旅立ちに寄りそいながら


小林大悟は、ほんの偶然の出来事で「納棺」の仕事に携わることになった。
それは遺体を洗い清め、死化粧を施して遺族との最後の別れから棺に納めるまでの、様式的な所作を伴う仕事である。
チェリストとして所属したオーケストラが解散。大悟はプロ奏者を諦め、ウェブデザイナーの妻に内緒で購入した、1,800万円の楽器も売却し、妻とともに生まれ故郷の山形県に移り住むことになったのだ。
生活の当てはない。そんな折り、「旅のお手伝い」と書かれた求人広告を見つけた彼は、高給に惹かれて面接へ。
実はそれは「安らかな旅立ちのお手伝い」という意味であった。
仕事内容を知り、困惑するも、初めての求職者を期待する社長に押し切られ、なしくずしに勤めることになってしまう。
妻には、その職を打ち明けることができない。

最初の現場では、孤独死の老女の遺体と対面し、襲い来る腐臭と嘔吐にさらされ呆然とする。
平然と対処する社長。
当惑の中で、ともかくもこの仕事を続ける中、やがて、大吾は気づく。死化粧を施すことによって、遺体が生前の姿によみがえり、遺族との真の別れを生み出すことに。
彼は、この仕事にひとつの充実感を見出たのだ。

しかし、彼の仕事が、幼馴染や妻に知られることになり、物語は波乱の中に…


映画『おくりびと』


監督  滝田洋二郎
脚本  小山薫堂
出演者  本木雅弘
      広末涼子
      山崎努
      峰岸徹
      余貴美子
      吉行和子
      笹野高史
      他

音楽  久石譲
撮影監督  浜田毅

編集  川島章正
配給  松竹


公開   2008年9月13日


第81回アカデミー賞 外国語映画賞受賞作品として、話題を集めた作品である。


たしかに、日本の風土性、民族性が強く感じられる作品で、アカデミー賞に選ばれるに足る題材を持った作品と感じた。
特に、清拭から納棺までの静かに描かれる流れ、土色の遺体の表情が、納棺師の手によって生気と美しさを取り戻していく描写は心打たれるものが…。

また、繰り返し描かれる死に対比するように、激しく妻を求める主人公、植物に覆い尽くされた社長室、アップで映される「食う」場面といった、生々しい「生」の表現を置くところ、
幼馴染や妻に「理解」を得るために、「お風呂屋のおばさん」の死が媒体とされるところも、興味深い。
日々、湯を沸かして人々を清め、浄化する「水の巫女」の役割が感じられるからだ。

反面、主人公たる夫婦の人物像は、いまひとつ。
納棺師の職に就いた動機が衝動的なのはともかく、
オーケストラ団員時代、高価な楽器を妻に内緒で購入していたり、それを打ち明けられた妻も、価格の見当すらつかない、という出だしから、不安が募る。
この妻は、黙って夫について山形に引越し、不安もあろうに、夫の就職先にもあまり関心がないようだ。
いざ判明したとなると、とたんに「汚らわしい!」と反発して、実家に戻ってしまうような人物。
夫も夫で、妻を追いもせず、仕事の合間、農地で悠然とチェロなど奏で、思いにふける。
やがて妻は妊娠して、当然のように、舞い戻ってくる。すると夫も当然のように受け入れる。
「ちゃん」付けで呼び合う二人だが、この幼い夫婦には、生きた人の絆がまったく、希薄だ。
いわゆる、美男美女の取り合わせだから「見られる絵」になっているだけではないか、という意地悪な疑問もわいてくる。

美しく、象徴性に満ちた作品を賞賛したい気持ちは十分だ。が、やはり物語を支えるのは、実在感のある人間の描き方だ。その部分でいささかの瑕疵が感じられるのは、やはり惜しい。

関連記事
スポンサーサイト



コメント

コメント(0)
コメント投稿
非公開コメント

プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

ご訪問ありがとうございます

月別アーカイブ

検索フォーム

QRコード

QR