メルヘンハウス二代目店主・三輪丈太郎さんのお話②

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休憩を挟んで後半は参加者・主催者との質疑応答を中心に、リラックスした雰囲気で進められました。田島征三の絵本「しばてん」への思い、二代目を引き継いだ決意についての詳しい経緯、新生「メルヘンハウス」に託した願い…ネコパパは深い感銘とともに拝聴しました。
以下、殴り書きのメモをアレンジしてご紹介します。自分なりの受け止めです。

■「フラットに、淡々と読む」ことについて

ー読み聞かせ活動を50年も続けておられる方から「気持ちを込めて読むのはいけないのか」というご質問をいただいたのですが、読み聞かせは自由な行為だと思います。
方法論もいろいろありますし、本の種類によって読み方が変わってくるのも当然です。私のやり方はひとつの方法で、いろいろな人がいろいろな方法でやっていけばいいのだと思います。

今では、読み聞かせの資格まであるんです。持ち方がこうで、始め方とか、作者名は必ず読むとか。いろいろなメソッドがある。
でも俺は…無資格ですし、お母さんだってそうです。
それに、学校用語の「読み聞かせ」というのは、意味が変わっている。絵本は、本来は大勢に向けて読むようにつくられていません。

それどころか、学校現場はどんどん変わっています。教科書をタブレット化するとか、自然観察はタブレットで撮影したものを教室でプレゼンするとか。教科書が本でなくなる。「ものを持たない」社会に進んでいく。
でもそのシンプルは、いいシンプルじゃないと思います。

■田島征三さんについて

ー「メルヘンハウス」在りし日には、作家別の棚を作っていました。
長新太の棚とか、五味太郎の棚とか。田島さんの棚もありました。征三さんの本をずらりと並べて、兄の征彦さんの本も少しだけ。(笑
すると、近頃の子どもはポップな絵が好きなので、田島さんの棚はちょっと近寄りがたく、入っていけない様子なんですね。
エネルギーが出すぎている。

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それでも今日、僕が選び、持ってきた田島征三の「しばてん」は、みなさんに届けたい本です。
反骨で生きている僕にとっては、売れないけれど、売りたい本なのです。
田島征三が卒業制作としてつくり、本にできるように描き直し、断られ続けた末に出生作となったこの絵本、決して「受ける」本ではないし、わかりやすくもない。
けれど、僕にとっては大いに引っかかる。ずっと読み続けてきて、最近は自分なりの解釈もようやく出来てきた気もしますが、それは離せない。
読んでみて、読み手が自分で考えなければいけないと思います。余白は読者が埋めていくものです。

■「メルヘンハウス」を引き継いだ経緯について

ー引き継ぐことは、自分で決めました。
僕はいま44歳ですが、37歳のとき、大きな病気をしました。
半年の治療が必要と医者に言われたのです。
「もしその治療をしなかったら」と聞くと「やらなければ死にます」と言われました。
生まれて初めて僕は死に直面しました。それまでは生きていることが当然で、自分が死ぬなんて本当には考えたことがなかったことに気がつきました。
その半年間は、外出は禁止です。家と病院を往復するだけの生活。することがないので家業を手伝いました。月ぎめで本を配送する「ブッククラブ」の仕事です。
すると、店の様子も自然に見るようになります。
僕は、そこで父、三輪哲の本当の姿を見た。
中日ドラゴンズの大ファンで、家にいるときはいつも試合の放送に熱中し、勝敗に一喜一憂、家族に対する態度まで変わってしまう…そんな普通の親父でしたが、
店で子どもに本を読み聞かせている「本気の姿」を毎日見ているうちに、深い感動に襲われたのです。

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そんなとき、僕をお見舞いに来てくれた、尊敬するDJが言いました。
「DJにもいいのと悪いのがいる。自分が聞いて欲しい曲ばかり選んで聞かせるDJは駄目なやつだが、俺はいいDJだから、お客さんが必要としている曲を選ぶんだ。お前の親父は、目の前の人が必要としている本を見抜いて、それを手渡すことができる、いいDJだ」
それまで僕は、人が作ったものを売る仕事なんて、ださいと思う気持ちがどこかにあったのです。
でもそれは間違っていた。
ベーシストとして生きるのと同じように、僕は「いい本のDJ」として生きることができるのではないかと思ったのです。
でも、先程もお話したように、そう決心した時には、既に「メルヘンハウス」の経営は困難なところまで来ていました。

■「新しいメルヘンハウス」への信条について

ー2018年の閉店は正しかったと思います。リセットは必要でした。
でも、それからの僕の活動については、いろいろな意見を頂戴しました。
厳しいご意見もあります。
ただ、思うのは絵本は一つのアートであり、商品でもありますが、決して一部のマニアだけのものではないということです。
みなさんも仰るように、本当のターゲットはこういう場所に来ない、来られない人たちです。
例えば一つの現実、私の妻は「はらぺこあおむし」を知りませんでした。

「新しいメルヘンハウス」は、間口を広く、敷居も低くがモットーです。子どもからシニアまで、誰もが入ることのできる場所です。
なので僕は、お話をするときに「ご存知のとおり」という言葉は、使わないようにしています。
僕の仕事は「ユーザーからメンバーになるような場所」を作ることだと思っています。
とても難しいことですが、一歩一歩、取り組んでいくつもりです。

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コメント

コメント(4)
NHKラジオ”ラジオ深夜便”で作家の那須正幹さんのインタビューが放送されました。
聞き逃しサービスで10月30日(水) 午後6:00まで聞くことが出来ます。
https://www.nhk.or.jp/shinyabin/k1.html
4時台「明日へのことば」です。

不二家憩希

2019/10/24 URL 編集返信

ふむふむ。
そう・・・読み聞かせは人それぞれ。
私は「聞かせる」より「伝えたい」
というキモチを持っていますが、
「一緒に分かち合う」って、忘れがち。
とても大事ですね。

でも・・・。
お母さんが子供に読んだり語る話は、
(特に昭和の私の時代は)
余計なことは何も考えず、
ただ、子を寝かせるため^^)
そんな感じでいいのだと思います。
それが一番なのだとも。











ユキ

2019/10/24 URL 編集返信

yositaka
NHKだからこそできる番組ですね
不二家憩希さん
情報ありがとうございます。
予約エアチェックしましたので、多分聞けると思います。
聞き逃しサービスにも入っているんですね。このサービス、残念ながら全ての番組にあるわけではないので、あまり当てにできません。蓄音機関係の番組も、入っていませんし…
NHKにはもうひと踏ん張りして欲しいと思っています。思ってるだけじゃなくて、要望出せばいいんですね。

yositaka

2019/10/24 URL 編集返信

yositaka
それぞれ個性が
ユキさん
私も自分の子どもには随分読みました。確かに寝かせるためもあったと思いますが、孫娘などは本気で聞くためか、絵本は寝ませんね。読み聞かせする側にも、される側にも、それぞれ個性があります。それが面白いのです。

ただ、エキスパートの方法論も大切だと思います。本に親しんでいない子どもにとっては、一期一会の機会かもしれませんからね。私も教師の立場で読むときには、惹き付ける工夫をします。

yositaka

2019/10/24 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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