メンゲルベルクのハム音

ポンちゃんさんのブログ『スターリングのある部屋』で公開されるSP音源を、ネコパパは毎回楽しみにしているのですが、このほどウィレム・メンゲルベルク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団ベートーヴェン、交響曲第5番がアップされました。

この再生音がとても素晴らしく、1937年の録音とは信じがたいほどです。
ぜひ、お聴きになってください。

メンゲルベルクといえば、テンポの変動が激しい、独特の演奏スタイルで知られた人です。
そのスタイルはバッハの「マタイ受難曲」や、チャイコフスキーの悲愴交響曲、ブラームス、マーラーのようなロマン派の音楽でことのほか顕著ですが、ベートーヴェンでは比較的抑制を効かせ、この「運命」なども意外にストレートです。
その分、音の強靭さやフレーズに込められた猛烈な意志の強さには、圧倒されます。
このスタイルであれば、現代のコンサートでやったとしても「古いスタイル」とか「歴史の遺物」とは呼ばれないでしょう。時代を超えた説得力をもった演奏です。

ところで、今回のポンちゃんさんの記事に、たいへん興味深い事実が書かれていました。
引用します。

よく言われることですが、メンゲルベルクのテレフンケン録音には「ハム音」が乗っており(このSPにも「ブーン」というノイズが入っています)、手持ちのCD(テルデック)では、そのハム音がきれいにデジタル処理(?)され消されています。そうすると、コンセルトヘボウ管の色彩豊かな音色や迫力が失われることとなります。最近は改善されたCDも出てきていますが、やはりそのような処理がされていないSPの直接再生には素晴らしい魅力を感じざるを得ません。

引用終わり。

確かに…アップされている音源には、全体にブーンという機械的なノイズがあります。原因は当時使われていたテレフンケンの機材か、それとも電源環境の問題でしょうか。決して鑑賞の邪魔になるものではありませんが、鮮度の高い録音にあって時代を感じさせるものになっています。
ネコパパにも手持ちのCDがあるので、聞いてみました。
「テレフンケン・レガシー」というシリーズでこれが出たときは、随分優れた復刻と思ったものです。



音圧が高く、ズシッとくる音にマスタリングされています。
針音はかすかで、ハム音は全く聞こえません。
でも、確かに加工した感じはありますね。ノイズを抑えた分、低音を増強した感じです。ポンちゃんさんの言われるとおり、音色の多彩さが薄れ、上から黒く塗ったような音になっています。
YOUTUBEには同一音源で複数の動画が上がっていますが、これなんかレガシー盤に近い音と思います。


じゃあ、ほかのCDはどうなんでしょう。
気になります。そこでさらにYOUTUBEを捜索してみると、キングレコードから出ている復刻レーベル「オーパス蔵」のジャケット画像を掲げたものが見つかりました。



たしかにCDの音ですが、これはハム音がしっかり聞こえますね。


これがオーパス蔵のものだとすると、同社スタッフは敢えてカットしないで復刻したようですね。SP盤に相当忠実な再生音です。

SPそのものを再生した動画もありました。



盤の状態は今ひとつのようですが、ハム音は、確かに聞こえます。



こうなると、昔出ていたLP復刻盤も気になってきます。
でもネコパパ、メンゲルベルクの「運命」のLPは、持っていないんですね。

そこで思い出したのは、かつてキングレコードの倉庫で、テレフンケンから輸入した金属原盤が大量に発見された事件です。あれは1970年代だったでしょうか。
これが驚異的な音質だということで、限定盤LPが出たのです。
その後、キングとテルデックは契約切れとなり、件の原盤はすべて本社に返却されたとの噂でした。
そのときのLPは、現在もごくたまに市場に出ます。高価ではないものの、それなりに珍重されている様子。確か「運命」もありました。
どうせなら、あれを聴いてみたい。



でも、聴くのは難しいだろうなあ…
ところがなんと、イギリスの音源サイト「The Music Parlour  Historical」がこれを収録していて、さらっとダウンロードできたのです。

これが驚きの音でした。
ハム音は聴こえません。
そして、音のバランスが違います。弦楽器がバリバリ前に出てくる、腰高な音になっています。
最初は、とても同じ音源とは思えませんでした。
でも、フレーズのアクセントのつけ方、テンポの動かし方をじっくり聴いてみると、間違いなくメンゲルベルクのものです。記載データも Recorded: 4 May 1937であっています。
それにしても同一録音でここまで音が違うなんて、あり得るのでしょうか。
キングの原盤は別テイクが使われた?
それともThe Music Parlourのスタッフがかなり手を加えたのか?

