ホールの音響についての議論

2019.6.3朝日新聞に、
コンサートホールの音響というマニアックな記事が掲載されていた。

ベルリン・フィルハーモニー、サントリーホールのようなワインヤード型と、ウィーン楽友協会ホール、アムステルダム・コンセルトヘボウのようなシューボックス型、どちらが音響に優れているのか、という議論である。



たいへん興味深い文言があった。
サントリーホール、エルプフィルハーモニーを設計した豊田泰久氏の言葉。
ひとつは「良い音」の基準について。
エルプフィルの音響について、豊田氏は述べる。
「このホールにはデジタル録音と競えるクリアで透明な音響があります」
うるさ型のオーディオファンの当惑が、目に浮かぶようである。

デジタル録音と「競える」クリアで透明な音響って…
録音とライヴの音響を並べてしまうこと自体、驚きだが、
それ以上に気になるのは、この設計者が、ライヴの音響は基本的に録音物に負けており、それに「競える」音にするのが設計者の腕の見せどころ…と捉えているように読めることだ。
いくらなんでも、そりゃないのでは。PAで拡声するポピュラー音楽ならともかく、ことは生音勝負のクラシックの話である。
また、アナログ録音の優位性が再評価されている現在、デジタル録音を「良い音」の基準とするかのような見方は、ちょっと古い気もするのだが、どうだろうか。

もうひとつは、残響時間について。
氏は、残響時間はホール内のどこでも同じだが、初期反射音は席の位置によって異なり、響きの良さは初期反射音を得やすいかどうかで決まる。シューボックス式は初期反射音が得やすい構造だが、二千人超えの規模ではブロックごとに壁を作るなど工夫されたワインヤード型の方が有利であるという。

残響時間と初期反射音には違いがあるというのは初耳。
まだまだ知らないことは多いのだ。勉強しなければ…

しかし、残響時間はホールのどこも同じ、という説明には、うーん、そうかなあ、と思ってしまった。席によって音が違うことは確かで、ネコパパはそれを残響時間の違いと認識していたのだが…ちょっと違うようだ。では、残響と初期反射音をどう聞き分けるのか、詳しい方がおられたら、ぜひご教示いただきたい。

収穫は、ヴァレリー・ゲルギエフが、ホールの音響込みで音楽づくりができる指揮者だと知ったこと。歌手をオーケストラの後方に配置するなんて、大胆な配慮だ。
この人の演奏会なら、きっとどのホールでもベストの響きが聴けそうだ。これも、ロシアの地方劇場で苦労した経験が生きているのかもしれない。

そのマーラーの「大地の歌」を取り上げた演奏会、全曲がYouTubeで聞けます。
たしかに、記事の通りの配置です。

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コメント

コメント(18)
No title
ナイス!👍

geezenstac

2019/06/04 URL 編集返信

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前後の話を聞かないと理解できませんが、彼は録音する為にホールを作ろうとしているのですかね。反響についても舞台の楽器の位置は、後ろの反射板により響きが違うし、1階客席後ろの2階席下のなどは、私には最悪に感じるのだが加齢による聴力の低下なのでしょうかね。

チャラン

2019/06/05 URL 編集返信

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おはようございます\(^o^)/

私はこの議論についてコメントを書けるほどの知識はないので控えますが、、、以前 ステレオサウンド誌で読んだ 天井がドーム型のコンサートホールの話(どんな名前のホールか思い出せません)その筆者は2階席を余儀なくされたのだが

ドーム型の天井の効果もあって音楽が天井から降り注ぐ様で感激したとの記述があったのを今だに覚えてます。(これを書いている途中で検索してみたのですがそれらしいものを見つけられませんでした)

ではでは

Yさん

2019/06/05 URL 編集返信

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> geezenstacさん
ありがとうございます!!

yositaka

2019/06/05 URL 編集返信

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> チャランさん
私は録音というのはいかに生音に近づけるか、迫れるかを追求してここまで来たと思うのですが、この設計者は逆の考えをお持ちであるかのようです。おそらくどの席でも均一の音にしたいという気持ちがこういう言葉になったのではと想像しますが、
「ライヴ以上の音はなし」と考える聴衆は頭を抱えてしまうかも、というのは考えすぎでしょうか。
問題は、聴き分けが可能な話なのか、ということです。私にはちょっと自信がないです。

yositaka

2019/06/05 URL 編集返信

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> Yさん
ドーム型は教会ではありがちですが、日本でそういうのはあるんでしょうか。
イギリスのロイヤル・アルバートホールなんかがそうなのかも。あそこは7500人も入る大ホールですが、多数の音響反射板を使って適度な残響のある響きになっていました。
天井から降ってくるタイプは合唱には理想的だそうです。

yositaka

2019/06/05 URL 編集返信

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横から失礼します。 >Yさん
2階の最前列は、天国ですね。しかし、その下の1階奥の壁際は音の吹溜りになって私には地獄ですよ。

ドーム型ホールは、イスタンブールのイスラム教寺院で聴いたコーランの朗々たる響きを思い出します。

チャラン

2019/06/05 URL 編集返信

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> チャランさん
イスラム教寺院はドームが基本ですね。
ドレスデンのフラウエン教会もそうでした。宗教音楽は天から降ってくる響きをイメージしているのでしょう。

yositaka

2019/06/05 URL 編集返信

No title
>この人の演奏会なら、きっとどのホールでもベストの響きが聴けそうだ
配置を変えるというだけでベストのサウンドが保証されているというわけでも無いと思います。
多くの指揮者は各ホールごとの特性を気にしており、それにより演奏を変えることは珍しくないそうです。
ゲルギエフは目立ったことをするので記事になっただけだと思われます。
彼の配置転換の方法が正しいかもわかっていません。
そういうパフォーマンスが得意なだけかもしれません。

