アーサー・ビナード氏は語る①「生き延びるための絵本」

1月19日。四日市の子どもの本専門店「メリーゴーランド」で、アーサー・ビナードさんのお話を拝聴しました。
日本在住のアメリカ人。日本語で詩を書き、絵本を作り、社会情勢にも鋭い視点で意見を述べる。文学者は世の中のご意見番でなくてはならない、という「文士の矜持」がびしびし伝わるお話でした。そんなビナードさんが、今回は「紙芝居」に挑戦するとのこと。

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というわけで、以下はネコパパのメモからご紹介します。

2020-01-25 (1)

僕を紹介するときに「日本人より日本語ができる」とよくいわれますが、それはもうやめたいですね。日本語はみんなのものです。英語、日本語、お互いに「ない」ところを見つけたい。
赤ちゃんが生まれた時の「オギャー」という声。英語にはありません。1歳でも2歳でもなく声は同じ。日本語を英語にするときは困る。英語じゃなくても「産声」はヨーロッパの言語にはないようです。
最近、ルイ・アームストロングの「この素晴らしき世界」を歌える日本語にしました。原文に負けない日本語を目指したけれど、3番は英語を超えた。「オギャー」があったから。
さて、これから出す絵本は「オギャー」がたくさんでてきますよ。
近刊の『そもそもオリンピック』。絵はスズキコージ。縄文時代から始まるオリンピックの起源を語る絵本です。
語り手は風。「オギャー」は何回も出ます。
物語ることを言葉の発展につなげるのは、僕の死活問題だ。それくらい、言葉の今は楽観できないと思います。

■「キナクサ」さを見抜きたい

ホテルで無料で置いてある新聞を見たら、一面にCECシステムという言葉の頻出する「日米安保60年」の記事がありました。CEC、ペテン用語です。意味説明できますか。庶民をだますときには英語三文字を並べる。僕は三文字未熟語と呼んでいます。
例えばTPPの意味、すっと言える人おられますか。
「環太平洋なんとか…」と言われると、日本人は黙ってしまいますが、違います。僕に言わせれば「とんでもない、ペテン、パートナーシップ」です。
CECは、Cooperative Engagement Capabilityは、直訳すると「日米共同交戦能力」記事では、これによって今までの戦闘は時代遅れになると言っています。
大切な日本語がまた廃棄される。
「交戦」という言葉があっさり新聞記事になる。憲法9条で禁止されていますよね。「国の交戦権はこれを認めない」。この記事は憲法違反の内容を堂々と一面に載せています。こういうことが言葉の意味がなくなる危機を導く。新聞というのは普通、国民に抵抗のある記事は出せません。公平中立が建前ですから。きっと30年前なら出せなかった。これが今は堂々出せる。ということは、国民の歯止めが利かなくなってきたことを意味しています。これこそ危機なのです。
「昨今のトランプ大統領の言動が心配」とみんな言います。確かに心配。僕のケータイにも「心配」メールがいっぱい来ます。「トランプはキナクサイ」と。
ところが僕はあまり心配していなかった。そういうことで戦争が起こることは、多分ない。キナクサイのはむしろ、この記事の方です。大きく報道されるニュースより現実に密かに進行している利権闘争の方がずっとキナクサイ。「中国の野望」なんていうけれど、東京は今や中国人でいっぱい。中国は戦争を仕掛けるより、日本企業や利権を「買う」ほうに国益があることをよく知っています。実情を隠して国民の目をそらすのが「永田町の野望」です。見抜かなければいけない。

