北と南の風が


グリーグ ピアノ協奏曲イ短調
ファリャ スペインの夏の夜

クリフォード・カーゾン(ピアノ)
アナトール・フィストラーリ指揮 ロンドン交響楽団(グリーグ)
エンリケ・ホルダ指揮 ロンドン新交響楽団(ファリャ)

■1951.1(ファリャ)1951.10(グリーグ)
■米ロンドン



この二曲の取り合わせがいい。
北と南の風が、レコードの各面から吹いてくる。

グリーグのピアノ協奏曲は中学時代、テレビで中村紘子の演奏で聴いて以来、ずっと好きな曲。
冒頭のティンパニに導かれるピアノの和音から、耳をひきつけて離さない魅力を感じる。
全編を通して流れる、北欧の風の歌を思わせる旋律は、他にもありそうで、決してない独自の魅力を持っている。
規模は決して大きくないが、三つの楽章の一つとして、聴き劣りがしたり、退屈になったりする部分がない。
グリーグは「大作」を書かない人だった。これはむしろ例外。一世一代の力を込めながら、できた結果はさりげなく自然で、しかも隙がない。素敵な仕事だと思う。
ファリャの曲は対照的に、南欧の熱を持った情緒が流れる佳曲。実質はこれもピアノ協奏曲だが、ガーシュウィンの『ラプソディー・イン・ブルー』と同じように、曲の雰囲気をぴたりと表した標題がよい。

クリフォード・カーゾン。
生前は、玄人好みの地味なピアニスト。しかし現代の評価では、まぎれもない巨匠だ。
タッチは弱く、表情は淡々として、豊かな歌も、心のときめきも、目だってあらわすことがない人。
このグリーグもファリャも、あえて豊かな表情を避けているかのようだ。
早くも遅くもない、中庸な足取りをみだすことなく、黙々と歩きつづける。
しかし、弱音の語りの部分になると、オーケストラの演奏がよいこともあって、心に襞に沁みとおるような、各楽器との対話があらわれる。ふだん、あまり心に留めなかった細部に、思わぬ美しさがあったことに気づかされる。こういうところになると、カーゾンは雄弁だ。
協奏曲というよりも、室内楽のピアノ。
ダイナミックな高揚よりも、その合間に潜むささやきに重きを置いた音楽。

純白の響きの中に深遠を秘めた、彼のピアノが、やっと聴き手に評価されるようになったのは、彼の死後になってからだ。
それは、英デッカに膨大な録音を残しながら、片っ端から、発売をキャンセルしたためでもある。
これら未発売だった音源や、セルやクーベリックなどと共演したライヴ録音が私たちの耳に届くようになって、私たちははじめてカーゾンの名を巨匠として称えるようになった。

この深緑のジャケットデザインを見て、思わず心が動いた。
レコードが貴重な品であった時代を髣髴とさせる、半世紀以上も前に発売された、米ロンドン盤。内袋には大きく「made in England」と記載。レコード自体は、高品質で知られる英デッカ製で、取り出してみるとずっしりと重い。分厚いフラット盤なのだ。

ワルター協会盤と同じく、神保町の「イディア・クラシックス」の処分品ボックスから入手したもの。ちょっとしたお宝になりそうな。

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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