遅くて安いローマのフルトヴェングラー

この2枚は、同じ日の録音です。
1952年1月10日、ドイツの指揮者ヴィルヘルム・フルトヴェングラーが、RAIローマ・イタリア放送交響楽団を指揮した放送用ライヴ。

プログラムはベートーヴェンの交響曲第6番「田園」と、第5番「運命」。
フルトヴェングラーの得意曲ですね。





パッとしないジャケットですが、侮れません。
これらは、オリンピック・レコードというアメリカのレーベルが1970年代の後半に世界で初めて発売したものです。

オーケストラもイタリアの団体で、結構珍しいものです。
でもこれ、実は国内でも、フィリップス・レーベルを出していた日本フォノグラムという会社が発売したことがありました。
当時は世界初の、フルトヴェングラー指揮によるベートーヴェン交響曲全集という触れ込みで、ボックスものとして発売されたのです。



そうそう、こんなデザインのボックスでしたね。
この全集は、いろいろと事情があって、すぐに廃盤になってしまったものですし、この2曲なら、ベルリン・フィルやウィーン・フィルを指揮した、より有名な音盤が複数出ているので、余計に注目度は低いと思われます。

それを最近、中古店で見つけました。
まず第5、続いて別の店で第6も。
第5が良かったから、中古店まわりの時には気をつけていたのです。発売後40年以上経っているし、超マイナーレーベルでもあるし、あまり見かけることがないレコードですが、意外にも短期間に、続けて発掘できました。

初めて聴いたのですが、感銘を受けました。

演奏には大きな特徴があります。
テンポがたいへん遅いこと。
フルトヴェングラー独特の流動的なテンポの動きが、他の録音と比べてずっと緩やかで、ゆとりがあること。
オーケストラの練度は高くないが、楽員の演奏意欲が只事でないこと。
そして、この指揮者のものとしては、比較的良好な音質を保っていること。

中学生の時に初めて耳にした1942年ベルリン・ライヴのベートーヴェン「第9」で衝撃を受けて以来、フルトヴェングラーの演奏には絶大な敬意を払ってはいるものの、ここ数年、ネコパパの家電オーディオに彼の音盤が乗ることは少なくなっていました。
何かに取りつかれたような凄みのある音楽、
けれども、歴史や政治などの付帯情報抜きで、音楽だけに浸ることがどうにも出来にくく、つい構えて聞いてしまう音楽、だからかもしれません。

でも、これならいいかな。


遅いテンポでじっくり進む音楽、やっぱりネコパパは好みです。入手してから、もう何度も聴いています。
こんなのを2曲も一度に聞けたローマの聴衆は幸せだったことでしょう。
しかも正式のコンサートではなく、公開録音だから、入場無料だったのでは。

この盤は、2枚合わせても2000円しませんでした。
値段が安くて、テンポが遅く長時間楽しめる。
ケチケチネコパパの価値観って、結局そういうことかも。


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コメント

コメント(16)
No title
こんにちは、残念ながら、この第6番「田園」は持っていませんが、第5番は、昔、日本フォノグラムのフォンタナ盤のLPレコードで「二つの運命」と言うタイトルで発売されていましたね。このLPは手許にあります。
この1952年1月10日録音と、もう一つの運命はBPOで1926年に録音したものがカップリングされていて廉価盤の1000円でした。1970年代のLPです。

CDでも1952年1月10日盤は持っていますが、LPでもう一度聞いてみようかな・・・どんな演奏だったか覚えていません。

HIROちゃん

2019/06/17 URL 編集返信

No title
第5は持ってます。たまたまSPUをセットしてMONO盤を聴く体制にありましたので何十年振りに聴いてみました。
この第5は私にはそれ程遅くは感じませんね。フリッチャイやブーレーズなんかよりは実に快適です。
1楽章、オーボエソロのフェルマータの後、一気に加速して鬱憤を晴らす感じが実に好ましく、懐かしいフルヴェンの世界。
面白くも可笑しくも無い昨今の箱庭的演奏よりは、気魄のこもった、筋金の通ったフルヴェン流の方が余程面白い。
一気に気分は若い時分に戻りました(笑)

quontz

2019/06/17 URL 編集返信

No title
>歴史や政治などの付帯情報抜きで、音楽だけに浸ることがどうにも出来にくく
年長者に失礼かと思いますが、
ネコパパさんはナイーブ過ぎます。
作品と製作者(演奏家)とは切り離して捉える方が良いです。
「人格の力がこの芸術作品を生み出した」といった説は、迷信だと思います。
”学業(スポーツ)は抜群の成績だけれど、こいつは性格悪いなぁ”という生徒がいませんでしたか?

不二家 憩希

2019/06/17 URL 編集返信

No title
> HIROちゃんさん
その「二つの運命」というレコードは今も時々中古店で見かけます。米盤と違うのは、1枚に二つのヴァージョンを収録したため1曲が片面に詰め込まれていることです。比較した人の話では、そのために音量レベルが小さいとのこと。でも、演奏自体は楽しめると思われます。CDはターラあたりから出ているんでしょうか。正規の音源なら音はもっといいかも。

yositaka

2019/06/17 URL 編集返信

No title
> quontzさん
確かに、フリッチャイやブーレーズは一層遅いですね。フリッチャイは好きな演奏ですが、ブーレーズはテンポよりも音の作りに違和感があった記憶があります。LPがどこかに眠っているはずですが、ちょっと聴いてみたくなりました。
最近の演奏が箱庭的なのは楽譜自体が変わったことと、歴史的考証が進んだことが原因でしょうか。
でも感動の不足する音楽はいつか忘れられます。
ベートーヴェンが忘れられるなんてことがあっては、人類の未来は暗いです。

