音楽を楽しむ会・楽器の世界⑦ヴィオラ

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中国発、猛威を振るうコロナウィルスの話題もあり、しかもテーマが地味な楽器、参加者は見込めないか…と心配していましたが30人を超える参加者で、名古屋からネコパパの中学生時代の懐かしい同級生が応援に来てくれました。というわけでネコパパ、いつになく張り切って、ついおしゃべりのし過ぎに…
以下、発表原稿のご紹介です。

豊明市立図書館自主企画 音楽を楽しむ会
2020年第2回 2月8日(土)午前10時~12時(毎月第2土曜日開催

今月のテーマ 楽器の世界⑦ヴィオラ

ヴィオラという楽器、どんな音がするのか、ちょっと思い浮かべてみてください。
案外、むずかしいんじゃないでしょうか。そこでまず、同じ曲でヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの聴き比べをしてみたいと思います。

1.フォーレ 夢のあとに(1865)~ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの聴き比べ

ヴィオラは、実は古い楽器です。ヴァイオリン属が登場する前から、弓で弦を擦って演奏する楽器はあり、「ヴィオラ(イタリア語。フランス語ではヴィオール:Viole)」と呼ばれていたそうです。
その後16世紀にヴァイオリン属がだんだんと生まれてきます。まず「ヴィオラ・ダ・ブラッチョ(腕のヴィオール)」「ヴィオラ・ダ・ガンバ(脚のヴィオール)」に枝分かれし18世紀後半には、ヴァイオリン、チェロ、コントラバス、ヴィオラの4種類に統一されていきました。

ヴィオラの音は、ヴァイオリンとチェロの中間。見た目はヴァイオリンよりもひと回り大きく、50mmほど長め。弦や弓も専用のものを使います。
その役割は長い間、合奏の一員にとどまり、独奏楽器として認められるようになったのは18世紀後半から。本格的にヴィオラ主体の楽曲が作られるのは、20世紀、バルトークやウォルトンが登場してからのことになります。
実は先日、私は名古屋でウォルトンのヴィオラ協奏曲の生演奏を聴く機会がありました。
とても素敵な曲でしたが、オーケストラの楽器がみんなでソロを応援しているような曲のつくりでした。始めから終わりまでずっとソロを弾いているのに、控えめ。この楽器の特徴がにじみ出ていた気がしました。

2.テレマン ヴィオラ協奏曲ト長調(1721)~第4楽章
ステファン・シングルズ(Va)
ネヴィル・マリナー指揮 アカデミー室内管弦楽団1975年録音



まずは、ソロ楽器として使われる先駆けになった曲を聴きましょう。
18世紀ドイツの作曲家テレマンのコンチェルト。史上初のヴィオラ協奏曲といわれています。テレマンは当時ヨーロッパ中に知られた、バッハを凌ぐスター作曲家でした。この曲は1712~21年のハンブルク時代に作曲されたと推定されているとのこと。緩、急、緩、急の4楽章という「教会ソナタ」様式で作られた優美で軽やかな曲です。シングルスのキレのあるヴィオラでお楽しみください。

3.ホフマイスター ヴィオラ協奏曲ニ長調(1780頃)~第3楽章
アンドラ・ダルツィナ(Va)ウルバン・カメラータ 2014年10月録音

次は古典派の曲です。
ドイツの作曲家で、フルーティストとして活躍したホフマイスター(1754-1812)は、モーツァルトと同時代の人で親交もありました。作曲家としてよりも音楽出版者としての業績が大きいかもしれません。ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、などの作品を積極的に出版し、世に広めました。けれどこの曲を聴くと、作曲家としても優秀だったことが分かります。ハイドン風の明朗さの中にも深い情感をたたえて聴きごたえがあります。ヴィオラにとっては最先端の技巧を駆使した難曲といわれているそうです。

4.シューベルト アルペジョーネ・ソナタ(1824 ヴィオラ編曲版)~第1楽章
ユーリ・バシュメット(Va)
ミハイル・ムンチャン(P)1986年3月22日録音



シューベルトが1824年11月にウィーンで作曲した室内楽曲。
アルペジョーネは1823年にシュタウファー(Johann Georg Staufer)により発明された6弦のフレット付き弦楽器。ギターとチェロのハーフみたいな楽器で、復元はされていますが、ほとんど演奏されていません。この曲も今ではチェロがヴィオラで演奏されるのが一般的です。ただ、チェロやヴィオラは、アルペジョーネに比べて音域が狭く、フレットを前提にした高音域も演奏至難とのこと。
それでも頻繁に演奏されるのは、なによりも曲が素晴らしいからでしょう。シューベルトらしいメロディラインが存分に楽しめる傑作です。

5.ベルリオーズ 交響曲「イタリアのハロルド」(1834)~第3楽章 セレナード
ウィリアム・プリムローズ(Va)
シャルル・ミュンシュ指揮 ボストン交響楽団 1958年3月31日録音