アナログ録音の音源はアナログ再生すれば昔懐かしい音が聞けるので「これは良い!」と感じるのでしょう。ですが、最新のデジタル録音とアナログ録音を同時に行えばデジタルの優位は圧倒的というのが現場の声のようです。

不二家 憩希

2019/06/05 URL 編集返信

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> 不二家 憩希さん
まったくおっしゃるとおり。たしかに改善されたという保証はありませんし、実際の効果のほどもわかりませんよね。
でも、個人的にはゲルギエフという人、パフォーマンスが得意なタイプでもないような気もします。彼の演奏の印象からのカンに過ぎませんが、彼なりにホールの特性を考えてのことではないかと、私は思いました。

デジタルの優位は圧倒的、という意見も多く聞きます。
その理由を聴くと、納得もできます。
ところが一方、高品位なハイレゾ録音といわれるものの最終目標が「アナログの音」という意見もあって、錯綜してきます。ねじれてます。
でもそれも、実感としては、わかるような気もするのです。

人が「良い音」と感じるのは、必ずしも物理的精度の高い音とは限らないとも思います。人の感度というものは、複雑で奇妙です。だからこそ、音楽は面白い。

yositaka

2019/06/05 URL 編集返信

No title
ホールは完璧というのは一つもないと思います。良いとされるどのホールにも良い悪いの両方がありました。東京文化会館の2階左手最前列の指揮者の顔が見える辺りで聴いていたら、後半、1階の良い席で聴いていた人がよく聞こえない、ここの方が良いと移動して来たり、サントリーホールで1階後列の2階席が被る下で聴いたら最悪で空いていた2階端に移動したら良かったり、オーチャードの3階後列は空調が時にスウッと聞こえたけれど空いていた1階最前列がわりと良かったり、…。
しかもどのような曲か楽器か規模かで印象が全く異なります。人見の1階前列で聴いた竹澤恭子のバルトーク、ヴァイオリン協奏曲の素晴らしく響いたこと。同じ席で聴いたA・ディビス、BBC響、原田節のトゥーランガリラはオンド・マルトノの大音響に辟易したこと。
どのホールにもぼくのお気に入りと気にいらない席がありましたが、それだって、時と場合で変わるようです。まさに大森荘蔵「真実の百面相」です。それでもライヴは楽しいなあ。音が悪いから、金返せなんて無粋はやだなあ。今度はあの辺りに座ろうなんて試行錯誤して自分のお気に入り席を創る楽しみがありました。

シュレーゲル雨蛙

2019/06/06 URL 編集返信

No title
> シュレーゲル雨蛙さん
席の違いで音が激変することは私もしばしば体験しています。それは初期反射音だけではなく、楽器の種類編成位置関係でも変わるのでしょう。
「真実の百面相」とは、巧妙な言い方ですねえ。私も覚えておいて使ってみることにします。汎用性があるので、ここぞ、という時にしか使えないでしょうが…
でもそれは、おっしゃるとおり「愉快な百面相」「愉悦の百面相」でもありますね。

yositaka

2019/06/06 URL 編集返信

No title
> yositakaさん
「真実の百面相」は大森荘蔵『流れとよどみ』産業図書、1981年刊 所収の一篇です。是非一度お読みください。昔流行った本です。

シュレーゲル雨蛙

2019/06/06 URL 編集返信

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> シュレーゲル雨蛙さん
ぜひ読んでみたいと思います。

yositaka

2019/06/07 URL 編集返信

No title
>デジタル録音と「競える」クリアで透明な音響
これには私も大いに疑問ですし理解不能です。
2~3日考えてみましたがわかりませんでした。

この建築家は胡散臭いのではありませんかね。
施主を納得させるための奇妙な論理で丸め込める能力を持っているのではないかと思います。
建築物は出来上がってみないと良いか悪いのかわかりません。
音響面の良否は特にそうでしょう。
それを「私の設計なら良い音になる」と説得するのですから一種の眉唾だと思います。

不二家 憩希

2019/06/07 URL 編集返信

No title
> 不二家 憩希さん
悩ませてしまいましたね~
建築の評価そのものはできませんし、
これだけの仕事をされるのですから「巨匠」と呼ばれる方なのでしょう。

それでも、こんな大きな注文を受けるには、専門家でない相手も説得するレトリックが必要で、
そのプレゼン能力が、こんな言葉になって出たのではないか…と私も考えてみたりしました。
確かに、出来てみないとわからない「賭け」に大金を投じるのですから、それはもう海千山千の世界なのでしょうね。

yositaka

2019/06/08 URL 編集返信

No title
こんにちは。

この記事と、このホールに関して、少し調べて分かったことを弊ブログに書きましたので、見て頂けると幸いです。

ron_riku

2019/07/19 URL 編集返信

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> ron_rikuさん
コメント並びに記事紹介ありがとうございます。拝読して貴ブログのコロンと欄に書き込みました。ここでも再掲します。

おはようございます。
ホールの音響も座席によってまちまち、場合によってはオーディオを聞いていたほうがよく聞こえる、というのは私もよく経験することです。
ただ、私がこの記事で引っかかったのは、良い音の代表みたいに「デジタル録音」を出して来ていること。設計者さんは一般の人に分かりやすいように配慮して言ったのかと思いますが、「ハイレゾ」ならまだしも「デジタル」というのはちょっと認識が甘いといいますか、80年代の感覚の感覚のようにも感じたのです。もしかしてこの人のオーディオ感は80年代で止まっているのかも。

yositaka

2019/07/20 URL 編集返信

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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