日本イギリス児童文学会研究大会2017⑥マクガフィンとしての「本」



c. 時空を超えて――When You Reach Meにおける装置としての『五次元世界の冒険』
浅井千晶(千里金襴大学)

(概要)
レベッカ・ステッド(1968-)はニューヨーク生まれの作家で、1970年代末のマンハッタンを舞台に12歳の少女ミランダの視点で語られるタイム・ファンタジーWhen You Reach Me(邦題「きみに出会うとき」2009東京創元社)でニューベリー賞を受賞した。この作品では1962年に同賞を受賞したマデリン・リングル(1918-2007)のサイエンス・ファンタジーの古典A Wrinkle in Time(「五次元世界のぼうけん」1962)が、物語の展開装置として効果的に用いられている。
第一に、同書はミランダの愛読書であり、彼女は常にこの本を携帯し、日常の出来事や身近な人物を同書のそれと比較している。同書がミランダの行動の座標軸となっているのである。
第二に、ミランダが同学年のマーカスやジュリアと、同書を元にした時の性質とタイムトラベルについて議論することで、複数の時が並行して存在し、時空を越えて未来から年老いたミランダが物語世界にやってくる設定に説得力が生じている。
第三に、それぞれの登場人物の同書の解釈と受容が個性を際立たせるとともに、語り手のミランダとこの本のかかわり方は彼女の成長の証ともなる。
本発表では以上の観点からWhen You Reach Meにおける装置としてのA Wrinkle in Timeの機能を分析し、登場人物が一冊の本を共有することの意義について考察する。





■「私の本」が果たす役割

A Wrinkle in Timeは、ニューベリー賞を受賞し、ディズニーが二度にわたって映画化しているくらいアメリカではポピュラーな作品である。過去とつながる作品はタイム・ファンタジーと呼ばれるが、本作のように未来から人がやってくる場合は「ファンタジー」という言葉はあまり使われないようだ。

When You Reach Meの主人公ミランダは、この本を「私の本」と呼んで、大切にしている。ミランダの行動性格の座標軸と呼んでもいいだろう。
同級生のマーカスもこの本を読んでいるが、扱われている時間の流れに整合性がないと批判的である。
一方ミランダは、「名前にこだわる」という、マーカスとは別の観点でこの本を読んでいるため、設定の矛盾は問題にしていない。
その読みの違いが、ミランダ自身に時を越えさせるに至る大きな要因になっている。

ここには、同じ本でも人によって読み方が違うこと(読書の層の違い)に着目し、その違いによって登場人物の考え方や個性を明確に描き分けるという方法が試みられていると言えるだろう。
この方法は、作品世界に次のような効果をもたらすものになっている。

1ミランダの世界を広げる媒体となる
2ポピュラーな本を持ち込むことで、作品の世界観を読者に見えやすくする。
3本そのものが主人公の性格を表現する






■ネコパパ感想

浅井さんのご発表をお聞きしているうちに、突然内容を思い出しました。
物語の構成も、時系列でなく、初めのうちは何が起こっているのかわからない、でも読んでいくうちに、ジグソーパズルが出来上がってくるように、全体像がはっきりしてきて、最後にはすっきり納得する…そんなストーリーでした。

その中で重要な役割を果たしている「マクガフィン」が、この「五次元世界のぼうけん」という本なのですが、残念ながらこちらは「タイトルは聞いたことがあるな」という程度の認識でした。
でもこれ、ディズニーが60年代にテレビ映画化し、2018年には新たな劇場アニメとしてリメイク公開されるくらいの、アメリカでは人気本のようです。
日本では一度は翻訳が出ていますが、さほど有名ではないところを見ると、ちょっと文化的に合わないのかな。日本語版の宣伝コピーから推察すると、なんとなくアメリカンコミックス的な内容にも思えます。

でも、「知っている人が多い」本を物語の小道具に使うというのは、読書好きな子どもには大いに惹かれる要素ですね。もしも本作を読んだ時点では知らなくても、興味を抱き読んでみたいという気にさせる。
そういうことは、大人である私たちにもよくあることです。
まっとうな児童文学の読み手を育てる方法として、こんな「引用」を活かすのも有効かもしれません。

ところで、過去が絡むとタイム・ファンタジーだが未来が絡むとSFと呼ばれる…というのは、これまであまり意識していませんでしたが、たしかにそうかな、と思わせるお話でした。確かに未来と「ファンタジー」は、どこかしっくりこない、共存しにくいものがある気がします。
なぜだろう?またひとつ宿題をもらったようです。

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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