煮え切らない態度のせいもあって、リリはクラスの女の子トリクシィとそのグループに、さんざんいじめられます。
そんなある日、街の動物園の人気者のゾウが情緒不安定で暴れたりするというニュースが。
この事件をきっかけに、リリとイザヤは協力して動物のトラブルに対処していくことになります。
そして、ふたりは勇気を出してそれぞれの「秘密」をカミングアウトすることに…

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第2巻。
周囲の人々にカミングアウトは果たしたものの、リリに反目するトリクシィのいじめは止まるどころか、姉とタッグを組んでさらにエスカレート。ここまでするか、とぞっとするほどの深刻な事件も引き起こしてしまいます。
一方、リリが動物通訳を務めることになった動物園では、牝トラのサミラと牡ライオンのシャンカルが恋に落ちるという困った問題が起こります。
園は既に、二頭を引き離す計画を進めていました。
リリと、「ギフターズ(高知能)」の力に自信を持ったイザヤは、サミラとシャンカルの恋の成就のために活動を開始します。

この最初の2巻を読んだだけでも、作者の、人や動物を見る目の鋭さや、社会意識の高さが実感されます。
リリアーヌの力は、「ファンタジー」の概念では「魔法」に近いものですが、作者、タニア・シュテーブナーはそうは考えていません。
イザヤの並外れた知能や記憶力も同じで、作者はそれを「才能」と呼んでいます。読者として「なぜそんな力が」と問いたくなるところですが、そのような分析には全く関心がないようです。
あるから、ある。

人間にも動物にも、個々に異なった「自分だけの才能」「個性」があり、それは世の中の、どんな物差しを持ってきても測れない、ひたすらに尊重されるべき価値である。
もしも尊重されない事態や、否定されるような圧力があれば、断固として退けなければならない。

これが作者の揺るがぬ信念であり、本シリーズのテーマでもあります。
なので、物語の多くの局面で、読者は自分の価値観との対決をせまられることになる。リリにしても、動物と話せるからといって、なんでもスムーズというわけにはいきません。
動物の言葉はリリには人間の言葉として聞こえているようですから、ある種の擬人化はされているのですが、動物同士は、同種に属さない限り、言葉を介さない。
そして、動物自体の特性や生態は生物学的に正確、というのがこのシリーズの基本設定です。
リリの飼い犬「ボンサイ」と、イザヤの飼い猫「シュミット伯爵夫人」は、この種のお話につきものの「かわいいキャラクター」ですが、異種なので意思疎通はできません。
リリの立場は孤独です。
いつも秘密の露見をおそれ、気持ちのままに笑うことさえもできないのです。
これを小学校中学年の読者たちに、しかも「楽しい物語」として語りかける作者の力量には、感服するしかないのですが、
さて、物語はこれからどこに向かっていくのでしょうか。
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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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