花野に眠る―秋葉図書館の四季

花野に眠る―秋葉図書館の四季
森谷明子




文庫: 345ページ
出版社: 東京創元社 (2017/8/20)
 
れんげ野原のまんなかにある秋葉図書館は、今日ものんびりのどか。
新人司書の文子の仕事ぶりも、板についてきた。けれど、図書館を訪れる人たちには、人知れぬ悩みがあるようで……やっぱり、毎日ふとした謎が湧きおこる。そんななか、図書館の隣地から古い白骨死体が! 季節のうつろいを感じながら、またまた頼もしい先輩司書の助けを借りて、文子は謎解きに挑むが……。
すべての本好き、図書館好きに捧げる、やさしいミステリ!
―東京創元社ホームページより
 
■第2弾は長編
 
シリーズ2冊目。1冊目の「れんげ野原のまんなかで」は、秋葉図書館立地の背景や、レギュラー登場人物の紹介にページを多く割いていることと、
短編集だったことで、事件そのものや、題材となっている書籍そのものについてはやや薄味に感じられるところがあった。
今回は、連作風の長編という趣向で、一応の主人公である文子、探偵役の能勢ら図書館員は脇に回って、読者は本をめぐる事件にじっくり付き合っていくことができる。
巻末には、「登場した本」として、物語の鍵となる署名が列記されているのも1冊目にはなかった工夫だ。
 
■登場した本
 
スーホの白い馬
ぐりとぐら
ディダコイ
タチ
シーラスと黒い馬
黒馬物語
ある小馬裁判の記
ちいさなろば
アッホ夫婦
町かどのジム
銀のシギ
だいくとおにろく
金をつむぐこびと―ルンペルシュテルツヒェン
ルンペルシュティルツヘン
しりっぽおばけ
ナルニア国ものがたり
いやいやえん
あなたのために―いのちを支えるスープ
ゆずりうけた母の味
旅の絵本
万葉秀歌
 
■同じだけれど違う…

序盤、特に本好きでもなく、とくに行きたい所もない、という心持ちの少年が、図書館で手持ち無沙汰にしている。
「どんな本を探しているの」と、文子が声をかける。
少年が、とっさに頭に浮かんだ「カラスの肉入りパイ」という言葉口にすると、それだけをを手がかりに、文子は即座に少年に本を手渡すのだ。

エリノア・ファージョン『町かどのジム』
松岡享子訳 エドワード・アーティゾーニ画  童話館



それを見た少年は、かつて読んだストーリーを鮮やかに思い出す。
「どうやって検索したんですか?」
唖然として質問する少年に、文子は答える。
「あたしの頭の中。でもね、図書館員なら、すぐ思い当たるわよ。検索語としてものすごくレアだから」

ところが少年は、これがかつて読んだ本とは微妙な違いがあることに気づく。
ストーリーが違う。
それは物語に登場するある場面。ジムが畑を荒らされないように、カラスを追い払うところだ。
少年の記憶では、ジムは犬と協力して畑を守っていた。そのことが少年自身の体験とも重なる。公園でからすと喧嘩してお母さんに怒られた記憶だ。でも平気だった。そのとき少年の横には、一緒に闘ってくれるスコッチテリアのケンがいた。物語の中のジムのように…でもなぜだろう。司書のお姉さんの渡してくれたこの本には、その犬が出てこないのだ…

同じことが、もう一冊の絵本にもあった。
『金を紡ぐ小人―ルンペルシュティルツヒェン』
グリム バーナディト・ワッツ絵 西村書店



「小人と名前当て」というふたつの小さな手がかりから、少年に絵本を差し出したのは、文子の先輩司書で、本シリーズの探偵役でもある能勢だ。
しかしここでも少年は、違和感を感じる。
「確かにこのストーリーだった。でも違う。この本はちっともこわくなかった。『あの時』読んだ本はこわくてぞっとして、それが忘れられなかったのに…」

わずかな手がかりからさっと該当の本を差し出す、図書館司書のお手並みの鮮やかさ。
さすがは図書館ミステリーだけあって、司書という地味な職種の隠し持つ「技」を、読者に強く印象付ける。
もっとも「図書館員ならすぐ」は、言いすぎかな?

少年の二冊に感じた違和感。この謎が、ストーリーを最後まで引っ張っていく力となる。
謎の解明はネタバレになるので、ちょいと「ほのめかす」だけにしておくけれど、
どちらも「同じだけど別の本」ということになる。

『町かどのジム』
松岡享子訳 三芳悌吉画 学習研究社



『ルンペルシュティルツヒェン』
ポール・ガルトン絵 童話館出版




本をめぐる謎解きのところは、ネコパパには読み応え十分だった。
本に対する読者の記憶と、挿絵の役割の大きさが、説得力豊かに展開されていたからだ。
この部分は、「児童文学論」「絵本論」としても十分に通用するレベルで、新たな研究の視点を提示するという意味でも刺激的と思う。

■テーマを暗示する一冊

さらに本書は、少年の置かれた立場を象徴する、読者に「これはぜひ読んでみたい」という気持ちを奮い立たせる一冊の本を登場させている。

それは文子が特別な思い入れを持って、「馬」をテーマにしたブックトークの一冊に選んだ本で、件の少年が、偶然見つけ、つい手にとって、読みふけってしまう。
それが、このミステリーの発端になっている。読み終わってみると、本書全体が「この本、気に入ってくれたらいいな」という作者のメッセージになっていたようにも思う。

とにかく、児童文学と絵本に心底、はまっている作者なのだ。
そうなると、この本、読まないわけにはいかない…

『ある小馬裁判の記』
ジェイムズ・オールドリッジ   中村 妙子訳  評論社




■ミステリーとしては…

おいおい、そんな本の話ばっかりで、肝心のミステリーとしての出来はどうなの?という声も聞こえてきそう。
ミステリーをそんなに読むわけでないネコパパには、判定は難しい。けれど、連作長編という規模にふさわしい伏線、仕掛け、そしてミステリーには付きものの、過去の因縁話がぞんぶんに絡み合い、面白い内容になっている。
図書館の児童室が主な舞台だけに、「白骨死体が!」 なんてアオリはあるけれど、そっち方面は適度に避けられている。好ましい。
ただちょっと、謎のネタとこんがらかった仕掛けが多すぎて、ちょっとわずらわしい気がしてくるのも事実。「仕掛け」に凝るよりも「人物」をもうちょっと描いてほしかったなあという気もする…
まあ、そのあたりは好みの問題でしょう。

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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