指揮者はワガママでいい

毎回楽しみにしているプランタン管弦楽団の演奏会に出かけた。
今回選んだ席は向かって右の2階バルコニー席。オーケストラの真横である。
指揮者の動きや楽員人の一人の演奏や表情がつぶさに見られるだけでなく、ここの音がくっきり分離して聞こえるのがメリットだ。
もちろん、背中しか見えないパートもあるのは仕方がない。今回はチェロ、コントラバスパートが背中。でも、音のバランスは全く自然である。
ホールトーンというのは不思議だ。




ベートーヴェンの交響曲第1番とブラームスの交響曲第3番の間に芥川也寸志の「小交響曲」ともいうべき作品を組み合わせる。
ポイントは二つの交響曲の明瞭に対比だ。指揮者中村暢宏は今回も一フレーズも忽せにしない、主張のはっきりした音楽を聴かせてくれた。

まずベートーヴェンは、いかにも彼らしい、キレの良い俊敏な演奏で、ベートーヴェンの若々しい貪欲な表現意欲を伝えてくれた。
第1楽章のはじめはやや慎重な運びだったが、展開部に近づくにつれて弦楽器は音圧を増し、オーボエ、ファゴット、ホルンも競うように音を前に出してくる。
何よりもすごいと思ったのはティンパニ。いわゆるピリオド楽器ではなく、通常の楽器だが、どうやら固めの音が出るようにチューニングされているらしく、鋭く歯切れの良い「突き出し」で、思い切った強打で全パートと競い合う。
それは、第3楽章からフィナーレにかけて、一層強烈になり、全体がまるでオーケストラとティンパニのための協奏曲であるかのよう。ネコパパが第1交響曲をライヴで聞いた経験は少ないが、この曲がこれほど面白く斬新だったかと瞠目されられた。

一方のブラームスの交響曲第3番は、ベートーヴェンとは対照的な演奏スタイルがとられた。明瞭俊敏なベートーヴェンに対してこちらは、全ての楽器の色をブレンドさせた濃厚な響きで全体を通していく。
そこから伝わって来るのは「輪郭線のない情感」である。
冒頭、例の岩石が転がり落ちるような趣の主題提示が、弱めのフォルテでさらりと奏されたところから意表をつかれたが、その後のフレーズの切れ目をわざとぼかしたような、音の動きを追えない進行は、これまでの中村の指揮ぶりからは聞いたことがないものだった。
間奏曲的な中間の二つの楽章、とくに甘美な旋律で知られる第3楽章は速いテンポで粘らずに歌い、フィナーレではふたたび第1楽章の気分に戻る。ここでもティンパニーの強打が鋭いアクセントを付けるが、ベートーヴェンの時とは奏者が交代し、音も重心が低く、強弱の変化に富んだものとなっていた。

2曲の間に演奏された芥川作品は、ストラヴィンスキーの影響を感じさせるリズミカルな佳作で、ライヴで聴くのも確か2度目。素晴らしく乗りの良い演奏で、とりわけ急速長のリズムが沸騰するフィナーレは手に汗握る盛り上がりで胸が高鳴る熱演となった。

オーケストラの状態は、これまでで最もよかったのではないだろうか。
ふたりのティンパニと並んでホルンが好調で、演奏終了後は指揮者がまっさきに立たせていたほど。2曲の交響曲の両端楽章はアンサンブルが揃いにくい場面がしばしばあったものの、指揮者の要求には十分に答えていたと思うし、「いいたいこと」がしっかり伝わって来る音楽は愉しい。
近頃のネコパパには珍しく、一瞬も眠気を催さない演奏会だった。

3曲終了後に恒例の指揮者スピーチがあった。
来年でこのオーケストラは創立20周年を迎えるという。中村の感謝の言葉は
「僕のわがままにこんなに長く付き合ってくれて、感謝しています」
だった。やはりこの人、「みなさんと一緒に音楽を作る」なんて建前は言わない人なのだ。彼にとって音楽をやるとは「わがままを通すこと」。明確である。
だからこそネコパパは、「この人の作る音楽が聴きたい」と思うのである。

アンコール曲は「G線上のアリア」。
曲名を紹介するときも「組曲第3番」「エアー」なんて、決して言わない。それもいい。

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コメント

コメント(3)
No title
じつは先月、初めてアマチュアオーケストラの演奏会行きました。関西学院交響楽団OBのアンサンブル・ツヴァイというのが、歩いて行けるホールで、ベートーヴェンの8番とブラームスの2番をしました。
こちらも二人の作曲者の違いがくっきり出ました。ベートーヴェンは個々の奏者の役割が重いと重い知りました。ブラームスはオケの総合力です。
トラの若いティンパニさん(女性)が良かったです。ホルンは難しい。団員70歳前後の人たちでした。

シュレーゲル雨蛙

2019/06/13 URL 編集返信

No title
指揮者は手堅い人でしたが、よい仕事していました。明確な指示です。

シュレーゲル雨蛙

2019/06/13 URL 編集返信

No title
> シュレーゲル雨蛙さん
それはとてもいいプログラムですね。アマオケもひとりのいい指揮者が年季をかけて育成すると信頼関係も濃密になり、演奏技術はあまり意識に登らないくらいになります。
お聞きになられたアンサンブル・ツヴァイも歴史の長い団体のようで、かなり熟成が進んでいるのではないでしょうか。ベートーヴェンとブラームスの違いは、作曲当時のオーケストラ事情を反映しているのでしょう。名人集団から職能集団への変化、とでも言うような。ブラームスの時代にはすでにウィーン・フィルもあったのですからね。

yositaka

2019/06/13 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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