音楽を楽しむ会・楽器の世界③チェロ

2019年 第4回 5月11日(土)午前10時~12時(毎月第2土曜日開催)

今月のテーマ 楽器の世界③チェロ

今回は、宮澤賢治「セロひきのゴーシュ」冒頭部分の朗読から会をはじめました。
以下、プレゼン用の原稿をご紹介します。




ゴーシュは町の活動写真館で、セロを弾く係りでした。
けれども、あんまり上手でないという評判でした。
上手でないどころではなく、実は仲間の楽手のなかでは、いちばん下手でしたから、いつでも楽長にいじめられるのでした。
 ひるすぎ、みんなは楽屋に円くならんで、今度の町の音楽会へ出す第六交響曲の練習をしていました。
 トランペットは一生けん命歌っています。
 ヴァイオリンも二いろ、風のように鳴っています。
 クラリネットもボーボーとそれに手伝っています。
 ゴーシュも口をりんと結んで、眼を皿のようにして楽譜を見つめながらもう一心に弾いています。
 にわかにぱたっと楽長が両手を鳴らしました。
みんなぴたりと曲をやめてしんとしました。
楽長がどなりました。
「セロがおくれた。トォテテ テテテイ、ここからやり直し。はいっ。」
 みんなは今の所の少し前の所からやり直しました。
ゴーシュは顔をまっ赤にして額に汗あせを出しながらやっといま云いわれたところを通りました。ほっと安心しながら、つづけて弾いていますと楽長がまた手をぱっと拍うちました。
「セロっ。糸が合わない。困るなあ。ぼくはきみにドレミファを教えてまでいるひまはないんだがなあ。」…

「セロひきのゴーシュ」は、
へたくそなセロ弾きのゴーシュが腕をみがき、人間的にも成長する姿を描いた宮澤賢治の童話です。
ストーリーは、演奏会に向けで練習をつづけるゴーシュのもとに、毎晩動物が訪れる…というもので、動物たちとのギクシャクした交流の中でいつのまにかゴーシュはセロの腕を上げていくのです。

「セロ」というのは「チェロ」のこと。
ヴァイオリン属で二番目に大きな楽器で、イタリア語でヴィオロンチェロ、語源は「小さいヴィオローネ(コントラバス)」だそうです。
明治大正時代は「ヴィオロンセロ」略して「セロ」と呼ばれていました。
その後、ヨーロッパで指揮を学んでいた<日本のオーケストラ活動のオヤカタ>であった近衛秀麿が1927年(昭和2年)に帰国し、「チェロ」と発音すべきと主張したそうですが、オーケストラ団員や音楽学校では相変わらず「セロ」と呼ばれていました。しかし、第二次世界大戦前後から「チェロ」が広がり始め、戦後は、文部省やNHKの音楽用語・放送用語として「チェロ」に統一されていきました。
宮沢賢治がこの楽器を弾いていたころは、一般的には「チェロ」ではなく「セロ」と呼ばれていたのです。

 高畑勲監督作品・アニメ映画「セロ弾きのゴーシュ」から(作曲 間宮芳生)

1 印度の虎狩り
2 かっこうのドレミファ
3 愉快な馬車屋
4 なんとかラプソディ


矢島光雄(チェロ) 間宮芳生指揮 東京室内楽協会 1981年頃録音

「セロひきのゴーシュ」は、何度か映画化されています。
当然、そのための音楽が必要になります。宮澤賢治は作曲もした人なので、このお話に出てくる曲も残してくれれば良かったのですが、残念ながらありません。映画がつくられるたびに新しく楽曲が書き下ろされたのですが、今日ご紹介するのは、1982年のアニメ映画のために作曲された音楽です。
映画の監督は高畑勲で、原作に登場する架空の楽曲「インドの虎狩り」「愉快な馬車屋」は、高畑の友人でもあり、日本を代表する作曲家の一人、間宮芳生(みちお)が新たに作曲したもので、物語にぴったりの仕上がりだと思います。
場面を想像しながらお聞きください。


1 印度の虎狩り…第1夜、シューマンの「トロメライ」をリクエストした猫に腹を立てたゴーシュがやけくそで演奏する曲。あまりの騒音に七転八倒する猫の姿が描かれますが…

2 かっこうのドレミファ…第2夜、かっこうにドレミファを教えて欲しいと頼まれて仕方なく音階を弾いてやるゴーシュが、逆に音程の悪さを指摘され逆ギレ。

3 愉快な馬車屋…第3夜、動物の音楽会で演奏するためにたぬきの子が持参した楽譜を弾いてやるゴーシュ。

3 なんとかラプソディ…第4夜、セロの音で病気を治してほしいと言って訪ねてきたねずみの母子のためにゴーシュが弾いた曲。実は、ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」の第2楽章をチェロ用に編曲したものです。
そこで、原曲の部分を蓄音機で聴いてみましょう。盤は賢治のもっていたハンス・プフィッツナー指揮のものとは違いますが…

