曲への違和感が洗い流されていく…現田茂夫のマーラー

2020年最初のコンサート鑑賞。演目は渋いが、会場はいつものようにほぼ満席である。

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ヴィオラのソロ、各楽器の音が鮮明に聞きたいと思ったので、二階右翼バルコニー席を選んで拝聴した。ここはステージ全体は見渡せないが、指揮者、ソリストの所作は見やすく、なにより音の粒立ちがいい。中央マイクもほぼこの高さに合わせている。

最初にウォルトンのヴィオラ協奏曲。新古典主義の書法できっちりと書かれた、沈鬱な情感の漂う音楽だ。ヴィオラという楽器をソロ楽器として確立させたライオネル・ターティスのために書かれたが、彼は初演を断り、代わりに立ったのがパウル・ヒンデミットだった。この作曲家、実はヴィオラの名手だったのだ。

聴いてみると、ヴィオラソロというのは困難が多い楽器であることがわかる。
高い音、低い音のどちらもが際立たない代わりに、ファゴット、クラリネット、オーボエのソロがかなり前面に出て音彩を加え、そういう場合はヴィオラは伴奏に回ることが多い。ここぞという盛り上げはオーケストラのトゥッティが担う。ヴィオラはずっと弾いているのだが、モノローグという感じである。技巧的なカデンツァもないので「花形楽器」としての存在感はどうしても薄くなる。音楽全体の印象は、無駄なく凝縮された音列の中に、苦い哀愁の漂う「男の音楽」である。

休憩を挟んで、いよいよメイン曲のマーラーが演奏される。
交響曲第9番はふたつの緩徐楽章が、やや小ぶりで早いふたつの中間楽章を挟み込むかたちで作られた作品。マーラーの集大成的傑作とか、人生への今生の別れとか評されている。ただ、そう思って聞くと、軽快さ、皮肉、焦燥の入り混じった中間楽章と両端楽章のギャップに違和感が湧き、全曲の気分が一貫しない難がある。そんなわけでこの曲、ネコパパの愛聴曲にはなっていない。
でも今回の演奏は愉しかった。
指揮者の現田茂夫は速めのテンポでどんどん進め、フレーズの扱いも短くきりっと引き締めていく。それでいて各楽器の動きはすこぶる鮮明で、個々の楽器のソロ的な動きがくっきりと浮かび上がる。両端楽章で過度な感情移入を避け、中間楽章をリズミカルに躍動させることで統一感を生んでいるのも良く、違和感が洗い流されていく気分だ。マーラー風「ボヘミア狂詩曲第1番、第2番」という言葉がぴったりな気がする。
ただ、そう感じてしまうと終楽章では、これまで思っていたような「生への決別と慟哭」のイメージはすっかり削ぎ落とされ、単に「アダージョによる結尾」としか言いようがなくなる。最後の「悔いを残す」ような終わり方も「一度、こういう終わり方をやってみたかったんだ」と、すっきりした後味である。
そこに本来のマーラーがいるのかどうかは、議論がありそうだが…

それにしても上手いなあ、名古屋市民管弦楽団。
木管金管の安定度は言わずもがな、今回は何よりも両翼配置を取ったヴァイオリンの強靭さに舌を巻いた。アマチュアは弦楽器がか細くて…などという先入観をぶち壊す。片山杜秀氏のいう「アマオケの時代」を象徴するような存在である。次回は7月。チャイコフスキーの交響曲第5番を取り上げるそうだ。期待に胸が高まる。

■ネコパパのレコード棚から

ウォルトン ヴィオラ協奏曲

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ウィリアム・プリムローズ(Va) 
マルコム・サージェント指揮ロイヤル・フィルハーモ管弦楽団
米Odyssey LP  R. 1954

マーラー 交響曲第9番
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ブルーノ・ワルター指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
日ANGEL LP  英DUTTON CD  R.1938(Live)

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エリアフ・インバル指揮フランクフルト放送交響楽団
日DENON   CD R.1986年9月24~7日

 (2)
レナード・バーンスタイン指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
日DGG CD(Live) R.1985年5、6月

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マリス・ヤンソンス指揮バイエルン放送交響楽団
独BR CLASSICS SACD (Live)R.2016年10月20,21日



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コメント

コメント(4)
マーラーのトライアングル
名古屋市民管弦楽団、全員で練習する機会が困難せいか立ち上りに、不安を感じましたが、演奏中に修正して第3楽章では見事に合わせにくいヴィオラ独奏と調和していました。
「マーラー」で楽団員が入場された時、コントラバス8人チェロ10人>第1ヴァイオリン14人の構成に「オー」・・・期待しました。
立ち上りは、ステージ前の1階席に音が籠っているようでしたが次第にホール
全体に響く?演奏になり中でもトライアングルの凛とした鳴りは、私には今回の演奏で1番印象に残りました。
楽団員の皆さんのレベルは、高いですね。

チャラン

2020/01/26 URL 編集返信

yositaka
Re:マーラーのトライアングル
チャランさん
やあ、お聴きでしたか。今回のような渋いプログラムであれだけの集客は凄いですね。特に1階は、人がぎっしりでした。
芸文コンサートホールの1階、特に後方はこの会場の特色である2秒残響が効いて、ふっくらと豊かなサウンドが楽しめます。まさにご感想どおりだと思います。
一方、2階バルコニーは、混じりけなく音が飛んでくる。まさにデッカサウンドです。なので、演奏が不調の時はかなり苦しいですが、このオーケストラくらいの技量があれば、ここも楽しめますよ。ぜひ一度お試しください。

yositaka

2020/01/26 URL 編集返信

かなりのアマオケですね
マーラーの9番とは素晴らしい。
選曲からでも実力わかります。
かなりのアマオケですね。
しばらく聴いていませんでした。
バルビ節聴こうかしら。

シュレーゲル雨蛙

2020/01/27 URL 編集返信

yositaka
Re:かなりのアマオケですね
シュレーゲル雨蛙さん
実力のあるオーケストラで、技術的なレベルはプロ団体を聴く時と変わらず、入団の際にも厳しいオーディションがあるとのことです。当地のアマオケも、技量の向上には目覚しいものがありますが、ここはやはり飛び抜けていますね。
マーラーの9番はバルビローリもありました。ベルリン・フィルの団員がことのほか愛着を持っていたといいます。家にもたしか古いCDが…聴いてみましょう。

yositaka

2020/01/28 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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