3年前、僕は「東京オリンピックは直前中止」を予言しました。
理由は、福島原発対応が致命的だから。東京オリンピックは「国民の思考停止に必要な要道まやかしの祭典」。僕の予言はまだ有効です。マラソンが札幌になったから、実質的中したと言えるかも。
今になってこんな「全員団結」のメッセージも出ました。
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普通に読んだだけでも、凄いですね。
なんだか怖い。参加といっても選手として参加するんじゃないですよ。ボランティアの動員です。オリンピックはボランティアなしでは開催できない。ところが、予想したほど集まっていない。それでこんな呼びかけです。集まらなければ開催できないから。それほど無料で働く人に依存しているのがオリンピック。
僕にはこれが、大戦中の町内防火訓練や学校の竹槍訓練と同じように見える。戦争プロパガンダの背後には大本営がありましたが、今はその末裔である「広告代理店」がこのような宣伝活動をやっているのです。

誤解のないように言いますが、僕はスポーツを全く否定していません。
アスリートの意義も、大いに認めます。でも、今のオリンピックは、スポーツとは無関係と思います。福島や憲法問題から国民の目をそらす誰かの「野望の道具」になっているからです。
僕の考える最悪のシナリオは、オリンピック「成功」で国民の気分を盛り上げておき年内改憲。そして基本的人権の終わり。
僕がこれを話している根拠は、憲法第21条です。
毎日読み返しています。今こういう「アジト」みたいな場所で、自由にしゃべっていますが、80年前なら逮捕されたでしょう。それくらい大切な憲法ですが、自民党は「改正の主役はあなたです」と盛んに宣伝しています。若い人達の思考停止状態を考えると、心配です。そのスローガンの本当の意味は「改正までに、主役を捨てるのを選ぶのは、あなたです」。改正の翌日から主権者ではなくなるのですからね。
そうなったら僕は、箱に詰めてもらって出国します。
ゴーンさんという人が、いい脱出方法を教えてくれたから。ただし、お金がいるけれど。

それでも僕はこの世界を生き延びたい。
方法はあります。それを考えて、僕は絵本をつくっている。
次は、自分が語る「物語」と「生き延びる」こととの関係について、話したいと思います。

■生き延びるための絵本づくり

初めて手掛けた絵本は美術の絵本。「空気を描いた絵」を探しました。生きていくために必要なものは多いけれど、常に必要と言えば空気しかない。熊谷守一さんとの『くうきのかお』です。

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この絵本でつかんだことは、表現者が死んでしまっても絵本の中では繋がることも、一緒に話すことも可能だという実感。
この本を見たひとりの編集者が、ベン・シャーンの絵をたくさん持ってきて「これで絵本が作れないか?」と持ちかけてきた。ベン・シャーンにはあったことがなかったけれど、父は彼のファンだったので、目にする機会はたくさんありました。
持ち込まれたのは「第五福竜丸」を描く50枚の連作。アメリカでは本にもなっていなかった。これに文章を付けて出来上がったのが『ここが家だ』です。

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日本では第五福竜丸の乗組員は水爆実験の「被害者」とされることが多いですが、そうではない。彼らは「英雄」なのです。アメリカ側から見れば軍事機密を目撃し証拠品(死の灰)までも持ち帰った。見つかれば撃沈のおそれもあった事態、彼らはどこにも寄港せず、外部に無線連絡もせず、静かに生き延びて母港に戻り、世界に事実を伝え、核の歯止めになった。これから日本は「被爆労働」の国になると予想される。今こそ彼らの実績を見つめなおすときと思います。
次に僕は内部被ばくについて知るために広島を訪れました。そこで出会ったのは今も残る被爆の実態を語る「もの」たちです。そこから僕は「モノが先にある絵本」ができるのではと思い立ち、出版社を説得して絵本化にこぎつけました。それが『さがしています』。

 (2)

この絵本を作りながら、広島に通うだけではだめだとわかり、僕は広島に住みつきます。その広島で聞いた原爆ドームの「語り」をもとに作った絵本が『ドームがたり』です。
スズキコージさんに絵をお願いしたところ、驚くほどのスピードで仕上げていただきました。

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そして僕は、絵本とは違う、日本にしかないすごいメディアに出会うことになります。それが紙芝居でした。






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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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