雑誌「ミュージック・エコー」付録盤を聴く③

音楽雑誌「ミュージックエコー = Music echo」(学習研究社1970年10月~1975年まで月刊で刊行)に付録として添付されていた17cmLPを中古レコード店で発掘。
未CD化と思われる貴重な録音が含まれているようなので、ジャケットの両面をスキャニングして紹介することにした。今回はその第3回。

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第37号
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「神経の動きが透けて見えるような」という宇野功芳の評がぴったりの、響きのスリムなメンデルスゾーンだが、音が出し切られていないもどかしさも感じられる。70年代初頭の日本人演奏、特に協奏曲にはこういう傾向のものが多かった気がする。録音もオフマイクで、無観客の客席でリハーサルを聞いているような気配だ。

第40号
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第3・第4楽章だけという変則的なものだが、演奏は大変魅力的だ。全体はインテンポだが、細かく聞くとフレーズ単位で細かな緩急があり、強めのピチカート、明晰に浮かび上がる木管パートなど、音彩豊かで生き生きと弾んだ「新世界」が楽しめる。録音も良好。
宇野功芳の解説の他、中村紘子のロヴィツキとの思い出話も収録。ワルシャワでの貴重な体験談である。
別の号で、第1、第2楽章を収録した盤もあるらしい。出会ったら即ゲットだ。

第43号
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岩城宏之指揮の「軍隊」全曲とは、貴重な逸品である。厚みのある弦の響きと、強弱自在なティンパニの活かし方が魅力的で、近年のピリオドスタイルにはない、交響曲としての風格を感じさせる。解説は例によって宇野功芳。彼の岩城評というのは珍しいと思うが、「細部の緻密な仕上げときっちりとした造形の中に独特の個性を収める」と、なかなかの高評価である。

録音が「SQ4チャンネル」であることも目を引く。
4チャンネルステレオは、通常の2チャンネルに加えてリアスピーカー2チャンネル分の信号を追加したマルチチャンネル再生方式で、1970年あたりから「未来のステレオ」として広く喧伝され、ネコパパの世代は、憧れたものである。しかし、各社で規格が乱立し統一が取れず、4スピーカーが住宅事情に合わなかったこともあって3年くらいで衰退してしまった。SQはその方式の一つで、こんな雑誌の付録盤にもブームの影響が及んでいたことに驚かされる。
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「通常の2チャンネル再生でも全く従来と変わりません」と注記されているが、SQは2チャンネル再生でドンシャリ感が強調されることが多く、当時の録音は今や鬼っ子扱いのきらいもある。
けれどこの「軍隊」は、そういう問題がなく、すっきりと聴きやすい音だ。
録音ディレクターとして「尾高忠明」の名前がある。もしかして指揮者の尾高さんだろうか。当時彼はNHK交響楽団指揮研究員で、1971年は彼が同オケを指揮してデビューした年。岩城は研究員として先輩にあたる。

第53号
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「ミュージックエコー」末期のものと思われる。
岩城宏之指揮のセッションは、上記「軍隊」の翌日で、ディレクターはやはり尾高忠明。
演奏は大変流麗かつ強靭で、冒頭のチェロのアンサンブルなど、聞き惚れてしまうくらい魅力的。一方のニコラス・ヴィス指揮日フィルの「ローマの謝肉祭」は、対照的に繊細でスマート。

ここで大きな疑問が湧いてしまった。
この盤、新日本フィルと日本フィルが裏表になっていて、録音場所も同じ。録音時期も近い。もしや因縁の「分裂オーケストラ」の一騎打ちか、と、一瞬は思ったが、どうもおかしい。検索してみると、両オーケストラは「日フィル争議」で1972年6月に分裂している。争議が起きたのは同年3月。6月30日に財団法人の解散と同時期に、自主運営側が争議継続側と袂を分かち、新日本フィルを結成。
そうなると、1971年9月の岩城セッション時には、「新日本フィル」はまだ発足していない。なのでその名義が使われていること自体が、そもそも不可思議である。
なにか「大人の事情」があるのだろうか。
ベルリオーズを指揮しているニコラス・ヴィスについても不審な点がある。解説で「公開コンサートではわが国に登場していない」と書かれていることだ。録音して3、4年後の発刊なので、その時点の話だろう。とすると、ヴィス氏は録音だけして帰国したことになるが、そんなことがあるのだろうか。なにか事情がありそうだ。

蛇足ながら、岩城セッションは「軍隊」の翌日。
当然こちらも「SQ4チャンネル」で収録されているはずだか、盤のどこにも表示はない。代わりに「SX68・MARK2」という新規のカッティング機の名が明記されている。この53号が「ミュージックエコー」末期とすると、1974年末から1975年。当時既に4チャンネルは過去のものとなっていたことがわかる。

ネコパパが今回入手したのは以上の11枚。今後もあらたな展開があれば報告していきます。
皆様の情報もお待ちします。
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コメント

コメント(2)
ミュージックエコー
こんにちは

学研は「科学」で親しみましたが、音楽でも充実した月刊誌を出していたんですね、毎月の付録を用意するだけで凄いことだと思います。
値段だけ一人前で何の役にも立たない今の音楽,オーディオ誌のたぐいからすると遙かに価値がありますね、しかも録音内容がレア!岩城宏之氏の「軍隊」など、本当に聴いてみたいものです。
岩城氏は打楽器奏者だった頃、ハイドン「驚愕」で本当にびっくりさせようと、ティンパニの皮に切り込みをつけて本番で破れるように目論んだけど、破れずに普通に鳴っちゃったという失敗談?も語り、ユーモアセンスにも惹かれました。

michael

2020/08/13 URL 編集返信

yositaka
Re:ミュージックエコー
michaelさん、ようこそ。
「○年の科学」も、一番の魅力は付録でした。ずいぶんと楽しんだ記憶があります、岩城宏之は打楽器の出身でしたね。
それで、ティンパニの扱いも得意だったわけですね。
彼の録音は現代音楽が多く、こういう古典レパートリーはあまりないので、その意味でも貴重です。「驚愕」も録音されているなら、聴いてみたくなります。
>値段だけ一人前で何の役にも立たない今の音楽,オーディオ誌
そうですね。まあ、情報誌と割り切ればいいんですが。一応、立ち読みはします。「レコード芸術」も一時は付録CDも付けていましたが、メーカー提供の新譜ハイライトばかりでは有り難みがありません。
「ミュージックエコー」のように、全てオリジナル録音というのは前代未聞じゃないでしょうか。なのに、いまに至っても満足なディスコグラフィーすらないとは!

yositaka

2020/08/13 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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