SP時代というのは、本当に謎が多いです…

<2018.4.18追記>
ポンちゃんさんのコメントをきっかけに再検索したところ、キング盤は別テイクどころか、1942年4月15日録音の再録音盤であることが判明しました。
日本でもドイツでも2種類の録音が長年に渡って混同され、すべて1937年録音と記されて出回っていたようです。いろんなことがあるんですねえ…
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コメント

コメント(20)
No title
メンゲルベルクの音源は結構持っていますが、確かにLPや復刻CDを聴いてもハムそのものは聞こえませんが、同じ録音でも復刻レーベル「オーパス蔵」は確かにはっきりと「ブ~~~ン」と連続で聴こえますね。
以前ブログで紹介した「チャイコフスキーの交響曲の名盤(名演奏)」で、私は「オーパス蔵盤の復刻CDは、何故かハイカットされていないので、ヴァイオリンの音が良いのですが、ハム音が目立ち、気になります。昔のLP復刻盤の方が聴きやすい音のような気がします)」と書いたことがあります。
それぞれ音に対しての評価は良くわかりませんが、SPレコードで聴いてみたいものですね。

HIROちゃん

2018/04/17 URL 編集返信

No title
> HIROちゃんさん
メンゲルベルク「運命」のSP盤は、行きつけの名曲喫茶が架蔵していますので、こんどハム音にも注意して聞かせてもらうことにします。
蓄音機で聞く音は独特のものがあり、盤質さえ良好なら、楽音がノイズに打ち勝ってせり出してきます。そうなると針音だろうがハム音だろうが、ノイズは気になりません。
それに比べるとLPの鳴り方は実に繊細で、わずかなノイズも気になることがあります。謎に満ちた音の世界です。

yositaka

2018/04/17 URL 編集返信

No title
録音方法の変遷とともに、収録されている情報量が飛躍的に増えていますから、ひょっとすると再生機器の方が追いついていないところもありそうな気がします。
メンゲルベルクのブラームスをCDで聞いた記憶では、ハム音の記憶はありません。
そもそも我が家の簡素な再生装置では、音源のハム音なのか装置のハム音なのか識別が難しそうです。
少し暖かくなって窓を開けると生活音が入ってきますし、それ以前にわたしの部屋を寝床と決めたまるちゃんのイビキがひどくて…

gustav_xxx_2003

2018/04/18 URL 編集返信

No title
メンゲルベルクは私が最も好きな指揮者の1人です。大ファンと言えるでしょう。
楽譜を無視したようなフレージングと音作り、でも聴いているうちに(この解釈・演奏が正しいのかも)と思えてくるんです。
(メンゲルベルクの録音の音質が1970年代中盤以降くらいのクリアな音になったら無敵なんだけどなぁ)といつも思っています。
技術の進展によりいずれそうなるかも?と密かに思っているんです。

不二家 憩希

2018/04/18 URL 編集返信

No title
> gustavさん
情報量は確かに飛躍的に増大していると思いますが、人間の耳の性能が変わるわけではないので、情報量がそのまま心地よい音に結びつくとは限りません。今回思ったことは、録音当時の音と現在CDなどで聴ける音とは相当な違いがあるということでした。普段はそんなことは気に止めず、今鳴っている音に気持ちを傾けているだけなのですが、こうして「ハム音」というひとつの問題提起があると、今まで気付かなかった局面に気づくことになります。それがなんとも面白く思ったのです。

yositaka

2018/04/18 URL 編集返信

No title
> 不二家 憩希さん
クラシックでは楽譜が大事なのですが「作曲者の意思」というのもひとつのフィクションで、結局は聞き手にどれだけ説得力がある演奏ができるかが問題なのだと思います。メンゲルベルクはそれほど頻繁に聴く人ではないのですが、こうしてじっくり対峙してみると、一音一音の共感音圧の強さに驚きます。彼が歴史と運命の翻弄によって戦後活動できなかったことは実に残念なことでした。

yositaka

2018/04/18 URL 編集返信

No title
こんばんは。記事を興味深く拝見させていただきました!
私が推測するに、テレフンケンSPとキングLPは、別テイクではないかと思います。
根拠としては、yositakaさんご指摘の通り、キング盤は弦が非常にマイクに近く感じる一方、テレフンケンSPは弦からマイクが離れているようです。
更に、決定的だと思うのが、私がアップした音源の23分50秒付近で、トランペットが大きく音を外していますが、キング盤の同じ個所にはそんなミスはありません。
ただ、ミスを編集で綺麗にしている可能性もあるので、何とも言えませんが・・・。

