ぼくは半分獅子に同感です。



レコード芸術 2009.9月号。
交響曲の欄で宇野功芳氏が、演奏論を逸脱した本音を吐き出す。宮沢賢治の『猫の事務所』に登場する、獅子みたい。「理屈があって感動がない」最近のクラシック業界に痛烈な一打。
痛快だ。


>演奏は正しいか正しくないかとかの基準で評価すべきなのだろうか。
そうではなくて、感動的か、感動的でないかであろう。クラシックファンの多くは楽譜も読めないし、楽器も弾けない。でも、演奏の優劣を聴きとる耳には一切関係ない。むしろ知識などないほうがよい。それに捉われないですむからだ。ベートーヴェンが彼のスコアにメトロノーム記号を書き込んだのは、後世のわれわれにとって大迷惑。
>フルトヴェングラーは、テンポというものはホールの響きによって変わり、ホールの大きさによって変わり、オーケストラの人数によって変わると言っている。その通りだ。その変化こそ指揮者の才能なのだ。それをよく知っている指揮者マーラーは、あんなに細かすぎる指示を書いた彼の作品に、メトロノーム記号だけは指示していないではないか。


これは、内藤彰指揮東京ニューシティ管弦楽団のブルックナー第五交響曲への批評の一節。
内藤が、第二楽章のテンポについて、楽譜の指示通りの早めのテンポをとり、ライナーノーツに、他の指揮者は誤ったテンポで演奏しているとの指摘したことに対する見解だ。そして演奏については

>テンポの速さとノン・ヴィヴラート奏法による歌の不足が目立つ

と、済ませている。推薦マークはもちろんなし。


話変わって…

スイスの指揮者エルネスト・アンセルメ、没後40年ということで、彼の録音が多数の国内盤ボックスセットになって発売された。
初めてCD化さけれた演奏も含まれている。これだけ大規模の発売は、おそらく最後になるのではないか。この機会に再評価が期待された。
なにしろ、彼のレコードはアナログファンの間では大人気。オリジナル盤の価格もかなり高騰していると聞く。
私も最近、最近になって改めて、いろいろと聴き返している。
つい先日も
HMVから発送されてきたベートーヴェン交響曲全集を聴いたばかりだ。主要な序曲ばかりか、「大フーガ」まで含まれている意欲的な全集だ。「田園」以外は初めて聴くものだったが、
いやあ、大変な驚きだった。
これが、長年にわたるシューリヒトとの共同研究の成果だったのか。
隅々まで考えつくされ、しかもあふれんばかりの気迫のみなぎった斬新な演奏が、すべての曲で繰り広げられているのだ。これだけの演奏が、長い間埋もれていたなんて…

しかし、今月のレコ芸の月評欄では、このベートーヴェンも含め、どのボックスもさしたる評価を得ていない。
評者の誰もが口をそろえて「アンサンブルが危うい」「技量不足」とのたまう。別記事の「ダフニスとクロエ」全曲の「徹底解剖」でも、史上初の全曲録音を果たしたアンセルメに対する評価は「ぼろくそ」といっていい。そして推薦盤のトップは、ブーレーズ盤指揮ベルリン・フィル盤が上げられている。
もちろん、理由あってのことだろう。でも、どうもこの流れはおもしろくない!!
私は学生時代、「ダフニスとクロエ」を初めて聴いた。まずブーレーズ盤。アンセルメ盤はそのだいぶ後だ。。
ブーレーズ盤はもちろん精緻で録音も鮮明。この曲が、いかに「良くできている」かを知らせてくれたレコードに間違いない。しかし、なんとなく作りものっぽい、表面的な曲にも感じたのだ。
アンセルメは違った。響き自体に、この曲への熱い共感がある。たんにきれいな曲ではなく、耳を洗われるような清新な音楽が聞こえてきたのだ。ブーレーズとは表現の方向性が明らかに違う。
いま聴きなおしても、それは少しも変わらない。

スイス・ロマン度管弦楽団は、弦はペラペラ、オーボエは珍妙、録音の魔術で指揮者は数学者なので音楽は図形のよう。
あちらこちらで目にする評価だ。でも評者たちは、かなりの部分、先入観で評価しているような気がする。プロとして多量の演奏を評価しなければならない彼らにとって、先入観は有効な武器となる。
しかしこのような批評傾向では、私のような技術に鈍感、情感に敏感(?)な聴き手は「何もわからん奴」として排除されるのではと感じ、恐ろしくなるのだ。

>むしろ知識などないほうがよい。
宇野先生の発言も「獅子の意見」で極端ではあるのだが…
ぼくは半分獅子に同感です。

関連記事
スポンサーサイト



コメント

コメント(2)
No title
初めまして。
仰る通り、音楽は心で聴くものだと思います。知識偏重では、妙な先入観も持つでしょうし、心の目が曇ってしまうのです。
アンセルメは、シューリヒトをはじめ、優れた芸術家を支えたことでも功績があった人物ですね。その人となりが、音楽にも表れていると思います。
お気に入りに登録させて頂きます。今後共、宜しくお願い致します。

Kapell

2009/08/30 URL 編集返信

No title
kapellさん、コメントありがとうございます。
レコード産業が活発でなければ、この雑誌もつぶれてしまいますし、新しい録音を売っていくことは業界の至上命令なのだと思います。
ただでさえ少ないファンが、ヒストリカルものに傾斜するのは避けたいとして、少しでも現役演奏家のものを持ち上げていくことも、ある意味仕方ないとも思います。
しかし、そのために過去の名盤を時代遅れとかもはや古いと評するのは、やはりまずい、と思うのです。kapellさんが紹介しておられるホルショフスキ、ヴェデルニコフなど商業ベースに乗らなかった演奏家に光が当たらないのも、業界に影響がないからでしょう。その意味でも、ファンの意見は大切ですね。
これからもよろしくお願いします。

yositaka

2009/08/31 URL 編集返信

コメント投稿
非公開コメント

プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

ご訪問ありがとうございます

月別アーカイブ

検索フォーム

QRコード

QR