彼女以外、だれにも書けない物語


はんぶんぺぺちゃん
■村中李衣
■絵 ささめやゆき
■佼成出版社
■\1,365(本体価格:\1,300)
■2008年09月



気になる本はどこにでも持ち歩く癖があって、
先日もこの本を教室で開いてぱらぱら見ていた。
すると生徒たちが笑ってみているのだ。それはそうだ。
「はんぶんぺぺちゃんだって。なに、あれ…」
中には興味を持って、覗きに来る女子もいる。
そこで、彼女に話のさわりを、ちょっと紹介してみた。
「えっ、そんな話なんですか。やだ、なんかこわい」


あんこを丸めた、やさしい色のお菓子には、ケーキとは違うお話が隠れています。
満月の夜には、ほかの夜には起こりっこない、お話が起こります。
ぺぺちゃんはそのことを知っています。
ひとりでそっと、見ていたからです。(作者からのメッセージより)


村中李衣は意地悪な人だ。
当然、ファンタジーだと思うでしょう。ところが大違い。



はるこは、お母さんの実家の和菓子屋に、お母さんと一緒に住むことになった。
お父さんは出張ばかりで、きょうもいつもの緑のカバンにをちゃっとしめて、出かけていく。
はることお父さんは、遠い人のようだ。
そんなお父さんがプレゼントしてくれた「ぺぺちゃん人形」も、ある事件がきっかけで真っ二つに引き裂かれてしまう。

お母さんの実家になじめないはるこ。
お母さんやはるこに、うまく気持ちを伝えられないお父さん。

お父さんとお母さんが激しく口論した夜、
自分の前で一度も靴下を脱いだことのないお父さんの足に生えている「毛」を、はじめてみたはるこは、
お父さんを「おおかみ男」と思い込む。

しかしやがて、二人の気持ちを結びつける大きな出来事が…そして悲しみが…


村中の文章はいつものように、一切の思い入れを廃して、具体的な会話や描写だけで語っていくもの。
それでいて、一人一人の人物には豊かな人物像が与えられている。

たとえば、実家の主人である職人気質のおじいさん。
作中での描写はわずか数行。
会話文は「ない」の一言である。
それなのに、物語を読み終わると、読者にはその生き方や人柄までもが、くっきりと印象付けられる。

そして、彼女の作品の「主要動機」である「病気」「入院」「死」のモチーフ。
これは彼女が長年にわたって続けてきた、「病院の子どもたち」やお年寄りに対する「読みあい」の体験の反映なのだろう。
物語のクライマックス、病院でのはること父のやり取りは、村中以外のだれにも書けない場面である。

ここにこそ「児童文学」が「本物の文学」である紛れもない証がある。


ささめやゆきのふるえるような描線が、登場人物の気持ちのふるえを見事に描き出している。


目立たない本だが、幸いにもどこかで見かけたら、ぜひ手にとって見てください。

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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