かとりせんこう


■田島征三
■こどものとも640号
■2009/7/11
■福音館書店

ネコパパにとって一番の天敵は、蚊だ。
この字を書くだけで痒くなってくるぜ。
いちどあのプーンという音を聞いただけでもう駄目。
夜は寝られず、食われてなくても全身しくしくし始める。
アウトドアが苦手なのも、そこがネックになっているのだ。
毎日やってくる黒猫のZさんは、平気なのだろうか。

そこで出ました。この絵本。
蚊ぎらいにとって一番の助けは、かとりせんこう。
これさえあれば安眠間違いなし。この煙と匂いがあれば、ほんとに心安らかだ。
―それが嫌いなアヤママ。

まず表紙は、ご覧の通り。おおきな「かとりせんこう」。ただ、そこから出ている煙が、ほんのりと、ではなく、太く強い線で描かれていることに注目。その煙の筋が拡散していくのではなく、
何本もの同じ太さの線となって、メドゥーサの髪のように絡み合い、どこまでものびていく。


けむりがもんもん
かが ぽとん

けむりがもんもん
かが ぽとん ぽとん

けむりがもんもん
かが ぽとん ぽとん ぽとん ぽとん ぽとん ぽとん ぽとん ぽとん

けむりがもんもん
おはなが ぽとん

けむりがもんもん
ぼうしが ぽとん

けむりがもんもん
しんぶんしのじが ぽとん ぽとん



でも、やすらかじゃなかった。この絵本は。
三場面めで一気に八回に増える「ぽとん」で、エネルギーは充填され、もはや煙の力をおしとどめるものはない。
このさき、どんなものが ぽとんぽとんと落ちていくのか、不吉な予感に襲われる。
そして、その予感は的中だ…
このあとは、ぜひ手にとってご覧ください。


田島征三の絵柄は、すっかり角が取れてまろやかで軽妙にすら感じられるタッチ。
『しばてん』
『ふきまんぶく』
『土の絵本』
などで若い時代、私たちを圧倒した、土と汗が入り混じった気骨の絵とは、ずいぶん違う。肩の力が抜けた、というのか。
それでも、彼の皮肉交じりの「怖い視線」は、健在だ。
さらに、ここにはどこかに、亡き絵本の巨匠、長新太の作品世界へのオマージュも感じられる…

でました

と、あらゆる時空につぎつぎに、森羅万象 さまざまな生きるもの 生きないものを出現させる長新太の絵本世界の、ちょうど裏返しのような、

ぽとん ぽとん

と、物が落ちていく世界がここに見られる。
でもそれは、かつての
『ごみをぽいぽい』
のような、苦みと怒りを込めた執拗な反復ではなく、
苦くはあっても、どこかやさしさがこもっている。

最後の二場面が、心に染みいる。
子どもたちに読み聞かせるときは、くれぐれも「作者は何が言いたかったんでしょう」なんて聞かずに、

黙してじっくりと、味わっていただきたいと思う。

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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