カカオ80%の夏


■永井するみ
■2007.4
■理論社 ミステリーYA!
■326p
■1300円

>別に自慢するようなことではないが、私は迷子になったことはない。幼いころ、つまりはまだ両親が一緒にいたころ、家族で外出すると、父と母は腕を組んで歩き、父はもう一方の手を私と繋いでいた。…
 両親が離婚してからは、もっぱら母と出かけるようになったが、その場合は、母が私の手を離さなかった。私が迷子になるのを心配するというよりは、母自身が迷子になることを心配していたようだった。…
 もともと母よりは方向感覚に優れていたことも手伝って、母と出かけた際に、道を覚え、教えるのは私の役目になった。母は私から離れまいとして引っついていたのである。


…そんなわけで、自分の方向感覚で「わが道を行かざるを得ない」ことになった女子高校生、三浦凪は、今日もちょっと大人のファッションで、渋谷の街を闊歩する。
夕食はおしゃれで優しいマスターのいるクラブ、時には母の元恋人のジェイクの勤めるディスコへ。他者依存の激しい母のへの気遣いも忘れずに。
そんな凪に、「洋服選びにつきあってほしい」と声をかけたのは、同級生の雪絵だ。日頃は雑談程度のなかで、特に親しい間柄ではないが、快く引き受ける。
しかし、買い物の後、雪絵は忽然と姿を消したのだった…。
雪絵の母から知らせを聞き、友人の行方捜しに奔走する凪。なぜ、そこまで、と思うほどに熱意を込めた凪の活躍に、彼女の深い孤独感が映し出される。やがて紀穂子とミリという個性的な少女たち、鈴木さん、榊さん、草笛さんなどの老人たちと出会いを重ねていくことになる。
そして、そこには意外な事件が隠されていた…

シリーズ名が示す通り、若い世代に向けたミステリーの一冊。永井するみは、東京芸術大学音楽学部(ピアノ科)中退、1987年-北海道大学農学部卒という経歴を持つ推理作家。児童文学は初めてとのことだが、現代の少年少女の内面を実に巧みに表現する筆致は実に鮮やか。
たとえば、一人でいるライフスタイルを大切にする凪だが…


>なんとなく気になって携帯電話を見てみると、電池が切れそうになっている。…電池切れ間近の携帯電話を持ち歩いていることほど、心細いものはない。でも充電器は家だ。どうしよう。


メディア世代の少女らしい、こんな不安がさりげなく描かれる。
確かにこの作品では、人との出会いを媒介する主な方法は、携帯電話とパソコンだ。
雪絵失踪の手掛かりを得るために、凪が雪絵のノートパソコンの履歴をたどり、データを自分のパソコンに送信、その内容を次々にたどって調査を進めていく手際の良さが、スマートに描写されていく。
私は何とか付いていけたが、何をやっているのか分からない、と感じる中高年は、少なくないのでは。
でも、小中学生ならあたりまえにわかる言語なのだろう。

謎解きそのものは、地味だ。
シャーロック・ホームズの『赤毛連盟』を想起させる古典的なトリック。
でも、ここに描かれた人物像には大いに魅かれた。凪を主人公にした第二作に期待したい。 

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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