改訂版の逆襲か!?~ブルックナー「ロマンティック」に異変あり。

ブルックナー好きの音楽愛好家にとって「版」の話は大ネタだ。
偏執狂的な推敲魔だったブルックナー、それに、師匠の曲がなかなかヒットしないのに業をにやした弟子たちの「お節介なアレンジ」も加わって、彼の交響曲には同曲異版が入り乱れている。

特に「第3」「第4」「第5」あたりは囂しい。聴いてみると、随分違うのがまた、面白い。
ネコパパが最近拝聴したこれは、交響曲第4番「ロマンティック」
数あるブルックナーの曲の中で、ネコパパが「第8」と並んで最も好きな一曲である。

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さてこのCD、ジャケットには特に表示がなかったので「ハース版」か「ノヴァーク(第2稿)版」だろうと思って聴き始めたのだが、冒頭のホルンの主題提示に続く弦の下降が、朗々とオクターブ上げて鳴り響き、くっきりと強調される旋律線の背後では、やたら盛大にティンパニが打ち鳴らされ…
これは驚き。改訂版だ。

交響曲第4番 変ホ長調 「ロマンティック」 WAB 104 (1888年稿・コーストヴェット版)
オスモ・ヴァンスカ (指揮)ミネソタ管弦楽団 
録音: January 2009, Orchestra Hall, Minneapolis, Minnesota BIS-SACD-1746

「1888年稿」とは「改訂版」、これこそ「弟子たちのお節介」の結晶である。
それも3人の弟子が楽章を分担して手を入れる…という見事なチームワークで完成したものらしい。その熱意にほだされたのか、師匠は「いいよ」と出版を了承、この曲の最初の出版楽譜となった。
モノラル時代は、古の巨匠たちがこぞってこの版により演奏、録音。

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しかし自筆稿に基づく「ハース版」「ノヴァーク版」が出版されると「改訂版」は、作曲者の意に沿わない「改竄版」とされ、見向きもされなくなった…はずだった。

これがまだ生きていたのを知ったのは、NHKのTV放送。ウイーン生まれの指揮者フランツ・ウェルザー=メストがクリーヴランド管弦楽団を指揮して演奏しているのを視聴したとき。2012年のライヴで、場所はあの、聖フローリアン修道院。
「コーストヴェッド版」という見慣れぬ字幕が出たが、まさに改訂版だった。

イギリスの音楽学者ベンジャミン・コーストヴェットはノヴァークの没後仕事を引き継いでブルックナーの楽譜の校訂を続けている人。2004年になって、あらためて出版したのだ。随分奇特な…と思っていたら近頃は、シルヴァン・カンブルラン、マーク・ウィッグルワース、ダニエル・ハーディング、そしてオスモ・ヴァンスカと、取り上げる指揮者がじりじり増えている。

このヴァンスカの演奏は、ウェルザー=メストよりも3年前のもの。抜けるような透明感と爽快なテンポ感があり、第2楽章は叙情が際立ち、第3、第4楽章は前半とは打って変わって緩急自在でダイナミックレンジが広い。ティンパニの乱打を伴ったフォルティッシモなんて豪快そのもの。ティンパニありシンバルあり大胆なカットありと、ブルックナー・ファンの中には目を剥いて怒り出しそうな人がいそうだ。一方「長くて重くてダサい曲」と、ブルックナーを敬遠している人には「意外といいじゃない」と思ってもらえるかも知れない。

ネコパパは…あの唐突なカットはやはり頂けないけれど、楽しめました。これもまた、ブルックナーの魅力。ヴァンスカが心から共感して演奏しているのもよくわかる。それに、彼の得意なシベリウスと共通する、キリっと辛口端麗な音色のよさ!