★蓄音器コーナー①★
♪ ベートーヴェン 交響曲第6番「田園」第2楽章より  
ブルーノ・ワルター指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1936年録音)

♪ 長谷川陽子 チェロ小品集

長谷川陽子は豊かな表現力と繊細な音色を合わせ持った、日本を代表するチェロ奏者の一人で、今年でデビューして32年になります。
大学生だった1987年にリサイタル・デビュー。
翌1988年、デビュー・アルバム「珠玉のチェロ名曲集」をリリースし、日本人チェリストとして初のクラシック・ヒットチャート第1位に輝きます。その後、文化庁派遣研修生としてシベリウス・アカデミー(フィンランド)に留学、アルト・ノラス氏に師事。1992年首席で卒業後、帰国。現在に至るまで国際的な活躍を続けています。
彼女の演奏の魅力は、細身でストレートな響きを基本としながら、呼吸の深い広々としたクレシェンドを用いた、奥行きの深い音楽を生み出すことです。
私はデビュー盤を聴いて、彼女の演奏にすっかり惚れこんでしまいました。



1 トロイメライ(シューマン)
シューマンのピアノのための組曲「子供の情景」の一曲。「セロひきのゴーシュ」で猫がリクエストしたのは、チェロ編曲版。
宮沢賢治はこの場面でリクエスト曲を二度書き直し、3曲目でこれに決定しています。ちなみに最初はシューベルトの「アヴェ・マリア」、次はバッハ/グノー「アヴェ・マリア」。
Pf / 長尾洋史 1992年録音

2 愛の挨拶(エルガー)
これは1888年に若きエドワード・エルガーが、ピアノの教え子だったアリスとの婚約記念に贈ったピアノ曲をチェロとピアノのために編曲したものです。楽器商の息子で、貧しい駆け出しの作曲家との結婚を、上流階級のアリスの親族は認めず、二人は反対を押し切って結婚したそうです。
「威風堂々」「エニグマ変奏曲」に聞かれるエルガーの音楽は、折り目正しい構成と威厳の中に、ノスタルジックな叙情を漂わせる作風。この曲は叙情に傾いた優美な曲想が魅力的です。
Pf / 長尾洋史 1992年録音

3 リベルタンゴ(ピアソラ)
1974年発表の作品。
Libertangoという単語は、「自由」 libertad と「タンゴ」tango と合わせて作った造語だそうです。アルゼンチンの作曲者でバンドネオン奏者でもあったアストル・ピアソラ(Astor Piazzolla/1921-1992)は、タンゴにクラシック、ジャズの要素を融合させた独自の演奏形態を産み出した人です。
Pf / 仲道佑子 2012年録音

4 夢のあとに(フォーレ)
1878年作曲。原曲は歌曲ですが、パブロ・カザルスがチェロ独奏用に編曲したことがきっかけで有名になりました。歌詞は、イタリアのトスカーナ地方に古くから伝わる詩で、青年が夢の中で出会った美しい女性との幻の恋愛が描かれ、最後は夢から覚めた主人公の絶望が歌われます。
記念すべき長谷川のデビュー作「珠玉のチェロ名曲集」から。
Pf / 藤井一興 1988年録音


♪バッハ 無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調 BWV1007から
アレクサンドル・ルーディン(チェロ)  2000年1月録音

6曲の無伴奏チェロ組曲は、バッハが数多くの器楽曲、合奏曲を生み出したケーテン時代(1717年-1723年)に作曲されました。
これらの曲は長いあいだ、練習曲として扱われる以外は、一般に知られることがなかったのですが、チェロを独奏楽器の位置に高めたスペインの名チェリスト、パブロ・カザルスによって演奏会レパートリーとして再発見されました。
彼は14年間の研究の末、1904年にパリで公開演奏。カザルスの精力的な演奏によって、この曲は「チェロの旧約聖書」と見なされるようになりました。

今日お聞きいただく第1番は、6曲中最も親しまれている作品で、ト長調というチェロの運指に合った調性で書かれています。
第1曲プレリュードは有名な楽章で、絶え間なく続く16 分音符の流れが、その背後で進む和声を浮き彫りにしていきます。
第3曲はイタリア型の急速な3拍子によるクーラント、第4曲は優雅なサラバンド、そして第6曲の軽快な短いジーグで曲を閉じます。


お聞きいただくのは1960年生まれのロシアのチェリスト、ルーディンの録音です。数多いディスクの中からどれを聴いていただこうか、色々と聴き比べてみましたが、テンポの良さとオーソドックスな解釈、いかにもチェロらしい、中低域の深い音色がすばらしいこの演奏を選びました。

