ジャズの歴史は「魔界」ロサンゼルスにあり。

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河出書房新社 2012.2


世界一の「マイルス者」で有名だったジャズ評論家・中山康樹の著作である。
名著ではないだろうか。こんな本も書いていたんだ。

これまで「ジャズの歴史」として、なんとなく事実だと思っていたこと…
ジャズの発祥地はニューオリンズ、ウェスト・コースト・ジャズは西海岸の白人スタジオ・ミュージシャンによる、スタイリッシュで洗練されたジャズ、一方、ビバップを嚆矢とするイースト・コースト・ジャズは、東海岸に誕生した黒人中心の即興重視の高踏的な音楽…などという「聞きかじりの知識」、あるいは「定説」の再検討を迫る本である。

ジャズの発祥地はニューオリンズ(だけ)ではなかった。
ロサンゼルスのセントラル・アヴェニューを中心に、1920年代からジャズは活発に演奏され、ビバップの創成にもパーカー、ガレスピーに先んじて動きがあった。ジェリー・マリガンやショーティ・ロジャースに始まる「狭義のウエスト・コースと・ジャズ」は、一部に過ぎず、それが下火になった後もオーネット・コールマンやエリック・ドルフィーら先進的なミュージシャンを輩出する土壌にもなった。ロサンゼルスのジャズをめぐる、これまで知られなかった事実が、有名無名のアーティストひとりひとりの経歴にも触れながら、じっくりと検証されていく。

中山康樹は、ロサンゼルスという都市を、陽光の背後に闇を隠し持つ「魔界」と例えている。
明るく健康的なイメージの、コンテンポラリーやパシフィックのアルバムジャケットとは真逆の、ドラッグと犯罪にまみれた、清濁併せ持つカオスのような都市だという。
そんなロスで、ミュージシャンたちは如何に生き、ジャズという音楽を産み出し、そして破滅していったのか。
ロサンゼルスのビバップの創始者がハワード・マギーであったこと、レスター・ヤングの兄リー・ヤングがプロデューサーとしてジャズ界に果たした役割の大きさ、ハロルド・ランドの「ザ・フォックス」で唯一度の熱演を披露したトランペッター、デュプリー・ボルトンが、62年の生涯の45年を刑務所で過ごした悲劇など、本書で初めて知る事実はあまりに多い。


中山康樹の著作「マイルスを聴け!」や「エヴァンスを聴け!」を愛読し、そのディスコグラファーとしての博識と軽妙な評文を楽しんだネコパパには、この評論の真摯な内容は衝撃的だった。
ジャズという音楽は、演奏そのものと同じくらい、ジャズマンたちの麻薬がらみの破滅的人生とそれに類するエピソードに重きを置いて語られることが多い。そのために「聴く前から嫌になる」ケースもある。本書もその種の話は「満載」されているのだが、嫌になるどころか、むしろもっと聴きたくなってくる。不思議だが、それは著者が彼らに強い共感と信頼を寄せているせいなのかもしれない。

中山氏には、こういう本をもっと書いてもらいたかった。享年62歳、つくづく早世が惜しまれる。




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コメント

コメント(2)
ウェストコーストジャズは。
紹介されているハロルド・ランドのザ・フォックスを聴きました。
なかなか良いですね。
ハロルド・ランドは隠れた名手ですよね。

中山康樹さん、お亡くなりになっていたんですね。

クロード・ウィリアムソンはジャズ批評誌のインタビューの中で「”ウェストコーストジャズ”なんてものは存在しなかった」と不機嫌そうに語っています。
渦中にいたウィリアムソンら当のミュージシャンたちは一様にそういう認識で、ウェストコーストジャズと括られることに大いに不満をいだいていたようです。
評論家が音楽ストーリー・ドラマを作って評論することは多いのですが、ウェストコーストジャズの場合は、的外れだったようです。



不二家憩希

2020/05/01 URL 編集返信

yositaka
Re:ウェストコーストジャズは。
不二家憩希さん
晩年の油井正一も「ウエスト・コースト・ジャズはジャズのカテゴリーではなく、クール・ジャズに含まれると言っていいんじゃないですか」と広く捉えていたと思います。
私も同感でしたが、中山康樹はロサンゼルスを中心に、ジャズの歴史がニューヨークと対等に刻まれていた、というさらに広い捉え方です。ものを理解したり研究したりするには、特性ごとに細分化して分析する方が深く踏み込めるのですが、それはあくまで「一つの物差し」で、絶対的なものではありません。
まして、研究ではなく愛好する者が杓子定規になるのは良くないですね。クロード・ウィリアムソンはそんな杓子定規なファンが多いのにきっと辟易していたんでしょう。

ハロルド・ランドは渋く無骨なテナー奏者ですが、ロサンゼルスを離れず、洗練されぬ辛口ジャズをやっていた人で、本書に登場するのにふさわしい人だと思います。聴けば聴くほど味が出ます。


yositaka

2020/05/01 URL 編集返信

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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