ポンちゃん

2018/04/18 URL 編集返信

No title
もう1点追加です。キングLPとテレフンケンSPで、盤の切れ目の個所が違う部分があります。具体的には、キング盤は23分55秒の部分で6面目と7面目を繋いでいますが、私がアップしたSPは、楽譜でいうと4小節後の24分14秒で繋いでおり、明らかに異なる箇所で面割りをしているのです。
可能性としては、「演奏自体それぞれ別物」または「同一演奏であるが2系統で録音が行われた」のいずれかと推測されますが、私は前者の可能性が高いかなと考えます。

ポンちゃん

2018/04/18 URL 編集返信

No title
> ポンちゃんさん
なるほど別テイクですか。
可能性は大ですね。テレフンケンは日本にはドイツで使用したものとは別の原盤を送って来たのかもしれません。でも、これまでそんな指摘をした人はあったでしょうか。チャイコフスキーの『悲愴』は二種類のテイクが混在していたことが話題になった覚えがありますが、『運命』でも似たことが起こっていたのかもしれません。マトリックス番号の確認でわかるのでしょうか。
Music ParlourではTelefunken SK 2210~13という番号が載っていましたが、これがキング版のマトリックス番号なのか、それともレコード番号なのかは不明です。

yositaka

2018/04/18 URL 編集返信

No title
> ポンちゃんさん
そこまで違うとなると、別演奏の可能性は限りなく高いですね。となると、ますますそうなったいきさつが知りたくなります。
どこかでこのLPを発見したら、少なくともライナーノーツは立ち読みしてみようと思います。この件に全く触れていないようなら、その筆者はろくに音を聞いていないことになるかも…

yositaka

2018/04/18 URL 編集返信

No title
> ポンちゃんさん
発見しました。浩瀚な「第五」データを展開しているサイト「第5番の部屋」によりますと、独テルデックのCD、4509-95515-2と国内盤LP、MZ5101は1942年4月15日の別録音ということが判明したそうです。
http://www.geocities.jp/goshikinuma2/page056.html#lcn005
MZ5101は金属原盤発見以前からキングで出ていたLPですから、日本ではいつのまにか原盤が入れ替わっていて、少なくともLPに関しては、42年盤がずっと出ていたのですね。
それどころか本国テルデックも当初は区別が付いておらず「レガシー」で見直して気がついた、という塩梅のようでした。別テイクどころか5年も後の録音だったとは…まだまだ知らないことは多いとつくづく思いました。

yositaka

2018/04/18 URL 編集返信

No title
> yositakaさん
「Telefunken SK 2210~13」はドイツ・テレフンケンのレコード番号で、マトリクス番号は「022110~022117」となります。ドイツ・テレフンケン盤がYoutubeにアップされていました。
https://www.youtube.com/watch?v=lly2wGdGnFo
これを聴くと、ハム音はちゃんと入っており、トランペットのミスと6面目と7面目の面割りも私のSPと全く同じでした。

ポンちゃん

2018/04/18 URL 編集返信

No title
> yositakaさん
1942年の再録音があったのですね!知りませんでした。
ちなみに、私が持っているテルデックのCD(WPCS-4079)は1937年録音と謳われていますが、聴いてみるとハム音なし、トランペットのミスなし、面割り相違ということで、1942年録音の間違いであることがわかりました。
テルデック社内でもこんな重大な間違いがあるとは!