★蓄音器コーナー②★
♪ バッハ G線上のアリア  
パブロ・カザルス(チェロ) (1930年録音)



♪ ドヴォルザーク チェロ協奏曲ロ短調作品104
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(チェロ)
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
1Allegro
2Adagio ma non troppo
3Allegro moderato

ドヴォルザークがアメリカに滞在中、1894年から1895年に書かれた作品で、交響曲第9番「新世界より」や弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」と並ぶ代表作の一つです。
愛好家には「ドヴォルザークのコンチェルト(協奏曲)」を短縮した「ドヴォコン」の愛称で親しまれています。
これはもっとも有名なチェロ協奏曲というだけでなく、協奏曲というジャンルのなかでもとりわけ優れた傑作の一つでもあります。
特徴としては、協奏曲としては異例な程オーケストラが活躍する曲であること。特にホルンと木管のソロの活躍が目覚ましいことが挙げられます。そしてなにより、メロディーが素晴らしい。長い曲ですが、特に音楽が静まり返る中、郷愁の旋律がどこまでも高まっていく最後の5分間は感動的です。
この作品を知ったブラームスは「人の手がこのような協奏曲を書きうることに、なぜ気づかなかったのだろう。気づいていれば、とっくに自分が書いただろうに」と嘆息したと伝えられています。
今日お聞きいただく演奏は、ロストロポーヴィチ。

ムスティスラフ・レオポリドヴィチ・ロストロポーヴィチ(1927年3月27日 - 2007年4月27日 )はアゼルバイジャン(旧ソビエト連邦)出身のチェリスト・指揮者。
特にチェリストとしては、30代のころから20世紀後半を代表する巨匠と言われてきました。芸術や言論の自由を擁護する立場から、さまざまな活動を繰り広げた人としても有名です。
ソビエト時代に反体制物理学者アンドレイ・サハロフや作家のソルジェニーツィンを身の危険を顧みず擁護し、ユネスコ親善大使にも就任。ベルリンの壁が崩壊した際には、崩された壁の前でバッハの無伴奏組曲を演奏し、中継番組では「壁の前ではチェロを弾く男もいます」と報道されました。
この映像では、イタリアの指揮者ジュリーニとともにスケール雄大な演奏を披露しています。



次回はこれです。



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コメント

コメント(6)
No title
「ナイス!」です。(^^)
「動物と音楽」、、、充実した会になる様願ってます。

tan*oi*y*n

2019/05/13 URL 編集返信

No title
> tan*oi*y*nさん
ありがとうございます。来月は子どもたちにもたくさん来てほしいと思っています。

yositaka

2019/05/13 URL 編集返信

No title
今回のテーマは、私の好きなチェロ期待していましたが、私の期待以上によかったです。
長谷川陽子さんの華麗な音色は、若いアントニオ・ヤニグロを彷彿させますし、同じ大学の藤原真理さんのパブロ・カザルスを思い浮かべる重厚な力強い演奏と好対照でした。(ヤニグロは、カザルスの弟子でしたね)
長谷川陽子さんのLPがあったらもっとセロの良さが聴けたのに残念ですね。
最後の映像ロストロポーヴィチ華麗で重厚な力強い演奏と指先を立て激しく手を震わせるヴィブラート?は凄い・・・。

次回のテーマ「動物と音楽」は、今回の子供さんも楽しめる「セロひきのゴーシュ」でしたので何が出るのかたのしみですね。

チャラン

2019/05/13 URL 編集返信

No title
> チャランさん
いつもご来場ありがとうございます。長谷川陽子さんのファンなんですが、デビューした1988年がCDの普及期であったため、彼女のアルバムはすべてCDで、初期の傑作の大方は16ビット・ローレゾなのが残念なところです。将来の高音質化を望みたいところです。

ロストロポーヴィチの映像盤はEMIのセッション録音直後に収録されたものですが、このDVDはSQ4チャンネル方式で録音されていたLPよりもずっと生々しい音でした。ロストロポーヴィチの左手の猛然たるヴィヴラートがはっきりと捉えられていて、すばらしいと思いました。

yositaka

2019/05/14 URL 編集返信

No title
チェロといえば、やはり「ゴーシュ」ですね^^)
動物と音楽に絡める本は・・・何かしら。
イロイロありそう^0^)
私が真っ先に思いついたのは
「ネコとクラリネットふき」です。

ユキ

2019/05/14 URL 編集返信

No title
> ユキさん
岡田淳さんの絵本。私も大好きです。そういえば彼の作品は、音楽が聴こえてくるものが多いですね。もしかすると、岡田さんのファンタジーの持つ軽やかなリズム感は音楽に関係があるのかもしれません。その観点で読み直してみるのも面白いかも。

yositaka

2019/05/14 URL 編集返信

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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