yositaka

2019/06/17 URL 編集返信

No title
> 不二家 憩希さん
もちろん、私も立場としては「切り離して考える」一派のつもりなんです。音楽に限りませんが…
でもフルトヴェングラーの場合はちょっと違っていて、音楽の激しさや音の暗さが、嫌が応でも背後にあるものを想像させてしまうんですね。アーティストの人格だけではなく、他のいろいろなものも。
ジャズで言えば、チャーリー・パーカーやビリー・ホリデイあたりの人にも、よく似たものを感じます。
もちろん、本人たちにはあずかり知らぬことですし、それは音楽自体とは無関係と言われるかもしれません。
ですが、聞き手の私たちにとっては、それがまた魅力でもあり、魔力でもある。多面的な愉しみ方があるということなんですよ。

yositaka

2019/06/17 URL 編集返信

No title
ネコパパさんに紹介していただいて、タバコ屋さんに有ったのを思い出し5番と3番、ワルタ、ランパルを購入しました。
5番は、フルトヴェングラーらしいじっくりとした演奏ですね。RAIローマは、重厚なBPO、VPOと違いイタリアのカンツォーネ?を聴く様な明るい、明瞭な演奏に感じます。
録音が9日遅い3番は、ティンパニが入力オーバーぎみで全体のバランスが崩れている様に私は、感じましたがNABカーブで再生すると多少改善されて聴けました。

チャラン

2019/06/17 URL 編集返信

No title
ナイス❗👍

geezenstac

2019/06/17 URL 編集返信

No title
> チャランさん
巨匠は同じオーケストラと9日後の19日にも公開録音を行い「英雄」とピアノ協奏曲第4番を収録しています。
演奏は10日と同じく好調ながら、録音が今ひとつなのが惜しい。同じ機材なのに?
翌月には今度は、RAIトリノ放送響と3日間のコンサートがあり、それも収録されていますが、ローマの時ほど好調ではなく録音も悪いようです。
その結果を受けたのか、
翌年1953年の10月にはローマで10日間をかけてワーグナーの「ニーベルングの指環」放送用全曲録音に挑みます。
フルトヴェングラーのイタリアでの活動は大変活発でしたが、オケの精度や録音技術はローマが良かったみたいですね。

yositaka

2019/06/18 URL 編集返信

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> geezenstacさん
ありがとうございます!

yositaka

2019/06/18 URL 編集返信

No title
遅くて、安い。絶妙なタイトルですね。
フルトヴェングラー、最近、聴かず、聴いてみようかなと思いました。田園はスタジオ録音しかありませんがあれより遅いとは!
ぼくは先ほどまで職場でターリヒの新世界からのレコード聴いていました。やはり、名盤には名盤と言われ続けるるだけの理由あるなと再確認。敵いませんね。ただいま車内です。

シュレーゲル雨蛙

2019/06/20 URL 編集返信

No title
> シュレーゲル雨蛙さん
最近ユーチューバー徳岡氏のフルトヴェングラー話にはまって、聴き直しています。そうなるとCDではなくLPを聴きたくなります。それでヤフオクを探したりして、病なんとかです。
ターリヒの新世界の良さは引き締まったフレーズの強度とインテンポにあると思いますね。これが第8になると一転して柔軟なテンポ感に。ターリヒはほんとに曲想の読みが深い人です。

yositaka

2019/06/21 URL 編集返信

No title
> yositakaさん
繰り返しになってしまいますが、フルトヴェングラーだけは聴取機材がすべてと考えます。戦前の録音再生に限定した専用機材を国外・国内を問わず生産してもらえれば、必ずそれでしかフルトヴェングラーやワルター、クナッパーツブッシュ、カザルス、トスカニーニを聴くことはないでしょう。
言葉では換言できない巨匠たちの衝撃的な至芸はそれでしか聴取できないと考えます。
残念ながらそれぐらい違う音で鑑賞しているひと握りの層が日本に居られると思います。

羨ましいなぁ

mae*a_h*210**922

2019/06/30 URL 編集返信

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> mae*a_h*210**922さん
たしかに「それぐらい違う音」で鑑賞されておられる方は存在するでしょうね。できれれば、そんな音で体験したいものです。最近は「ピリオド楽器」による作曲当時の演奏がさかんに喧伝されていますが、同様に「ピリオド再生装置」が研究されてもおかしくありませんね。

yositaka

2019/06/30 URL 編集返信

No title
徳岡(本人)です。ユーチューブ、ご覧くださりありがとうございます。今週末は動画をご覧いただいている方からのリクエストで三種類のブラームスの交響曲第2番を解説する動画を公開いたします。フルトヴェングラーに限らず、他の演奏家も徐々に取り上げていきたいと思っています。チャンネル登録をよろしくお願いします。

nao**musi*70

2019/07/09 URL 編集返信

No title
> nao**musi*70さん
ようこそ、コメントありがとうございます。徳岡さん「明るくマニアック」は全話視聴させていただき、毎週の更新も楽しみに拝見しています。大変素晴らしい内容で、長らく休眠していたフルトヴェングラーへの関心が再燃してしまいました。次回のブラームスの2番は好きな曲ですので取り上げていただくのはとても嬉しく思います。個人的な関心は継子扱いされているロンドン・フィル盤の評価。案外好きなんです。これ。

yositaka

2019/07/09 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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