もともとは、ストラディヴァリウスによるヴィオラの銘器を入手してご機嫌だったパガニーニが新進気鋭のベルリオーズに依頼した曲。
ところが書き上げた第1楽章をパガニーニに見せると「技巧的な見せ場がない」と不満げです。ベルリオーズが「あなたが求めているヴィオラ協奏曲を書けるのは、あなたしか居ませんよ」と答えると、パガニーニはがっかりして立ち去りました。ベルリオーズはこの曲を「ヴィオラ独奏付き」交響曲として練り直し、完成させました。初演に現れたパガニーニは曲の素晴らしさに感激し、多額の報奨金を支払ったとのこと。ただ、このエピソードを記したベルリオーズの自伝は「ホラ」が多いと定評があるので、信憑性はどうなんでしょう。
タイトルは当時人気だったバイロンの詩「チャイルド・ハロルドの遍歴」に拠るもので、ヴィオラ独奏が主人公を、各楽章が、物語の情景を表すというコンセプト。さすらいの旅に出て、自然を愛し、歴史を省察する孤独なヒーローが描かれます。ただ、詩との関連はあまりなく、受け狙いの表題だったようです。

6.ショスタコーヴィチ ヴィオラ・ソナタ(1975) 作品147~第4楽章より
ユーリ・バシュメット(Va)
スヴャトスラフ・リヒテル(P)1982年9月29日録音)

ショスタコーヴィチの死の直前に作曲された最後の作品で、全体に暗く沈んだ曲想を持ち、自作の断片や他の作曲家の曲を引用するなど、謎に満ちた曲としても知られています。
作曲者の亡くなる4日前に校訂を完了。初演者のフョードル・ドルジーニンとミハイル・ムンチャンは、完成前から初演に向けて練習を始めていました。
作曲者はドルジーニンに、「第1楽章は短編小説。第2楽章はスケルツォ、第3楽章はベートーヴェン追悼のオマージュとなるが、あまり惑わされないように」と電話で話していたそうです。
ショスタコーヴィチの没後に行われた初演の模様を、ドルジーニンは以下のように述べています。「音楽は催眠術のような強い作用を聴衆に及ぼした。ショスタコーヴィチの席には花束が置かれ、すぐ近くの席には親友だった指揮者エフゲニー・ムラヴィンスキーが、私の妻と並んで座っていた。ムラヴィンスキーはまるで子供のように、止めどなく涙を流し、ソナタが終わりに近づくにつれて、慟哭に身を震わせていた。演奏を終えたとき、私は、ソナタの楽譜を頭上に高く掲げた。聴衆の喝采を残らずその作曲者に捧げるために。」
第3楽章 Adagioは、べートーヴェンのピアノソナタ第14番『月光』からの引用と思われる音形が現れ、この楽章を支配する。演奏時間15分に及ぶ、静かな長いアダージョの最後の部分をお聴きください。

■蓄音機コーナー ライオネル・ターティスの芸術■

7.ブラームス ヴィオラ・ソナタ第1番(1894)より 録音: 17 February 1933
8.ディーリアス セレナード~劇音楽「ハッサン」(1923)より 録音: 7 October 1929

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ライオネル・ターティス(Lionel Tertis CBE, 1876年12月29日 - 1975年2月22日)は、イギリスのヴィオラ奏者。パウル・ヒンデミットやウィリアム・プリムローズらとともにヴィオラの独奏楽器としての地位の確立に貢献しました。ターティスは大きめのヴィオラを使用して、ヴィオラ特有の豊かな音(特にC線)の魅力を表現しました。ターティスらの登場により、ヴィオラの独奏楽器としての魅力が発見され、多くの曲が作られるようになりました。ウォルトンのヴィオラ協奏曲、バックスのヴィオラソナタ、ヴォーン・ウィリアムズの『野の花』、ホルストの『抒情的断章』などが、ターティスのために作られた曲です。ポピュラーな小品を多数編曲してレコード録音を行ったこともターティスの功績です。



9.モーツァルト ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲^変ホ長調k364(1779)
ギドン・クレーメル(Vn) キム・カシュカシャン(Va)
ニコラウス・アーノンクール指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 
1984年12月収録 ムジークフェラインザール。ウィーン



モーツァルトが「協奏交響曲」というジャンルに興味を持って作曲したといわれる作品。ヴィオラの協奏曲としてもっともポピュラーなのは、これでしょう。協奏交響曲は、複数の独奏楽器がオーケストラと共に曲を作り上げている楽曲で、独奏楽器とオーケストラとの協調が重視されます。『ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲』は、1779年にザルツブルグにて作曲。大きな特徴は、ヴィオラに、通常よりも半音高い調弦を施すことでヴァイオリンと互角の、より力強い音を引き出していること、それに第2楽章が哀愁に満ちた短調のメロディーに彩られていることでしょう。
ヴィオラのソロ曲は1曲も作らなかったモーツァルトですが、自身でも好んで弾き、のちにはヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲や、弦楽四重奏にヴィオラを追加した弦楽五重奏曲も作曲していて、楽器の魅力には早くから気づいていたようです。この曲は、ヴィオラの魅力を最大限に発揮するという点でも唯一無二の傑作と言えるでしょう。

