ヨッフム、ロンドン響の「田園」~歩みはゆったり、気分は躍動

ベートーヴェン 交響曲第6番ヘ長調Op68「田園」
オイゲン・ヨッフム指揮
ロンドン交響楽団
独EMI ‎–LP, Stereo, Quadraphonic  1C063-03252Q
Rec 1976

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英Disky CD HR706162

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第1楽章 10:59
たいへん遅い、踏みしめるようなテンポで開始される。
各フレーズの終わりには念を押すようなリタルダントがあり、クレシェンド、デクレシェンドも多用される。ドイツ古式の様式的な解釈とも、フルトヴェングラー的とも感じられるが、意外に重苦さや粘った感じが少ない。音が明るいのである。音をあまりセーブしないで、開放的に、のびのびと鳴らしているからだろう。それが陽光を感じさせる音楽となり、テンポが遅いにも関わらず、心は躍動するのだ。好々爺が汽車で田舎に到着し、駅を降りて緑の高原を散策している…そんなうきうきとした気分のが続いていく。

第2楽章 12:36
ここは第1楽章とは違って、標準的なテンポ設定。ここでは弦楽器の鳴りを抑えて、木管をくっきりと前面に出していく解釈。硬い木の感触が伝わってくる木管が、とてもきれい。オーボエも、クラリネットも、ファゴットも、手に取るように動きがわかる。とりわけ後半に出てくるファゴットの長いソロは、背後を支える弦楽器との音の溶け合いがすばらしく、これまで耳にしたことのないような陶然たる響きで色香が漂う。
これに対比するように、弦楽器はときおりゾクッとするような微弱音…穏やかさの中に華やいだ賑やかさがある、そんな「小川のほとりの情景」が展開されていく。
締めくくりは、わざとらしいくらいにテンポを落として入る「小鳥の歌」だ。ここではフルートが思い切り音を伸ばしてクレシェンドする。

第3楽章 6:04
おずおずと遅めに入る。舞曲調にに転じても、リズムを強調しないで軽く体を揺する感じか。続く管楽器の活躍は聴きものだ。音がストレートで決まっていて、農民というよりジェントルマンのように颯爽としている。躍動するトリオもテンポは上げず、柔和な響きで進行。次の楽章への経過句の部分では、コントラバスの「ゴーッ」と唸る音がくっきりと聞こえるのも発見だ。

第4楽章 4:02
一転して力感を増し、迫力十分の嵐となる。ティンパニは抑え、盛り上げの中心はもっぱら金管だ。それでも音は明るく、フルートやピッコロが華々しく前に出て、お祭りのような賑々しさを加える。特にピッコロはクレシェンドをかけながら音を長く引っ張る。面白い。激しさが一段落すると、オーボエ、クラリネットがぐっとテンポを落としてフィナーレに入っていく。

第5楽章 9:33
感謝のテーマはすごい弱音。その後の展開も、いつもなら唸りを上げるはずのチェロ、コントラバスをぐっと抑えて、ヴァイオリン中心の、明るく牧歌的な響きを創出していく。フィナーレでこれだけ木管を生かした演奏も少ないだろう。細部のちょっとした音の動きが楽しい。ヨッフムとしては意外にテンポの緩急は少なく、ストレートに進行していくが、どちらかというと第1楽章の気分に戻ったみたいで、スケール感や高揚といった要素を求めると物足りなさも残る。トリル変奏も弱音で、ときめきが少ないが、湧き出る泉のようなピチカートは美しい。
しかしコーダ直前のクライマックスでは初めて広大な展望が開ける。祈りの箇所はあっさり流し、締めくくりで思いっきり音を伸ばして大見得を切る。