ポンちゃん

2018/04/18 URL 編集返信

No title
初めまして。これは私もSPで持っていて既にデシダル化しているので、ハムのレベルを確認しました。確かにちょっと大きめです。元の50Hzはそれほどでもないですけれど、150Hzが相当に高いのでこれは聞いて分かると思います。私は聞いた時に、ハムの音の記憶はありませんが。

SP盤は中々難しくて、同じく30年代のフルトヴェングラーやトスカニーニも、盤による違いがかなりあります。音が気に入らなくて、フルトヴェングラーは三枚目、トスカニーニは二枚目でやっと気に入るのが手に入りました。メンゲルベルグは、あまり他の盤が見つからなくて、まだ一枚目です。

残念ながら、どうも盤が自分にとっては当りでなかったようで、そちらの印象が強くてハムまでは気が回らなかったです。うちにあるのはドイツ盤(SK2210-2213)ですが、マトリックス番号は同じなので元音源は同じだと思います。うちにあるSPと比べると、opus蔵の元SPは信じられない程に良い状態です。でも微妙に編集方針が違うので、やっぱり自分でSPを探すしかないです。

如月

2018/04/19 URL 編集返信

No title
> 如月さん
ようこそ。コメントありがとうございます。SP盤のデジタル化を緻密に進めておられるとのこと。趣味を存分に楽しんでおられるんですね。
SP盤は状態が命というのは、ここ3ヶ月購入を続けてみて痛感しました。ワルターの「田園」を続けて3セット買って、はたと「病膏肓」の文字が頭に浮かんだのです。
opus蔵のスタッフも、どうやら「病人」の集まりらしく、一つのCDを作成するにも数多くの同一盤を用意して、状態の良い面を選んだり、一音だけ音の歪む箇所を別の盤で補ったり、大変な手間をかけているようです。ちょっとでもSP盤に触れると、その気持ちがよくわかるんですね。
今後もよろしくお願いします。

yositaka

2018/04/19 URL 編集返信

No title
ああぁ、三枚ですか。お気持ちとても良く分かります。私も何故か三種類持っているSP盤があります。中々理解してもらえませんけれど、まぁ、そこにSPがあるから、とでも言うしかないのでしょう。オーディオに関する伝説にあまり興味はありませんが、SP盤だけは違いがあるとしか言いようがありません。

何故か楽しめる盤と、空虚にしか響かない盤があります。とても不思議です。そしてちょっと迷っていたワインガルトナーの1932年の5番を買う事にしました。ほんと病膏肓です。

如月

2018/04/20 URL 編集返信

No title
> 如月さん
SP盤だけは違いがある…何か他のメディアでは感じられない磁力が感じられますね。それは今では失われてしまった存在の持つ力でしょうか。LP復刻は盛んですが、SPが再生産されることはまずありえないという事実が力を生み出しているのかもしれません。
ワインガルトナーは、オークションの動向を見ると入札も少なく、もはや過去の人という扱いかもしれません。でも、懐古的な意味だけではない、現在も通用する魅力が確かにあります。

yositaka

2018/04/20 URL 編集返信

No title
二つの「運命」について追加報告します。
まず、別サイトで言及されていたマトリクス番号のこと。驚いたことにどちらの録音も番号が同じだそうです。これではテルデック本社も間違えますよね。
http://fast-uploader.com/file/7079701664496/

それと、名曲喫茶で聞かせていただいた国内盤SP。
蓄音機のサウンドボックスに耳を近づけてもハム音は聴こえず、弦楽器が前に出た音で、どうやら1942年盤のようでした。
マトリクス番号は同じですが、物品税刻印は12、昭和19年、1944年製造と推測されます。どうやらこの時期には既に新原盤を使用していたと思われます。戦時下、いったいどうやって原盤を運び込んだのでしょうか。

yositaka

2018/04/26 URL 編集返信

No title
名曲喫茶で聴かせて頂いた「運命」1942年盤のようでしたね。
1942年「テレフンケン」は、ドイツ国営放送向けに高音質のマグネットフォン録音をしていたようなので原盤は、テープ録音かもしれませんね。
ナゼ日本にあるのか考えられるのは、イ8号潜水艦が、ドイツから帰国の途についた時ドイツ海軍のウエネカー中将宛て託送品4箱の中にありレコードの技術指導に来日していた「テレフンケン」社員の手で制作されたのではないかと根拠が無い妄想をしています。

チャラン

2018/04/27 URL 編集返信

No title
> チャランさん
1942年に録音したものが1944に発売されるのはクラシックとしてはいいテンポですが、時代が太平洋戦争真っ最中であることを考えると、なかなか凄いです。同盟国ドイツも連合国側に巻き返され窮地に追い込まれている最中に、呑気にレコードの原盤など運んでいたのですから。金属原盤は、ロケットエンジンの設計図など、他の機密情報のカムフラージュのために、一緒に潜水艦で運搬されたのでは、というこれも妄想。

yositaka

2018/04/28 URL 編集返信

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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