老ジャズ・ピアニスト、疫病に斃れる

シュレーゲル雨蛙さんの記事で知りました。エリス・マルサリス。

ニューオーリンズで伝統的スタイルのジャズピアノで活躍しつつ、後進の指導にも尽くした方。心からお悔やみ申し上げます。


マルサリス家の家長、新型コロナの合併症で死去 85歳


ニューヨーク=藤原学思2020年4月2日 23時55分

https://www.asahi.com/articles/ASN427WCNN42UHBI00S.html


ジャズが盛んな米ニューオーリンズ市の音楽一家、マルサリス家の家長で「ニューオーリンズの父」とも呼ばれたピアニスト、エリス・マルサリスさんが1日、新型コロナウイルスによる合併症で亡くなった。85歳だった。息子でサックス奏者のブランフォード氏がウェブサイトで明らかにした。

父親は同姓同名の公民権運動支援者で、故キング牧師らが愛用したモーテルを同市で営業していた。そこで多くの黒人ミュージシャンと出会い、音楽の道を選んだ。教育者としても名高く、複数の大学で若い世代の指導にあたった。


ネコパパはこの人のレコードは1枚しか知らない。

マルサリス家の出世頭のウィントン・マルサリスのアルバムに参加した「スタンダード・タイムVol.3/ロマンス、響き合い」


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一見、トランペットとピアノのデュオのようですが、実際はエリスのピアノにレジナルド・ヴィールのベースとハーリン・ライリーのドラムスを加えたトリオにウィントンのソロが加わるというコンセプト。1990年の録音。

当時日の出の勢いだったウィントンに興味を覚えて入手したものでしたが、聴いてみると過去を懐かしむような、インティメイトな「語らい」の音楽でした。

ミディアム、バラードのスタンダード曲がなんと21曲。ほとんどが3分前後にまとめられていて、それが延々73分も続く。「悪くないけど…」当時一度聴いてそのままになっていました。


昨夜、あらためて聴きなおすと、これがいい。

主役はむしろエリスのピアノで、ソロ曲も2曲ある。それは自分のために引いているような、技のキレも押し出しもない素直なピアノなのに、芯が強い。音色がきりっととして滲みがない。

ソロで弾くMy Romanceや、It's Too Late Nowの味わいは胸に染みとおるようです。


「何て重い響きのピアノなんだ! ゆったりと。決して早弾きのテクニックに走らない。極端なテンポの揺らしや転調に走らない。ゆったりとしかしどっしりと。こいつぁ例えて言やあ、小さんのハナシだな。後で効いてくるのよ。いつだったか、新宿末広のトリで聞いた小さんの太田道灌。あのしみじみと地味だが後引く滋味だねえ」

…雨蛙さんのブログから引用です。

https://sansuica3000.fc2.net/blog-entry-834.html

これに付け加える感想は、ネコパパには、ちょっと書けないやな。


ウィントンのトランペットも、ストレートで抜けがいい。

あの、磨きぬかれた音色だけで語ってしまう。当時29歳としては、あまりに老成した感じもする。

彼も、もちろんいいけれど、ネコパパが目を剥いたのは、エリスとつかず離れず、息のぴったりあったバッキングを付けるベーシストのレジナルド・ヴィールでした。聴いていると、長年一緒にやってきて辛酸を共にし、すっかり気心の知れた旧友のようにも思えるけれど、実はこの人、ウィントンよりも若くて、当時27歳だったんですね。


遅ればせながら愛聴盤になりそうです。

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コメント

コメント(4)
なかなか良いピアニストですよね。
エリス・マルサリスは地元ニューオーリンズでは有名な音楽の先生でハリー・コニック・ジュニアも教え子だそうです。
ですが、子の七光、十四光?で注目される前は米国ジャズ界ではほぼ無名で知られざる存在でした。当時のジャズ誌にはそう載っていました。
父マルサリスの演奏は教育者らしいオーソドックスなもので、聞き方によっては退屈に聞こえなくもないのですが、なかなか良いですよね。

