ネコパパの無駄遣い日記ーブルーノ・ワルターの遺産/ターラ編

フランスの歴史的音源復刻レーベル「TAHRA」は、社主のルネ・トレミヌが2014年に急逝してまもなく活動を停止した。
フルトヴェングラー、ワルター、クナッパーツブッシュ、シェルヘンらの放送録音を、正規音源、またはそれに近い音源にアクセスして次々にCDを発売していたレーベルだっただけに、この手の録音の好きな人には痛手だったことだろう。
ネコパパもそのひとりだ。

しかし、こういう音源を決して見逃さないのが日本のレコード会社、キングレコードである。さっそくTAHRAの版権を取得し、2017年から国内盤としてリリース開始。現在は同社の総合的な音響施設である関口台スタジオにマスターテープを持ち込み、リマスタリング再発を続けている。
その再発盤のひとつを最近入手した。
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なぜこれが無駄遣いなのかというと、6枚中4枚は既に仏TAHRA盤を架蔵しているからだ。
それを敢えて入手したのは、某オクで定価の半額程度で落とせそうだったことと(実際落とせた)、音質改善への期待である。
というのは仏TAHRA盤、同じ復刻専門レーベルでも、ノイズ除去過激で音が霞がちな某社などと比べ、音に芯があり、信頼感はある一方、どこか味気なく頻繁に鑑賞しようという気になれないところがあった。音が蛋白で痩せた感じがあるのだ。マスタリングのほとんどはチャールズ・エディという人が担当しているが、彼の趣味なのかもしれない。

で、聴いてみた感想である。
確かに音が違う。音量レベルが上がり、情報量が増えた感じである。一枚目の1950年ベルリン録音は、LP時代から米ディスココープ(米ワルター協会、のちM&A)盤で出ていておなじみだが、仏TAHRA盤で出た時もそれほど改善を感じなかった。でも新盤ではわずかに音がリアルになり、演奏の特徴がわかりやすくなったように思える。

3枚目のニューヨーク録音。「ハフナー」は1枚目のベルリン盤同様、M&A原盤のキング盤CDで初めて聴いて、勢いのある演奏に感銘を受けたが、正規盤の仏TAHRA盤で聴いたときはそれほどでもなかった。音質はあきらかにTAHRAのほうがクリアーなのに、細身でクールに聴こえるのである。同じ日のマーラーの4番になると、ウィーン・フィルやフランス国立放送管弦楽団との録音の印象が強いせいか、ほとんど記憶にも残らないくらいだったのに、これが見違えるように音彩が鮮やかで、聴き始めるとやめられなくなってしまった。

5枚目には同じマーラーの4番がウィーン・フィルの演奏で収録されている。これは初めヴァレーズサラバンド原盤のビクター盤、次にORF提供として独オルフェオ盤がCD化されていた。演奏はともかく、レベルオーバーで高音部の歪が大きく聴きづらい録音である。
それだけに、初発のビクター盤からかなり経って登場したオルフェオ盤に期待したのだが、ビクター盤よりもいっそう歪が目立つ、きつい音で、大いに落胆した。
今回のものも音源は同じで、歪はやはり、ある。が、どこをどう加工したのか、あまり耳に付かないよう押さえ込まれ、全体の鮮度も向上しているように思う。

今回初めて聴く1947年録音のマーラー「巨人」は、アムステルダム・コンセルトヘボウとの貴重なライヴ。戦前のメンゲルベルクとの録音があれほど高水準だったオランダ放送局の録音だが、戦後から50年代にかけてはすっかり音が貧しくなってしまった。機材が老朽化し、テープ録音の導入も遅れたためらしい。このワルターの録音もぼんやりと霞んだ、頼りない音で始まるので「やっぱり」と思ったのだが、少し聴き進むとほとんど気にならなくなり、オーケストラがあの独特のいい音色でワルターの棒に共感し、熱演している有様が伝わって来るのである。

以上のネコパパの感想はあくまで主観的なもの。もともとが古い歴史的音源で、物理的にはあるかなきかの違いでしかないだろう。それでも、製作工程に別の人間が関わり、別の機器を通すことで、聴き手の耳はあらたなものを捉えることができる。
無駄遣いの言い訳のようだが、これは買って正解だった。


ブルーノ・ワルターの遺産~ターラ編(6CD)
【収録情報】
Disc1 原盤:仏ターラ(TAH452)(P)2002
● モーツァルト:交響曲第40番ト短調 K.550
● ブラームス:交響曲第2番ニ長調 op.73

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ブルーノ・ワルター(指揮)

録音:1950年9月25日 ティタニア・パラスト、ベルリン(ライヴ)
Disc2 原盤:仏ターラ(TAH504)(P)2003
『アムステルダムのブルーノ・ワルター』
1. ブラームス:運命の歌 op.54
2. マーラー:交響曲第1番ニ長調『巨人』

アムステルダム・トーンクンスト合唱団 (1)
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
ブルーノ・ワルター(指揮)

録音:1947年10月22日(1)、1947年10月16日(2) コンセルトヘボウ、アムステルダム(ライヴ)
Disc3 原盤:仏ターラ(TAH524)(P)2004
1. モーツァルト:交響曲第35番ニ長調 K.385『ハフナー』
2. マーラー:交響曲第4番ト長調

イルムガルト・ゼーフリート(ソプラノ:2)
ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団
ブルーノ・ワルター(指揮)

録音:1953年1月4日 カーネギー・ホール、ニューヨーク(ライヴ)
Disc4 原盤:仏ターラ(TAH571)(P)2005
● ブルックナー:交響曲第9番ニ短調(原典版)

ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団
ブルーノ・ワルター(指揮)

録音:1953年12月27日 カーネギー・ホール、ニューヨーク(ライヴ)
Disc5 原盤:仏ターラ(TAH572)(P)2005
● マーラー:交響曲第4番ト長調

イルムガルト・ゼーフリート (ソプラノ)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ブルーノ・ワルター(指揮)

録音:1950年8月24日 旧祝祭劇場、ザルツブルク(ライヴ)
Disc6 原盤:仏ターラ(TAH620)(P)2007
『ローマのブルーノ・ワルター』
1. モーツァルト:交響曲第40番ト短調 K.550
2. ベートーヴェン:交響曲第7番イ長調 op.92

ローマ・イタリア放送交響楽団(ローマRAI管弦楽団)
ブルーノ・ワルター(指揮)

録音:1952年4月19日(1)、1954年5月18日(2) ローマ(ライヴ)

キング関口台スタジオの内部
キング関口台スタジオ
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コメント

コメント(11)
何ともじっとして居られぬ情報ですな。
特にベルリンのK550。
此れは私の大好物です。冒頭の繋ぎは如何でしょうか?
事と次第に依っては…

quontz

2019/08/27 URL 編集返信

ターラレベル活動停止していたんですか。
インディレーベルの創業者オーナー社長が亡くなれば、即終了なのでしょうね。
でも、それを逃さず復活させる日本のレコード会社は良い仕事してますね。
ターラは良いカタログを持っているので世界中のファンも安堵していることでしょう。
ヴァレーズ・サラバンドはクラシックの盤も出しているんですね。知りませんでした。私はこのレーベルのシャーロック・ホームズのTVドラマのサントラ盤は愛聴盤です。

不二家憩希

2019/08/27 URL 編集返信

yositaka
繋ぎがない音源です
quontzさん

これは冒頭の音の繋ぎがない音源です。
浩瀚なワルターサイトを運営するDANNOさんによれば、BPOとの40番は2種類の別テイクがあり、
以前ラウディス原盤で出回ったRVC盤と、日本コロムビア・キングが音源としていた米ワルター協会・M&A盤(冒頭に変調があるもの)は別物のようです。
くわしくはこちらをどうぞ。
http://www1.s2.starcat.ne.jp/danno/ber_1950.htm

実は私はラウディスLPを初めて聴いたときから、何か違和感があったのです。DANNOさんの検証によれば、このときの録音はブラームス2番以外はどれも2種類の録音があるとのこと。コンプリート収録の「完全版」が出て欲しいです。

yositaka

2019/08/27 URL 編集返信

yositaka
まだまだ謎が
不二家憩希さん
キングレコードは昔から歴史的音源の発売には積極的で、キャビア、アフェットなど実態不明の音源からもどしどし発売し、ときには顰蹙も買っていました。
当時の社員はほとんど退職しているのに、そういう社風が受け継がれているのが面白いと思います。
現在はターラもやらなかった重量盤LP化も行い、高価格で売り出しています。

ヴァレーズ・サラバンド原盤のマーラーは、アメリカのマイナーレーベル「レミントン」がザルツブルクに機材を持ち込んで録音したものという記載がありました。
オルフェオ盤はこれとは出自が違う放送局ルートなのに、なぜか同一の音源です。
BPO音源の問題も含め、この種の録音には謎が多くて困ります。

yositaka

2019/08/27 URL 編集返信

聞きたい音源もあるのですが、高価格がネックになっています。重量級のレコードでなくても(ペラペラの)音の良いレコードはいっぱいあるのに残念です。
ある程度高くなるのは仕方ないのですけどね~
エンジニアが変われば音が変わるのは当然かと。

マント・ケヌーマー

2019/08/31 URL 編集返信

yositaka
国内復刻盤LPはたしかに高価ですけれど
マント・ケヌーマーさん
お久しぶりです!
昔と違って、現在の流通事情だとよほどの枚数を稼げない限り、国内盤として昔の値段で出すことは難しいということでしょうね。
盤の厚さをペラにしたところで価格は下がらない。となれば、マニア向けに高い値段をつけるしかない。
藤井寺のMさんは、盤の厚さは音質とは無関係とおっしゃっていましたね。となると、やはりマスタリングエンジニアの技とセンスが重要だと思います。日本のエンジニアはなかなか優秀です。彼らが仕事を続けられるよう応援するためにも、たまには買わなきゃと思います。

yositaka

2019/08/31 URL 編集返信

盤の厚さと音質は全く関係有りません。
ブルーノートのUA盤が良い例です。

夢似果

2019/09/01 URL 編集返信

yositaka
ブルーノートのUA盤
夢似果さん
なるほど、ブルーノートのUA盤は重量盤ではないのですね。私は持っていませんが、ジャズ好き仲間で持っている人がいそうです。機会があれば確かめてみようと思います。

yositaka

2019/09/01 URL 編集返信

音盤の軽重、厚さと音質に関しての記事を上げてみましたので、一度覗いてみてください。

夢似果

2019/09/04 URL 編集返信

趣味の世界では
夢似果さん
拝読、拝聴させていただきました。
ブルーノート盤「クール・ストラッティン」、UAペラ盤の音に、盤の厚みによる音の遜色は感じられませんでした。それよりも音決めは、マスタリングエンジニアの耳の方がはるかに重要と感じました。
ただ、手にとったときの重量感や、ターンテーブルに置いて針を落とすまでのワクワクするような感触が、音が出る以前に何かを語ってしまう。それも趣味の世界では現実なのです。やれやれ。

yositaka

2019/09/04 URL 編集返信

御越し賜り恐縮です。

夢似果

2019/09/05 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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