休業前日の映画館で「新聞記者」を、駆け込み鑑賞。

行きつけのシネコンがコロナウイルス対策で当面休業するとのメールが入った。
4月11日(土)からという。
そこで、最後の営業日になる10日(金)、アヤママと足を運ぶことにした。
観客はネコパパ夫婦と高齢の男性二人の、全部で四名。「三密」には程遠い状況である。
演目は、ずっと気になっていながら、初回の上映次を見逃していたこの映画だ。

20190214-shimbunkisha_full.jpg


東都新聞社会部の若手女性記者・吉岡エリカ(シム・ウンギョン)は、新聞社にリークされた内閣府主導の大学新設計画の取材を任される。調査を進めた結果、内閣府の神崎という人物が浮上してくるが、その矢先、神崎は自殺してしまう。神崎のかつての部下で、現在は内閣情報調査室の若手エリート官僚である杉原(松坂桃李)は、現政権に不都合なニュースを恣意的に操作する仕事に疑問を感じていたが、神崎の死を不審に思う。立場の違いを超えて協力するふたり2人の前に、次第に明らかになる事実とは…

徹底した情報統制に対し、自己の信念だけを頼りに抗おうとするふたりの切迫した心情が、生々しいクローズアップと、荒い息遣いの強調によってリアルに描き出される。猫背気味に相手を見上げて話すシム・ウンギョンの演技も凄みがある。社会の同調圧力に抵抗することがどれほど肉体的なプレッシャーなのかを皮膚感覚で伝えてくる演出だ。
彼らの敵である内閣調査室は、全ての情報を握りつつ現政権の意のままに世論を誘導するために、黙々とPCに情報を打ち込み続ける。
その活動を統括する内閣官僚多田(田中哲司)の冷徹な演技もいい。吉岡に協力しつつ、妻や生まれたばかりの子どもの心配も抱え、迷いもある杉原に「ぬっ」と出産祝いを渡す場面、「民主主義など形だけでいいんだ」と呟くシーンなど、裏で動く人間の恐ろしさを実感させる。この男も明日は使い捨てられる運命にあるのだ、と見るものは感じ取るだろう。

原案は望月衣塑子の同名の新書で、本人も吉岡の見ているTV番組の座談会での発言というかたちで登場。国会議事堂前の抗議デモ参加者としても顔を見せている。映画のストーリー自体はフィクションであるが「忖度」が常態化した現代のメディアに鋭く迫る作品になっていると思う。新聞社の社名を「東都新聞」意外は、すべて実名で使用したことにも驚いた。日本の映画界も、まだこういう作品を生み出す力を保っていることを心強く思う。

それにしても、映画の中にウイルス関連の話題が出てきたのには驚いた。現実の展開とは全く違う扱いだが、ジャーナリズムやメディアもまた「同調圧力」という別種のウイルスに侵食されていることの喩えだろうか。いずれにしても、当分は「映画館」もおあずけである。


関連記事
スポンサーサイト



コメント

コメント(2)
予言的作品、かも。
この映画は、制作の背景になったことがらを浮き彫りにするだけでなく、さらにこの3月から今に至って起きていることを、象徴的に予言しているようです。

作中で自死する神崎の妻を演じた西田尚美の演技が、静かな中にひしひしと迫るものを湛えていたのが印象的でした。
去る3月の、実際に自死した財務局職員の奥さんによる「提訴」と、遺書・記録の公開のニュースでは、西田の演じる「神崎の妻」のイメージが再度浮かび上がってきました。
西田さん自身も、このことについてツイートしたそうです。

> 「同調圧力」という別種のウイルスに侵食されていることの喩えだろうか。
現今の新型ウイルス自体が、社会の在り方、人類の存在の仕方を問うているように思えます。
為政者に、科学者に、メディア人に、そして私たち民衆に問うている…こういうの、「黙示録的」なんて言うのでしたっけ?

映画は、そのような事象を、象徴的に予言していた、とも読めます。

へうたむ

2020/04/13 URL 編集返信

yositaka
Re:予言的作品、かも。
へうたむさんもご覧になられたんですね。
まさに予言的で、財務省職員の自殺という実際の事件とオーバーラップするインパクトは相当なものです。
西田尚美さんの演技も凛としたものが感じられました。このような映画に出演すること自体、役者にも覚悟が要求されると思われますが、出演を決断した彼らの意識の高さにも敬意を表したいですね。
監督の藤井道人氏は1986年生まれの若手監督ですが、脚本も担当し、わずか二週間で本作を撮り切ったとのこと。敏腕です。今後も注目していきたいと思います。

yositaka

2020/04/13 URL 編集返信

コメント投稿
非公開コメント

プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

ご訪問ありがとうございます

月別アーカイブ

検索フォーム

QRコード

QR