10 リスト:愛の夢第3番(ターティス編)
ライオネル・ターティス(Va)1926年録音

最後にターティスがヴィオラ普及を願って編曲録音した多くのポピュラー小品の中から一曲。カザルスも同じようにしてチェロの魅力を世に知らしめたのですが、ヴィオラの場合はなかなかうまくいかなかったようです。けれどじっくり聴いてみるとこれはこれで独特の、渋い味わいがあります。今回はヴィオラの魅力をあらためて見直す機会になりました。

次回はこれです。

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コメント

コメント(6)
曲・演奏家次第のヴィオラ独奏
私は、ヴィオラ音域が高音域のヴァイオリンと中低域のチェロと重なり演奏に厚みを加える控えめで地味な楽器だなと思っていました。
しかし、プリムローズ、ターティスの演奏とネコパパさん選曲の明るい軽快な曲を聴き、「良くも、悪くも」曲・演奏家次第ですね~。
・モーツァルト「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲」は、目を閉じると「ヴァイオリンとヴィオラ」が1体の楽器として聴こえました。
・「ショスタコーヴィチ」…演奏は、良いのですが煩悩の多い私には…

チャラン

2020/02/09 URL 編集返信

こんにちは
私もそれまであまり意識しなかったヴィオラの素晴らしさを思い知ったのはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲でした。
それまでベートーヴェンはじめ四重奏曲を聴いてきたのに、その時ほどヴィオラの存在感と素晴らしさに気付きませんでした。
確かにチャラン様のコメントに記されておられます通りの演奏家次第なのかも知れませんね。
とてもヴィオラについて勉強になりました、ありがとうございます。

よしな

2020/02/09 URL 編集返信

Re:曲・演奏家次第のヴィオラ独奏
チャランさん
「良くも、悪くも」曲・演奏家次第、全くです。ネコパパもヴィオラには不案内でしたので、あらためて良さを見直す絶好の機会になりました。ターティスの味のある演奏も楽しめたし、ホフマイスターがあんなに素晴らしい曲を書いていたというのも驚きでした。
YouTubeを検索していいのがあったらリンクしようと思ったのですが、曲自体は出てきても、アンドラ・ダルツィナのCDには到底及ばないのでやめました。やはり音楽と演奏は一体ですね。
モーツァルトの映像作品も、アーリンクールとクレーメルの風貌はおいといて、見ごたえがありました。聴衆がいなくても、フィナーレになると熱気を帯びてくるのがふたりの表情からもわかります。フィルム収録はたしか15分しか続けて取れないので音声は別録りするしかなかったようですが、一気に演奏したように見えました。

yositaka

2020/02/09 URL 編集返信

Re:こんにちは
よしなさん
ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲といえば、凄い曲ばかりでよほど体調が良くないと聴けないんですが、そんなにヴィオラって目立っていましたか?確かにベートーヴェンと違って、四つの楽器が対等に主張する。
しかも、高音域の活躍が著しいですよね。
一度、ヴィオラを意識して聴き直してみなければ…
うちにはボロディン四重奏団のメロディア盤全集があるのですが、同じ団体が第8番だけをデッカに別録音したものがあって、そちらの方をよく聴くんです。

yositaka

2020/02/09 URL 編集返信

ショスタコーヴィチのヴィオラ・ソナタ
バシュメットのショスタコーヴィチのヴィオラ・ソナタの盤を私は持っています。
ラジオで聴いて(これはカッコいい、良い曲だ!)と思い、すぐに購入しました。
ショスタコーヴィチの曲は(なんじゃこりゃぁ?)というふざけた曲調のものが多い気がしてあまり好きではないのですが、この曲は別です。

不二家憩希

2020/02/10 URL 編集返信

yositaka
Re:ショスタコーヴィチのヴィオラ・ソナタ
不二家憩希さん
ショスタコーヴィチの晩年の曲は共通の雰囲気を持っていて、ヴァイオリン・ソナタや交響曲第15番にも同じように達観したようで、どこか軽みのある趣が味わい深いと思います。
「ふざけた曲調のもの」というのは、交響曲第6番のフィナーレや交響曲第9番、それに祝典序曲、ジャズ組曲などに感じられますね。
一般にはシリアスで暗く、絶叫する音楽というイメージですが、実際には多彩な作風の持ち主です。
私もそんなに度々聴くわけではありませし「好き」とまでは言えませんが、近頃は「すごい人」という印象を強めています。

yositaka

2020/02/11 URL 編集返信

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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