図書館からの冒険~「諦めの悪い」登場人物たちの活躍。

岡田淳のファンタジー最新作をご紹介します。

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小学校最後のゴールデンウィークを叔父さんの家で過ごすことになった主人公の渉(わたる)は、書店を営む敬二郎叔父さんの店に隣接する古い図書館(柴野崎小学校の別館)に忍び込み、そこで一夜を過ごすという「冒険」に乗り出す。
小学校は廃校となり、由緒ある建物だった図書館の建物、双葉館も、取り壊しが決まっている。最後のチャンスだ。渉は、叔父さんが小学生の時にここで見たという「白い服の少女のゆうれい」の謎をさぐるつもりなのだ。
閉鎖され、がらんどうになった図書館に侵入した渉が、そこで渉が見たものは、「ゆうれい」ではなく、黒いゼリー状の「謎の連中」、そして出会ったのは、渉と同じくリュックサックを背負った「少年」だった。「彼」に導かれるままに、渉が飛び込んだのは「ジノザキ島」と呼ばれる「もうひとつの世界」だった…

本作は「カメレオンのレオン」に始まる「学校から繋がる別世界」シリーズの4冊目です。
いつもなら、「こちらの世界」と「あちらの世界」をつなぐ連絡・調整係として、どんな生き物にも変身できる「探偵・カメレオンのレオン」が登場するところなのですが、今回は頼みのレオンが不在。異例の事態です。
それでも渉は、サキに導かれて心ならずも「通路」を渡る。
そこは、「ひとしかできないひと」と、「ひとと動物のひと」(どちらの姿にもなれる)とが共存する世界でした。

単種としての「ひと」と異種混交の「ひとと○○のひと」が自然に住み分ける世界は、「こそあどの森」にも繋がる、岡田ファンには既におなじみのもの。いつもなら、ここから楽しくも心躍る、不思議な物語が始まるところなのですが、どうも今回は様子が違います。島はさびれていて、住民もわずか。住居は半壊…実はこの島は、大きな災害に見舞われていました。
地震・水害・渇水、美しかった湖も枯れ、犠牲者も無数。どうやらその背景には、経済活性化のために住民が誘致した、薬品工場による環境破壊もあるようです。
残った住民も、度々出現する「黒い連中」にとりこまれ、次々に変身して仲間になってしまう。
起死回生の鍵は、ただひとつ。すべての水を司る「島の龍」の力を呼び戻すことしかありません。
渉とサキ、そして残された住人たちは「ひととのひと」、ミレイさんに会うために「西の屋敷」をめざして出発します。

「シバノザキ島」に起きている事態は「こちらの世界」そのものといってもいいでしょう。
本書の刊行は2019年12月。この時点で作者は「共存と調和の理想郷」の「崩壊の予兆」をファンタジーとして描かざるをえなかった。いつ、何が起こるかわからない現実なら、それは「非現実」といわれる「物語のなかのもうひとつの世界」となんら変わるところがないからです。近年の「こちらの世界の激震」に重なる表象が、本作では物語のいたるところに現れています。

でも、違うところもある。
登場するのが、岡田作品ならではの「諦めの悪い」登場人物ばかりだということです。
渉もサキも、ゴーダさんもマリちゃんも、いつもの岡田ファンタジーの登場人物同様、生き生きとして活動的。楽しく生きることを、決してあきらめない連中です。彼ら彼女らが、それぞれの得意を生かして、寄せ来る問題を打開していく。
このあたりの読み味は、やはり痛快です。もう爺さんの仲間入りを果たしたネコパパにとっても。
渉はアウトドアの技に優れ、ロープワークも水泳もボート漕ぎも得意な優等生ですが、そんな渉もここでは「準備がなければ心を壊す」危機にも見舞われます。
「ひととクマのひと」大工のトーリョーに出会った場面の、心底からの恐怖。
迫真の描写が、異質、異形を恐れる読み手をざわつかせる。本作白眉のシーンです。そんな渉の心中を察した、実は少女のサキは、渉の手をぎゅっと握って心を支え、渉の「保護者」を引き受ける。
そんな二人の旅の物語が、やがて時をさかのぼり「こちらの世界」に住む叔父の敬二郎さんと、「ひとと龍のひと」、ミレイさんとの過去のいきさつと重なって、物語を「幸福な結末」へと導いていきます。

「先の見えない現実」のなかにあって、共存の未来を信じ、子どもたちに語る道を探る。
あまりに楽天的と言われるかもしれません。しかし、児童文学ならば、ここで「絶望」を語ることはできない。困難な迷い道であっても、一抹の希望を見出す。それが児童文学者の矜持だからです。現代にも「王道の児童文学が成立」する。
その難事をやってのけた、これは会心の一作です。




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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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