オイゲン・ヨッフムはベートーヴェン全集をグラモフォン、フィリップス、EMIと3回に渡って録音しているが、「田園」の解釈は基本的に変わっていないようだ。
第1楽章の遅いテンポなど、もしかして高齢が関係しているのかと思ったが、1954年の最初の録音(ベルリン・フィル)もほとんど同じで、時間も10秒しか違わない。50代の頃には完全に自分のものにしていたと思われる。堂々としていながら明るく陽気、そしてお茶目な楽しさに満ちた「田園」である。
ヨッフムはリハーサル好きで、細部まで徹底してやったそうだが、雰囲気はとげとげしくならず、団員たちも自発的に音楽を盛り上げたという。ネコパパが彼の指揮姿を見たのは、1986年の最後の来日公演をTVで見ただけ。曲はブルックナーの第7交響曲で、感動的な演奏だった。
インタビューでは舌を出しておどけながら話すなど、いかにも好々爺、という雰囲気であった。







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コメント

コメント(5)
実際に聴かれたのは?
聴かれたのはドイツ盤LPでしょうか、それとも DiskyのCDでしょうか。
音質は、たぶんそうとうな差があるように想像 ― どちらも聴いていないので ― しますが。

Disky(/Royal Classics)のCDは、EMIと変わらないものもありますが、何か「ビット落ち」したような情報量不足の、のっぺりした音のものもあって、要注意です。
私の経験では、バルビローリのチャイコフスキー、ドヴォルジャーク(以上 Pye原盤)、ブラームス(EMI原盤)のセットがいずれもそうでした。

現在、ヨッフム/ロンドン響のベートーヴェンの、きちんとリマスターされたCDは、ブルックナー、ブラームスなどと一緒の20枚組になってしまい、買って損はないとは思いつつ、躊躇しております;;。

へうたむ

2020/02/19 URL 編集返信

yositaka
Re:実際に聴かれたのは?
へうたむさん
LPの方です。独盤は一応鮮明ですが、SQ4チャンネルのため、若干響きすぎる傾向があります。CDも確認しましたが、大きな違いはありませんでした。
DiskyのRoyal classicsレーベルで出たバルビローリの2セットは私も購入して、確かに薄っぺらい音に感じられました。
このヨッフムのセットは、確かEMIのイアン・ジョーンズがマスタリングしていて、まずまずの出来だと思います。
その後に出たIconの20枚セットは購入せず、音は未確認ですが、このシリーズは他社から再発したものもリマスターしないで出すので、案外Diskyと同じ音かもしれません。

yositaka

2020/02/19 URL 編集返信

HIROちゃんのおすすめはコンセルトヘボウ盤かな~~~
ヨッフムの田園は4種類の音源が手元にあります。1943年6月ライブのハンブルグ歌劇場Oの音源はMEMORIESの海賊盤、録音も悪くおすすめできません。
個人的にはフィリップスに録音したコンセルトヘボウ管弦楽団との録音が良いですね。LPでもCDでも持っていますが、CDは何故か音が高域よりで気に入りませんが、フィリップスのLPレコードは音が抜群。全体的に音の分離が良く、金管楽器の細かな表現が良く聴き取れる録音だと思います、演奏自体はおっしゃる通り、フィリップス盤もDG盤や、EMI盤と演奏時間はほとんど変わらず解釈も同じでしょう。

HIROちゃん

2020/02/21 URL 編集返信

訂正
金管楽器の細かな表現が良く聴き取れる・・・と書きましたが、木管楽器です。もちろん金管もいいですが・・・

HIROちゃん

2020/02/21 URL 編集返信

Re:HIROちゃんのおすすめはコンセルトヘボウ盤かな~~~
HIROちゃんさん
1968年録音のコンセルトヘボウ盤も聴いてみました。オーケストラの響きはロンドン響盤よりも一層なめらかで耳あたりが良く、楽器のバランスにも優れ、木管ばかりではなく、ロンドン響盤では抑え気味に聞こえるチェロやコントラバスも、よりくっきりと聴こえます。音のまろやかさと開放感豊かな演奏が、理想的なバランスを保っています。見事な完成度です。
となると、新盤では、多少バランスを崩しても、ヨッフム自身のやりたいことをより積極的に前面に出して演奏しているようにも聴こえます。後は好みの問題でしょうね。

コンセルトヘボウ盤はCDで聴きました。LPの音が抜群、とおっしゃられると、そちらも欲しくなってしまいますね。困ったなあ。

yositaka

2020/02/22 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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