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コメント

コメント(6)
とても気になる演奏です
いつも大変お世話になっております。
ブルックナー第4番はインバルによる第1稿を使用して演奏されものが珍しく感じられましたが、こうして改訂版での演奏も再び日の目を見るようになった事に、音楽の多様さが求められ受け入れられる多様な時代になったのだと感じます。
音楽は本来こういった多様性を容認するもので、時代と共に嗜好の変わるものだと思っています。
それぞれの好みの中に燦然と輝く名演というものの存在があると信じています。
素敵で有意義な記事をありがとうございます。

よしな

2020/04/16 URL 編集返信

引用の織物(テクスト)の時代?
混迷の時代だと眉をひそめる向きもあるかも知れませんが、決定盤(版)一つに限られない時代を迎えているのかも知れません。文学のテクスト分析と同様の読みの多様性を感じます。
あるいは、盤の氾濫ししかも値段が下落する中でレコード芸術を読み込んで我が決定盤1枚に絞り込み我が愛聴の1枚とする聴き方の衰退の時代ということでしょうか。ぼくもレコード芸術久しく買っていません。
そういえば、フルトヴェングラーは朝比奈にブルックナー振るなら原典版使えと指南したと朝比奈は回想していたけれど、あの原典版って、何だったのでしょうか。ブルックナーの版はいろいろな問題を含みますね。いずれにしても、良い音質でいろいろな版を楽しめるのは、ありがたいと思いました。

シュレーゲル雨蛙

2020/04/16 URL 編集返信

Re:とても気になる演奏です
よしなさん、コメントありがとうございます。
第4番は三つの版がずいぶん違うので、本来ならすべて録音しないと交響曲全集とはいえないですね。他の曲にも多かれ少なかれあることですし、そういう時代になるとすると指揮者もオケも大変です。改訂版が切り刻みすぎとすれば第1稿はやや冗長、とこれまでは思ってきましたが、もしかすると演奏しだいで見違えるほどの名曲になるのかも。
「燦然と輝く名演」によって蘇生する。まさにそうですね。音楽とは不思議です。そういえばバッハの無伴奏チェロ組曲にしても、マーラーの交響曲第10番にしても、そうやって復活したのでした。

yositaka

2020/04/16 URL 編集返信

Re:引用の織物(テクスト)の時代?
シュレーゲル雨蛙さん
「この一枚」を絞り込むために音楽誌を立ち読みし、散々迷った末に財布事情で妥協した上に、録音は古いが演奏は最高なんだと開き直る。それはそれでよい時代でした。
その分、同じレコードをしゃぶり尽くすように繰り返し聴きましたからね。
現在の演奏家たちも昔と同じく、いやそれ以上に真摯に演奏録音しているのに、聞き手には選択肢が増えに増えてぞんざいな扱いになっていく。そうならないよう心がけてはいるのですが、このヴァンスカ盤だって、聴き始めはイージーでした。ごめん、と言いたいです。

朝比奈隆のエピソードは、第9番についてのものです。これは未完成なので、死後に弟子たちがおこなった改訂版か、自筆譜を基にした「オレル版」(原典版)しかなかったので、フルトヴェングラーは後者にするようアドバイスしたということでしょう。
ただこれは、ご本人の談話が出典とはいえ、平林直哉氏によるとなかなか「裏」が取れない「話」だということです。

yositaka

2020/04/16 URL 編集返信

版はあまり気にしていません。
HIROちゃんです。
ブルックナーの交響曲は同曲異版が多いのですが、それぞれ違いはあるのですが、そこが面白いと思います。どの曲はどの版が良いかと聞かれると何とも言えないのですが、あまり版にはこだわってはいません。正直言うと、どこがどう違うのか細かいところでは良くわからない部分もあるので・・

と、言うことで。今回のyositakaさんの投稿記事は勉強になりました。
今回紹介された、オスモ・ヴァンスカ 盤・・興味を引きますね・・・

HIROちゃん

2020/04/16 URL 編集返信

yositaka
Re:版はあまり気にしていません。
HIROちゃんさん
版の違いは気にするというよりも、楽しむという感覚です。まあ、そういう楽しみ方が出来るのはブルックナー位で、ベートーヴェンもいろいろ言われますが、そんなに気にしたこともありません。
これは演奏の違いを楽しむのと似ているのかもしれません。ブルックナーの弟子たちは、フランツ・シャルクをはじめ、指揮者になった人たちですから、第4の改訂版の場合は、棒を振るように譜面をいじってしまったのでしょう。ブルックナー自身も名オルガニストで、迷?指揮者でもあったので、弟子たちの鳴りの良さそうな手入れをみてつい「いいよ」と言ってしまったのでしょう。こんなことを想像するのも楽しいわけです。

ただし、ヴァンスカがいいのは版の選択ではなく、演奏そのものが魅力的なのです。彼の棒で、ハース版やノヴァークⅡ版も聞いてみたくなります。

yositaka

2020/04/16 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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