この新型コロナウィルスでは、つい先日もバッキー・ピザレリやウォレス・ルーニーも亡くなっています。

コロナとは関係ないのですがペンデレツキ、ビル・ウィザースも亡くなりました。

ウォレス・ルーニーなんてまだ若いのですがね。亡くなるときには亡くなるんですね。

不二家憩希

2020/04/06 URL 編集返信

yositaka
Re:なかなか良いピアニストですよね。
不二家憩希さん
バッキー・ピザレリ、ウォレス・ルーニー…コロナ疫の犠牲者だったのですね。バッキー・ピザレリはジョン・ピザレリのお父さんですよね。彼も息子の七光でしたか。
それにしても、アメリカの事態の深刻さがよくわかります。一刻も早い終息を願うしかありません。

エリス・マルサリスの存在は、ウィントンの成功関連で初めて知りました。現地でもピアニストとしてよりも教育者として知られていたんですね。だからエリスの演奏はセンスは十分でも、自己主張の強さや斬新さはあまり感じません。当盤で1曲あたりの時間が短いのは、ピアノのスタイルに配慮したからかもしれませんね。
でも、世の中に知られたことは本当に良かった。こんな素敵な演奏が私たちに届けられたのですから。
この1枚を聞くだけでも、そう感じます。

yositaka

2020/04/06 URL 編集返信

コロナ禍が悔しい
引用ありがとうございます。
アメリカのコロナ禍の経緯を、おそらくこれからのブラジルが辿ることになりそうです。桑原桑原。
アメリカは非アングロサクソン系の罹患率が高いとニュースにありました。いまだに奴隷制時代からの影を引きずっているようです。
ブランフォード・マルサリスの作ったCDにジャズの歴史を1枚に詰め込んだようなのがあって、確か冒頭の曲は、鉄道工事か何かの労働歌でした。鉄の鎖の音と鶴嘴の音、労働者の歌、遠くからだんだん近づいて来て、まただんだん遠ざかる。坦々と弾くエリスのピアノもそこからそんなに遠くないところにあったのかな。
話変わって、小さんに最初師事していた談志によると、柳家に入門して最初に教わるのが太田道灌だそうです。だから、この演題、真打ちはまずかけない。ましてやトリでやるなんてえのは…。小さんの道灌とエリスのスタンダードナンバーやデューク・エリントンとが小生の頭ん中でシンクロしたのは、たぶんここです。基本を基本のまま演じて芸になる。じつはこれ、かなり難しいことでなかろうか? 学校の授業で考えると、変哲のない基本的授業なんだが、子どもを飽きさせない。ぼくには全くできない境地です。一度くらい自分の授業で鳥肌立ててみたいものですが…。

シュレーゲル雨蛙

2020/04/12 URL 編集返信

yositaka
Re:コロナ禍が悔しい
シュレーゲル雨蛙さん
ブラジルが次の危機…日本語指導の担当者として、かの国の子どもたちの面倒をずっと見ているネコパパとしては心が痛いところです。
日頃は目立たないそれぞれの国の医療体制の違いや、政治体制、というより政治哲学の有り様までが今回の疫病騒動で白日のもとにサラサラつつある。我が日本国の場合は、政局の右往左往ぶりと後手後手ぶりが歯がゆい一方で、専門家集団の身を削るほどの粉骨砕身の努力が紙一重で医療崩壊を食い止めている姿に頭が下がります。近隣諸国に目をやると、韓国台湾の敏速的確な対応は改めて感心する一方で、管理国家の息苦しさも感じたりします。この出来事は、収束後も国のあり方を変えるでしょう。

基本を基本のまま演じて芸になる、とはすなわち芸の頂点ではないでしょうか。エリントンもそうですが、一層基本に徹しているのがエリス・マルサリスですね。クラシックでいえばホルショフスキとかカーゾンの名前が浮かびます。それには程遠いものの、教師としては、子どものいない学校はやはり寂しいです。

yositaka

2020/04/13 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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